山田敏之(やまだ・としゆき)●こと京都株式会社社長。1962年、京都府京都市生まれ。大阪学院大学商学部を卒業後、約8年のアパレル企業勤務を経て就農。2002年、有限会社竹田の子守唄を設立、のち07年にこと京都株式会社に組織変更を行う。2014年にこと日本株式会社、15年にこと京野菜を設立。現在、日本農業法人協会副会長、日本食農連携機構理事、京都府農業経営者会議会長などを兼務する。著書に『脱サラ就農、九条ねぎで年商10億円』がある。こと京都>> http://kotokyoto.co.jp/

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こと京都の山田敏之代表は、九条ねぎを中核に白ねぎ、京野菜などにも事業領域を広げつつある。市場価格に翻弄されがちな農業経営を安定させるために、あの手、この手を考えている。販路の拡大や、補助金との向き合い方、組織形態と人材の育成と、より実践的な経営論が展開される。

■卸相場に一喜一憂しない体質

――多くの農業経営者は、品目ごとのポートフォリオに頭を悩ませています。価格の変動に対して耐性をつけたいと苦労しています。たとえば収益を安定させるための、ねぎと京野菜の売り上げバランスについてはどうお考えでしょう。

【山田】私は、ねぎに関しては一切悩んでないですけどね。京野菜は、別会社で扱っているので完全に切り分けています。バランス云々ではないです。京野菜は売れる物なのに、物がないから売っていないのが現状。それを売りやすくする。販売方法は熟考中ですが、グラムいくら、キロいくらで売るのではなく、1メニュー・1単価みたいなイメージです。

たとえば、賀茂茄子なら店で火を通して田楽で出せば700円ぐらい取るじゃないですか。だったら火を通す前の賀茂茄子を皿に盛って150円で売るとかね。キロいくらではなく、1商品、1パックで売ろうかなと思ってます。

――なるほど、重さではない勝負に持ち込むのですね。

【山田】加工して冷凍にしますから、すぐそのメニューがつくれる形にして渡せます。京野菜はまったく違う領域になってくるでしょうね。

――おもしろいですねぇ。ほかのみなさんは、卸売り相場の乱高下に一喜一憂していますよ。

【山田】注目すべきは出口とも言える消費価格なんです。市場の価格は変動しますが、実際、卸商が実需者に年平均いくらで売っているのかという単価が一番のポイントで、どう調べるかです。そこを押さえて安定的に供給すれば、市場の変動に惑わされなくていい。

■農業もビジョンが問われる時代

――では、生産領域の課題って何でしょうか。

【山田】うちは「ことねぎ会(こと京都にねぎを納める生産者ネットワーク)」に入っている生産者が、それぞれ生産計画を立てます。そのなかで月によって多い、少ないがあります。その凸凹を「こと京都」が埋める生産体系を構築しました。京都だと、9月、10月、1月、2月はねぎができにくい。そこで足りない分をつくる。だから多すぎて廃棄されることもありますが、ロスが出るのを承知でつくっています。

――契約している農家の生産量は安定していますか。

【山田】うちの研修生や、大量に生産してくれるところはほぼ計画どおりやってくれますが、農家のオッちゃんとかは「ちょっと葬式があってなー」と平気でひと月ずらす(笑)。個人的事情で左右されすぎるので、予定どおりつくってくれたら単価も高く、ずれたら安くしています。がんばった人がちゃんと儲けられるような仕組みにしている。だからわれわれの生産に関しては、先ほど言った廃棄、ロスのほうが課題ですね。

――販路についてはどうでしょう。ラーメン屋さん、料亭さんなどBtoBが主体のようですが、どのように販路を開拓し、どんな取引先とお付き合いしているのでしょうか。

【山田】販路の情報が欲しかったらね、いまはビッグサイトや幕張メッセとかで食の展示会がいっぱいあるじゃないですか。あれに出るべきですよ。それが一番いいと思う。興味のあるところは来るし、どこが興味を持っているかというのも年によって変わる。展示会に出て調べたらいいし、情報を求めてくる人も多い。販路拡大を求めているのであれば、食の展示会で生の声を聴くべきですね。

――いろんなお客さんと付き合ってこられて、ここいうタイプの相手はいい、悪いという基準はありますか。

【山田】相手が短納期を迫ったり、急に物を納めてくれと要求したりしてきたら、急だったら1.5倍の値段ですよ、などと話し合いで解決すればいい。嫌ならやめればいい。一番困るのは単価さえ安ければいいという相手。そういうところとは話をしません。

実際、こと京都は、一緒に組みたいと言ってくれる相手としか取引しません。国産で、おいしくて、安全・安心でという部分を大切にしたい方々と組みます。先般、グループの国産ねぎ専門商社である「こと日本」の展示会も開きましたが、「ここは一体、なんぼの価格で出してくれるのや」と聞かれたら、どうぞお引き取りください、です。いまでもそういうケースがありますよ。価格しか見てないところとは付き合いません。

――産地やネットワークが広がってくると、拠点倉庫や集荷場を含めて物流の問題が浮上してきます。

【山田】うちは全国にそれなりのネットワークを張ってるからいいけど、生産者の都合で、このエリアしかできない、と決めてもいいと思います。少量なのに最初から「全国をカバーします」と背伸びするのではなく、行ける範囲を確実にやっていく。地域の物流会社ができる範囲だけ配る。商品コストはこれ、物流コストはこれなので、それらを外して取りに来てもらっても結構ですよ、というのはアリでしょう。

