日本語学者 国語辞典編纂者 飯間浩明氏●1967年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院博士課程単位取得。『三省堂国語辞典』編集委員。著書に『「伝わる文章」を書く技術 』(新星出版社・共編)、『辞書を編む』(光文社新書)などがある。

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相手に何を伝えたいのか。目的が明確になれば、文章は簡潔になる。そして、表現はやさしく、接続詞は少なく、過剰な敬語はつつしむ。国語辞典の編集者が培ってきた技術とは──。

■「肝の一文」から書き始めてみる

ビジネスの実用文では簡潔な表現が好まれます。簡潔な文章を書くポイントをお教えしましょう。

まず大切なことは、書き始める前の準備です。読み手に最低限伝えるべきところ、すなわち「文章の肝」を考えます。何のために文章を書くのか。実用文で伝えるべき内容は、突き詰めれば一文に集約できます。ここではそれを「肝の一文」と呼びます。たとえば「来週月曜日に会議があります」「納期を延ばしてください」「代金を支払ってください」などです。

こうした「肝の一文」が決まれば、文章を書く目的がはっきりし、情報が整理できます。長い文章を書く場合には「肝の一文」を理解してもらうために言葉を足していくと考えるのがいいでしょう。何の会議があるのか。なぜ納期を延ばすのか。いつまでに支払いが必要なのか。そうした情報を足していくわけです。

拙著『「伝わる文章」を書く技術』(新星出版社)では、さまざまな実用文を集めて、問題点を指摘しました。それらの実例では、多くの情報を盛り込んだ結果、「文章の肝」がわかりにくいものが少なくありませんでした。

その典型例が「ウィキペディア(Wikipedia)」です。冗長でわかりにくい文章の宝庫となっているのには理由があります。「ウィキペディア」では、不特定多数の書き手が、それぞれの目的で自由に文章を書き足していきます。書き手によって「文章の肝」は異なりますから、編集の過程で一文がどんどん長くなり、結果としてわかりにくくなってしまうのです。

■「一文を短く」で苦手意識をほぐす

読み手が一度に受け取れる情報には限界があります。一文が長くなると、主語と述語の関係がねじれたり、主語と述語が2つ以上入った複文になったりして、わかりにくくなります。また主語と述語が大きく離れた文では、読み手はその間に多くの情報を処理しなければならず、ストレスを感じます。

ビジネスにつかう実用文では、読み手にストレスを与えないことが重要です。書くことに苦手意識をもっている人は、まず「一文を短くすること」を意識してみてください。短い文章であれば、何が余計なフレーズなのか、わかりやすいはずです。今回は10個のポイントを実例で示しました。いずれも長い文章ではありませんから、活用しやすいと思います。

■「が」や「て」を置き換えてみる

いくつか具体的な方法をご紹介しましょう。1つ目は「1つの文で伝えることを1つに絞る」。あれも、これも、と盛り込むと文章は長くなります。その点で注意してほしいのが、「が」のつかいすぎ。

「が」で言葉をつなげば、文章がスムーズにつながったような気になります。しかしだからこそ、気をつけなくてはなりません。同様に「て」も要注意。<朝起きて、顔を洗って、ご飯を食べて……>というように「て」は乱用しがちなつなぎ言葉です。

句の前後の関係をはっきりさせるためにも、「が」や「て」を別の言葉に置き換えてみましょう。

<高齢者は年々増加しているが、若年人口は今後減少する見込みだ>という文では、「が」を「一方」にします。<高齢者は年々増加している。一方、若年人口は今後減少する見込みだ>とすれば、2つの事実があることが明確になります。

また言わなくてもすむことを何度も繰り返している文や、同じ言葉がたまたま重なってしまっている文にも注意しましょう。<ゲストの笑顔や聴衆の皆さんの笑顔が見られた>という文は、<ゲストや聴衆の皆さんの笑顔が見られた>と<笑顔>をまとめたほうが、わかりやすいはずです。

一文が長くなったと感じたときには、言い換えのできる単語や不要な言葉を探してみましょう。<ここでは具体的な事例を示すといったようなことは目的としてはいない>という文からは、「といったような」と「は」を削ることができます。<ここでは具体的な事例を示すことは目的としていない>とすれば、すっきりします。

接続詞にも注意が必要です。文と文のつながりに不安があると、つい接続詞が多くなります。たとえば「しかし」のつかい方。<悪質商法は後を絶たない。しかし、もし自分が騙されたらどうすべきか>という文は、<悪質商法は後を絶たない。もし自分が騙されたらどうすべきか>とすべき。余計な「しかし」は整理しましょう。

