量子コンピューターで用いられる量子ビット(キュービット)は同時に「0」と「1」という2つの状態で存在できるので、1ビットが「0」か「1」かの値を取る従来のコンピューターに比べてはるかに高速な計算ができます。Nature Nanotechnologyに掲載された論文によると、オーストラリアの研究者が、さらに安定した量子コンピューターを作れるようになるという、新たな「量子ビット」を生み出したそうです。

A dressed spin qubit in silicon : Nature Nanotechnology : Nature Research

http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/full/nnano.2016.178.html

The “Dressed Qubit” - breakthrough in quantum state stability | UNSW Newsroom

http://newsroom.unsw.edu.au/%E2%80%9Cdressed-qubit%E2%80%9D-breakthrough-quantum-state-stability

これはオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学の研究チームの成果。YouTubeでは、チームのメンバーによる解説ムービーが公開されています。

The “Dressed Qubit” - breakthrough in quantum state stability - YouTube

Arne Laucht博士らのチームが生成したのは「dressed qubit」と呼ばれる新たな量子ビット。



dressed qubitは、強い振動電磁場とシリコン中の単一原子のスピンを結合させることで作られ、電磁界の服を着たような量子ビットだとのことで「dressed」と名付けられました。dressed qubitは従来の標準スピン量子ビットに比べてはるかに長い量子情報を持てるようになっており、今後、確かな量子コンピューターを作る上で、大きなアドバンテージになると考えられています。





Andrea Morello教授とLaucht博士



量子ビットの、「0」と「1」を同時に持つ「重ね合わせ」状態という性質が量子情報処理を可能にしています。しかし、「重ね合わせ」とは、2つの状態が「区別できない」ということなのですが、環境との相互作用という「結果を見ない測定」が状態を確定してしまうため、だんだんと「2つの状態が区別できない」ではなく混合状態になってしまいます。この、だんだん量子性が失われていく過程をデコヒーレンスと呼びます。

このデコヒーレンスを抑え、量子ビットの重ね合わせ状態を長く保持できるようになることが、強力な処理情報を持ち続けられるポイント。そのために、教授らは研究を進めました。



教授らが生成した「シリコン中の単一原子のスピン」は世界トップレベルで量子情報を保持できる時間が長く、「dressed qubit」では、従来に比べて量子情報の寿命を10倍に伸ばすことに成功しました。



FMラジオを通して声を伝えられるように、教授らはマイクロ波電磁場の周波数を調整することでdressed qubitのコントロールが可能。



一方で「dressed」ではない量子ビットは制御フィールドの振幅が断続的に必要で、これはノイズや外部からの妨害に弱いAMラジオに似ているとのこと。



ちなみに、「量子ビット」の仕組み、重ね合わせ、量子もつれ(エンタングルメント)などについては、以下の記事が参考になります。

従来のPCの1億倍高速な量子コンピューターはどのような仕組みで動いて物理的限界を突破しているのかがわかるムービー「Quantum Computers Explained」 - GIGAZINE



北海道大学大学院情報科学研究科光エレクトロニクス研究室量子情報のページ

http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/hikari/qit/intro_qbit.html