なぜ出世する男は経理部にも評判がいいのか

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■あの支店長が食べるのは焼き肉ばかり

ベテランの経理担当者は、「多くの精算書や領収書・請求書を見ていると、その社員の好みや行動の傾向まで分かる」と語る。飲食経費でいえば、高級な店舗にこだわる人なのか、グルメ志向か、B級グルメの店が好みなのかも見えてくる。また脂っこいものが好きか、和食好みかも把握できる。

たとえば取引先とのランチミーティングや夜の会食でも肉類ばかり食している支店長もいる。同じ店にこだわる人もいるが、彼はどの店に行っても基本は焼き肉である。会議の弁当代に吉野家の牛丼のレシートが出てきたときにはさすがに驚いたそうだ。

一般的には、酒を飲まない社員は、接待の宴席は少ない。酒を飲むかどうかで飲食経費の支出額は相当異なってくる。ゴルフが好きかどうかも同様である。ゴルフが嫌いな営業の管理職は、自ずとゴルフ接待の数は減る。

経理担当者は、社員の経費の使い方を通じて、人となりを確認している。特に女性社員が、細かなところまで見ていることに驚くことがある。精算書の相手方の会社名や参加者だけでなく、領収書からどんな店舗なのか、どのあたりで活動しているのか、レシートから酒の種類や食べ物の好みまで把握していた担当者もいた。彼女は書類を見れば、20数人の営業部員の誰が提出したものかほぼ分かるという。

このように嗜好や行動の傾向が知られるくらいならまだよい。場合によっては自らの評判にまで結び付くことがある。

■「マイラー」と揶揄される副部長

あるメーカーの副部長は、部下が地方への出張の案件を相談すると、いつも「僕も一緒に行くよ」というのが口癖である。自分のマイルを増やすためだと思われている。部下からすれば、上司に同行すると言われると断りづらい。昨年彼が転任してきてから旅費交通費の予算の遂行状況がかなり上がったという。

彼は航空機会社のカードだけでなく、コンビニや家電量販店などのポイントカードも持っている。家電量販店では、文具やオフィス用品は何でも揃っているので隙あらば使おうとする。また貯まったポイントをどのように他のポイントに振り替えると有利になるかといった知識や知恵も豊富だ。

若手社員からは、高い給料をもらっているのに、なぜあそこまでこだわるのか理解できないと噂されている。部内では「マイラー」と呼ばれているそうだ。また経理部も今年度の旅費交通費がかさんでいることは把握しているという。

もし彼が、「出張では長時間の移動で身体の負担も大きいのだからマイルをもらってもいいじゃないか」「文具やコピー用紙を買っても、ガソリンを入れても、わずかのポイントしかつかない。これはお駄賃だ」と言い訳をするとしたら大間違いだ。

出張であれば日当がついてそれに伴う経費の対応もしている。また物品の購入については就業時間内であれば、それは業務だし、時間外であれば残業代の適用の有無が問題になるに過ぎない。

会社の経費は、あくまでも他人のお金であって、そこから生まれたマイルやポイントは、基本は会社のものである。ただ煩雑さの関係や、効率的に仕事を進める観点から、あえて会社はうるさく言わないだけだ。

それでもこの副部長は、会社も自分もなんら損をしていないと言うかもしれない。しかし同僚の評判を落とし、部下の信頼を失うという意味では大きな損失を被っている。本人がそれに気づかないだけだ。

■自らの行動でいい評判を作り出す方法

つい最近、面白い話を聞いた。その女性担当者には、取引先を接待した経費の書類が回ってくる。法人の場合は、料亭での会食が中心で、役員または部長クラス、課長クラス、担当者クラスの3人を招いて、自社の3人の社員が応対することが多いそうだ。

年間ではかなりの数の接待交際費の精算を扱う。具体的には、料亭での飲食費、相手に渡す手土産代、それに帰りのタクシー代になる。タクシーチケットは、相手方の参加者に一人一枚ずつ渡している。

そして接待が終了した後に、タクシー会社から彼女のところに乗車した分の精算書類が送られてくる。それを見て彼女は気づいたことがあるという。

相手方企業の役員・部長クラスの出席者は、会食の会場からほど近い地下鉄や私鉄、JRの駅までタクシーに乗っていることが多い。当然精算するタクシー代も安くつく。一方で担当者クラスは、距離のある自宅まで乗車しているのだそうだ。

それを見た彼女は、「やはり会社の中で、出世していく人は自らを律している。それにひきかえ若い社員ほど会社にもたれかかっているから将来がないのよ」と私に話してくれた。それに対して私は少し違うのではないかと感じた。

むしろ役員・部長クラスの出席者が最寄りの駅までしかタクシーを使わないのは、相手企業の担当者(この場合は彼女)が、精算したときに「あの会社の役員さんは、最寄り駅までしかタクシーを使っていません」という話が、会食を一緒にした相手方の部長に伝わることを期待しているからではないだろうか。相手方からいい評判をとるためである。「そこまで見通せているから彼らは社内で出世するのではないか」と彼女に話した。自らの嗜好や行動の傾向を知られることを逆にうまく利用していると思ったのである。

経理担当者の中には、「人事部の評価とは異なる人間性が書類から見えてくる」という人もいる。それを他人に気づかれず八方美人的にうまくやっている姿を見ると、「彼には違う面があるのだ」と指摘したい気持ちになることがあるそうだ。

そうだとすれば、書類を通じて見られることを逆手にとって、経費の綺麗な使い方をすることによって自らの評判を高めることも一つの戦術であると思うのだ。

(人事コンサルタント 楠木新=文)