誰もが最初から簡潔な文章を書けるわけではありません。私も言葉を整理するため、推敲を重ねます。ぜひ10個のポイントを仕事に役立ててください。

(談)

■「すっきり書く」実例解説10

1. 伝えたい「肝の一文」から書く

[×]ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、先発医薬品と有効性・安全性【が同等であるものとして製造販売が承認され】、一般的に、研究や審査にかかる開発コストが安く抑えられることから、先発医薬品に比べて価格が安くなっている。
⇒1文が長すぎる

[○]【ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、先発医薬品に比べて価格が安い】。なぜなら、先発医薬品と有効性・安全性が同等として製造販売が承認されているため、研究や審査にかかる開発コストを抑えられるからだ。
⇒伝えることは1つに

2. 主語と述語をきちんとつなぐ

[×]正社員になって約半年が過ぎた。同僚たちの【仕事ぶりは】、真剣かつ楽しそうに【取り組んでいる】。
⇒「仕事ぶりは……取り組んでいる」?

[○]正社員になって約半年が過ぎた。【同僚たちは】、真剣かつ楽しそうに仕事に【取り組んでいる】。
⇒主語・述語のねじれを解消

3. 「が」で言葉をつながない

[×]レストランなど食事をする場では、喫煙席を完全になくすべきだという意見が【あるが】、私は全面的に賛成するわけでは【ないが】、店側はせめて完全分煙にする努力が必要だろう。
⇒事実と意見が1文に混在

[○]レストランなど食事をする場では、喫煙席を完全になくすべきだという意見が【ある】。私は全面的に賛成するわけではないが、【心情的には共感する】。店側はせめて完全分煙にする努力をするべきだろう。
⇒内容に応じて文を分ける

4. 文章の「贅肉」を削る

[×]特に夕方以降は、少ない人数で子どもたちの面倒を見なければ【いけないため】、非常に忙しい。【しかしながら、そういった】事情はどの保育園に【おいてでも】同じ【であるため】、保育士たちはなかばあきらめている。
⇒不要な語句が多い

[○]特に夕方以降は、少ない人数で子どもたちの面倒を見なければならず、非常に忙しい。【しかし、事情はどの保育園でも同じだ】。保育士たちはなかばあきらめている。
⇒簡潔に言い切る

5. 受け身の表現は避ける

[×]外国人留学生の受け入れで、日本人学生の異文化理解が【増進され】、学生・教員などの相互交流が【図られ】、大学の国際化に大きく貢献すると思われる。
⇒受動態の多用はNG

[○]外国人留学生の受け入れは、日本人学生の異文化理解を【増進し】、学生・教員などの相互交流を【活発にする】。ひいては、大学の国際化に【大きく貢献するだろう】。
⇒受動態を能動態に

6. 過剰な敬語は控える

[×]申込書はリンク先のページからダウンロード【していただき】、必要事項をご記入【いただき】、当社宛に【ご送付いただければ】、あらためてこちらからご連絡【させていただきたく存じます】。
⇒「いただき」が連続

[○]申込書はリンク先のページからダウンロード【できます】。必要事項をご記入のうえ、当社宛に【お送りください】。あらためてこちらからご連絡【いたします】。
⇒「できます」で十分

7. 接続詞は最小限に

[×]その日は小雨でした。【しかし/だから】、運動会は予定通り行われました。
⇒無駄なつなぎ言葉

[○]その日は小雨でした。【運動会は予定通り行われました】。
⇒事実だけ書く

8. 回りくどい表現を避ける

[×]マニュアルを作っただけで満足してしまったと【言われてもしかたがない面があった】。
⇒歯切れの悪い言い回し

[○]マニュアルを作っただけで満足し、【教育を徹底しなかった】。
⇒事実をぼかさない

9. 繰り返しを避ける

[×]チームが結束するためには、コミュニケーションの活性化が【必要だ】。そのためには、メンバー同士が相手の話をよく聞くことが【必要だ】。
⇒「必要だ」が被っている

[○]チームの結束には、コミュニケーションの活性化が【必要だ】。その出発点として、メンバー同士が相手の話をよく聞くこと【から始めたい】。
⇒言葉を置き換える

10. 具体性を持たせる

[×]私が地元での就職を希望したのは、○○県の人口が【大幅に減ったのを知った】ことがきっかけだ。
⇒具体的なイメージがわからない

[○]私が地元での就職を希望したのは、【○○県の人口が○○万人を割ったという報道に接したからだ】。
⇒具体的な数字を書く

(山川 徹=構成)