『10年大盛りメシが食える漫画家入門ふりかけ付き! (星海社新書) 』(樹崎 聖:著、菅野博之:監修/講談社)

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 出版不況といわれ漫画雑誌は発行部数を減らしている昨今だが、未だに漫画は主要な娯楽でありファンも多く、漫画家になりたいという人たちも後を絶たない。とはいえ、やはりデビューは大変なものだし、たとえ一度掲載されても次がないということも多々あるという。もし、読者諸氏の中で漫画家を目指し努力を続ける人がいるなら、是非ともお薦めしたいのが『10年大盛りメシが食える漫画家入門ふりかけ付き! (星海社新書) 』(樹崎 聖:著、菅野博之:監修/講談社)だ。

 著者の漫画家・樹崎聖氏は1987年に『週刊少年ジャンプ』でデビューし、1996年より『スーパージャンプ』で連載された『交通事故鑑定人 環倫一郎』(梶 健吾:原作)が大ヒット。現在は漫画家有志団体「漫画元気発動計画」の代表も務め、後進の育成や電子漫画サイト「Domix」の配信にも力を注いでいる。本書ではその経験をもとに、演出論や高度なパースの取り方などを扱っているが、全くの未経験者が入門書とするにはハードルが高いだろう。まえがきにも「最低でも一本は自分の作品を仕上げてから読んでもらった方が良いと私は思います」と書かれるほどだ。

 技術指南書としてのレベルがとても高い本書だが、小生が注目している項目はアシスタントとして採用された場合の人付き合いや編集者との付き合い方だ。実際、漫画界で生き残りかつ成功して「大盛りメシ」を食っていくための秘訣とはこの積み重ねではないかと思っている。技術は最低限の条件であり、デビューした人間なら誰もが持っているのだ。それならどこで差が出てくるかといえば、「人の縁」ではないだろうか。

 一般的に漫画家は「部屋にこもって仕事するから、人付き合いの煩わしさがない」と思われているかもしれないが、それはとんでもない誤解だ。樹崎氏によると「アシスタントにとって一番大切なのは空気を読み仕事場のムードを良くすることです」という。締め切りに追われ、どうしてもピリピリとした雰囲気になりやすいのだが、一人ひとりが的確にコミュニケーションを取り合えば断然仕事を進めやすくなる。なにより、漫画家からの心証も良くなるだろう。そうなれば技術も教えてもらいやすくなる。どんな仕事や学業でも積極的に取り組めば成長は早いし、仲間を大切にできる人間はその分「人の縁」にも恵まれるはず。

 次に編集者との付き合い方だが、まず樹崎氏は良い編集者の基準として自分の描きたい方向性を外さないで作品について指導、というか話をしてくれることが大切だと述べている。なるほど、確かに漫画家の個性を引き出すのは大切だ。勿論、掲載誌の作品傾向もあるだろうが、漫画家がそれを踏まえて描いているときに、まるで方向性の違う提案をされても混乱するだけだろう。

 もし、そのような一方的に価値観を押し付けてくる編集者と出会ってしまった場合、どうするべきか? 「どんな努力をしてもこの人とは合わないと思ったら、その編集者と作品を作るのは諦めることをおススメします」とある。そうだろう、納得出来ない作業をやらされては苦しみしか残らない。では、どのようにすれば縁を切れるか。実は意外に簡単で「無視」するだけでいいそうだ。編集者というのはやる気を感じない相手には興味を持たないとのこと。連絡が来なくなる分、さらりと次の作品へと取り組もう。アシスタント時代に繋がった「人の縁」があれば、そこから別の編集者を紹介してもらえるかもしれない。

 本書は漫画家として生きていくための技術指南書だが、このような人付き合いの話などは、すべての人たちにも役立つのではと小生は思っている。やはり、大抵の仕事は一人で完結されるものではなく、他者との連携で成り立つものだ。その際、互いの信頼関係があれば、それだけで不安要素も減るし、次に何をするべきかも分かりやすくなる。小生自身も「人の縁」にはなにかと救われているだけに、せめて人様の手伝いくらいはしたいものである。その前に、まずは自分の腕を上げるのが優先か……。

文=犬山しんのすけ