田舎は不完全?

写真拡大

■地方移住希望者は「安定」を求めていない

日本全国の「田舎」と呼ばれる地方のまちが、地域外から若者を集めることに力を入れているようです。でも、多くの自治体は若者が求める環境や条件について少し「勘違い」をしているような気がします。各地の移住政策を見ていると、住むところだけでなく、安定した雇用・職場や都会に負けない魅力的な施設やサービスがあることを訴え、「うちは都会に負けないくらい十分にいい環境だよ」といったメッセージを打ち出している自治体が多いようです。でも、いろいろ実験的な取り組みをしてみたところ、若者たちは必ずしも安定した環境を地方移住に求めているわけではなく、むしろ、冒険心を駆り立てられるような「不完全」な場所を欲している人も多いことが分かってきました。

この連載でもご紹介しましたが、昨年福井県鯖江市において「半年間家賃無料にするからとりあえず体験移住してみてほしい。特に仕事などは紹介しないが、その間は働かなくてもいいし、何をしても自由」という条件の「ゆるい移住」なる実験的な政策を提案し、市の事業として行いました。「そんな無茶苦茶な条件で若者が来るはずがない」という批判もあったのですが、結果は、半年間を通じて日本全国から15名の若者が体験移住を行い、なんとそのうち6名が鯖江市で継続して生活しています。「自分たちで自由に試行錯誤や開拓ができる」という「ゆるさ」が魅力的だったようです。

社会環境の成熟にともなって、「与えられる」ことや「そろっている」ことがむしろつまらないと感じる人も増えてきているようです。これまでデメリットであると考えられることが多かった田舎のまちの「不完全さ」や「開拓の余地」こそ、若者を集める新しい魅力になりうるのかもしれません。

■イケダハヤト氏が説く「余白」の魅力

先日、東京から家族で高知県に移住したプロブロガーでライターのイケダハヤト氏に鯖江市に来てもらい、講演をお願いしました。イケダ氏は神奈川県出身で、早稲田大学を卒業した後に東京の大手メーカーで勤務するという絵に描いたような都会人でした。しかし、結婚し子どもができた頃から都市部での生活に限界を感じ、縁もゆかりもなかった高知県の山間地域に移住しています。

でもイケダ氏は、別にこの小さな田舎のまちを活性化したり元気づけたりすることを目的に移住したわけではありませんでした。むしろ、移住することによって、自分の仕事や生活を発展させ、より面白い充実した人生を送ることができると考えているようです

イケダ氏はこの日の講演の中で、田舎のまちが一部の若者にとって魅力的である理由は、自分たちで自由に考えて新しいものを勝手につくっていくことができる「余白」があることだと説いていました。そして、人口減少に悩み衰退している小さなまちや地域ほど、その魅力があるんじゃないかとも述べていました。

都会の生活やサービスは一般的に「新しい」ものであるように言われていますが、それは全て巧妙にパッケージ化されたものであり、僕たちはそのいくつかのパターンの中から選択して消費しているだけであって、自分で新しく「つくる」ということができるものはほとんどありません。でも、田舎のまちには少ない資金やリソースしかなくても「余った」場所や機会を使い、小さくても自分で「新しくつくる」という体験ができます。

もしかするとこの「創作」の体験は、成熟社会を生きる今の日本の若者の一部にとっては、「消費」以上に魅力的なものなのかもしれません。「消費」の重要度が下がれば、当然労働や所得への考え方も変わってきます。都市部で働くよりも金銭的な所得は下がっても、日常的な「創作」の体験を得ることによって、それ以上の満足や感動を手にする場合もあります。であれば、田舎のまちは若者に対して「それなりに給料のもらえる仕事」があることなんかをアピールするのではなく、「仕事も生活も自分で新しくつくりだせる環境」があることを訴えたらいいのです。

もちろん、そのような「創作」が必ずしもうまくいくとは限りませんが、生活コストの低い田舎のまちであれば、「試行錯誤」の期間を耐えることができます。当然ながら、都会ではそうはいきません。

■「最初の変わり者」を受け入れる柔軟性を

しかし、田舎の「余白」や「不完全さ」を楽しむことができるような若者は限られているかもしれません。ネット上にも、「イケダハヤトだから田舎でも生きていける」というようなコメントはたくさんあります。高い技術や能力を持っているだけではなく、強い好奇心や独立心もなければならない。正直言って、安定志向の若者に田舎への移住は向いていないと思います。

でも僕は、それで良いのではないかと思っています。鯖江市に「ゆるい移住」政策で移住してきたメンバーの1人は、「田舎に移住するというのは、ベンチャー企業で働くようなもの」だと言いました。確かに、「ベンチャー」としての田舎を求め、それを楽しむことができるような若者は、極めて異端な人物だったりするようです。それ故に、地域との摩擦や衝突も避けられません。

実際に鯖江でも、「外から来てくれるのはうれしいけど、もうちょい普通の人が良かったな」という声も聞こえてきます(笑)。しかし、彼らのような「変わり者」を受けいれることができれば、それをきっかけに地域の中に柔軟性が生まれるはずです。そして、外から若者を受けいれる土壌が少しずつできていくはずです。土壌ができれば、そこには新しい人材が流れ込むやわらかい環境もできていきます。

イケダ氏は講演の中で、「システムでは、地域に若者を集め続けることはできない。人が人を呼ぶしかない」と言いました。つまり、「最初の変わり者」を地域が受けいれ、付き合っていくことができれば、それを起点にして「もうちょい普通の人」も集まってくるのではないでしょうか? ベンチャーが、「普通の会社」に育っていくように。

それでも、都会からは離れたいけど、「ベンチャー」な田舎はちょっと怖い、という人だってたくさんいると思います。それなら、人口が50万人くらいまでの中堅都市にいけばいいだけのことなのです。

(若新雄純=文)