――次に金融機関とのお付き合いについてお聞きしたいのですが。

【山田】いまは、あらゆる金融機関が農業に貸そうと動いています。政策金融公庫も、担保よりも、その人のビジョンや人となりで金を貸す仕組みをつくっている。逆にいえば、いくら担保力があっても計画のないところは借りにくい。ビジョンや人物が問われます。ただ、そうは言っても農業で、どんなビジョンや計画がいいかを一概には言えません。若い農業経営者が借りたければ、追い風が吹いているのは事実です。

■補助金は時間がかかりすぎる

――一方で、助成金や補助金もキャッシュフローの面では重要ですよね。

【山田】補助金については、六次化などの新しい事業に対して出すというのが多いですね。でも、うちは最初に4億円の投資をしたときは、ほとんど補助金をもらってません。最終的に機械を入れたときに、あてはまる補助金を4000万円ほどいただきましたが、施設に関してはもらってない。

補助金は申し込んでから支給されるまで時間がかかりすぎる。事業が1年遅れるからやめたんです。ある地域では補助金のメニューを見てから事業を考える農業経営者が多いと聞いてびっくりしました。順番が逆。事業プランを立てて、それに合致する補助金があったらもらってもいいと思います。

――補助金ありきではいけない、と。

【山田】そもそも京都市、京都府は農業があまり盛んではないから補助金の枠も少ない。僕ら、補助金が使えないのを前提にプランを考えました。先に補助金メニューを見てこれやろう、あれやろうと決めていたら絶対に失敗してたと思う。自分のビジョンなり、方向性が先で、それにハマった補助金を使うべきですね。

――法人格についてはいかがですか。個人の農家さんも、そろそろ株式会社にしなければいけないかなとか、農業組合法人も会社にしたほうがいいかな、と思案しておられる。どんな組織形態が望ましいのでしょう。

【山田】規模を拡大したければ株式会社で、現状維持なら現状でいいんじゃないですか。地域の集落を守るためだけで農業を続けるのなら、わざわざ法人に変えなくてもいい。個人で拡大する気もないのに法人格にするのはどうかな。もっとも、所得税は増えて、法人税が減っていく傾向なので、そのあたりのバランスは見ていかなければいけないでしょう。

――ずっと有限会社でやっておられるところもありますが、有限と株式の違いは……。

【山田】特にないと思います。有限会社は、2006年に廃止されて希少価値が出てきた。プレミア感があるかな。

■大企業が来る前に環境整えたい

――取引先から見たら、株式会社だと通りがいい。そんなイメージがあるぐらいですかね。

【山田】僕自身は、農業にはこういう人、工業にはこんな人が向いているというのは、ないと思ってます。その人がどう取り組むかだけなんです。少しでも農業に興味があれば、採用上の一要因になりますが、あとは挨拶、礼儀、笑顔、元気、そして向上心があればいい。

農業を目ざす人のなかには、営業や加工が嫌いという人もいます。だけど、うちにくれば社員なので全部やってもらう。結局は、その人に向上心があるか、ないか。採用してからも、経営理念の共有や外部からのコーチングはもちろん、年に2回は面接をしていますね。

福利厚生のようなものでは、社員全員で年3回会食したり家族を招いての懇親会を随時行ったりしています。また社員やその嫁さん、子ども、ご両親にも、誕生日にはお花を贈るようにしています。

――どこの農業法人も人材の確保を重要視しています。どんなタイプの人が農業経営に向いているでしょうか。

【山田】やはり大企業ですから決裁には時間がかかりますね。ただ、岩谷産業さんは海外拠点をたくさん持っておられるので、海外はお任せしようと考えています。仕事の配分ができれば、いい。だけど、技術や資本があって、知識があれば、組む必要はない。相手と組むことによるメリットがあれば、きちんと条件を伝えて確認することが大切。岩谷産業さんの技術でつくった冷凍九条ねぎは海外ビジネスにも耐えられるかな、という手ごたえがあった。現在、東南アジアのアッパーゾーンの店では築地から九条ねぎを仕入れるところもあるようです。航空便で運んで、半分、腐らせて捨ててるらしい。冷凍のニーズはありますよ。

――モチベーションですね。

【山田】ええ、そうです。社員教育というのは、まず経営理念を理解し、共有するところから始まります。自己啓発も支援して、食事会などでコミュニケーションを深める。研修生の期間は5年です。最初の2年で体力をつけて、残りの3年で事業計画を組んで、生産体系を覚える。5年目に独立後の具体的な計画を組んでもらって、独立後は、その人がつくったものは全部買上げます。

――最後に、ぜひお聞きしたいのですが、農業で儲けるために一番重要なポイントは何でしょうか。

【山田】いまがタイミングだということです。本当にいまが勝負時。いまや、と思ってますから、投資しています。企業も、いまどんどん入ってきてます。早くやらないと乗っ取られてしまう。大企業が九条ねぎを取りに来たら、すぐにひっくり返されますよ。その前に「こと京都」「こと日本」と組んだほうがいいという環境を整えたいんです。

(山田敏之(こと京都)=談 大和田悠一(有限責任監査法人トーマツ)=聞き手 山岡淳一郎=文・構成)