2016年10月17日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)最近、上場企業やメディアといったロゴ刷新のニュースをよく見かけるように感じる。GoogleがモバイルサイトとPCサイトのインデクシングを別々に行い、結果として検索結果を別物にするという噂がでているらしいが、実際のところインターネットユーザーとはイコールモバイルユーザーであり、もはやPCは無視してもよいと言ってもいい。

10年前ならば、WebサイトはまずPCサイトを設計し、申し訳程度にモバイル対応を考えたものだが、現在ではまずスマホ対応のサイトを作り、それからデスクトップでの表示を考えるべきだ。というより、(誤解を恐れずに言うならば)スマホサイトだけを作っておけばいいとも言える。時代はモバイルファーストからモバイルオンリーへと着実に動きつつある。

こうした状況の中で、Webサイトにおけるデザインは、小さく縦型の画面にフィットする最小限の工夫のみとなり、複雑なデザインを行うことは意味がない。Webデザイナー苦難の時代到来なわけだが、唯一デザイナーの腕の見せ所として残っているのが、ロゴの制作だ。

Webサイトのロゴはいま、モバイルオンリーの環境に合わせて、多くの企業が刷新しようとしている状況である。

例えば、インターネット最強の企業と言えるGoogleは、2015年にロゴを刷新し、サンセリフでシャドウ効果のないシンプルなものに変更した。Twitterの共同創業者であるエヴァン・ウィリアムスが興したMediumも、サンセリフでシンプルなロゴへと変えた。

ちなみに、自分が運営している男性向けライフスタイルメディア ロレンスのロゴも、サイト公開1周年を機にごくシンプルなデザインを採用した。もともとは英国の旧いモーターサイクルメーカーの雰囲気を宿したイタリックのフォントを使っていたが、直立したゴシックに近いフォントへと変えたのだ。

ロレンスのロゴ

ゴシックに近いフォントに変更

これらに共通しているのは、フラットデザイン(影、ハイライト、テクスチャなどによる立体感のある加工を使用せず、平坦で簡潔なデザイン)に対応していることだ。だからシャドウもエンボスもセリフもなく、華美な細工や工夫を排したフォントになっている。

小さな画面にロゴを置く場合、あまり大きなロゴを使えば、ただでさえ小さな画面の狭いヘッダーから、余計な面積を消費することになるので、サイト側としては比較的小さなロゴとする必要がある。

しかしロゴを小さくした場合、複雑なデザインにすれば視認性が悪くなる。つまり、狭いヘッダーに置く小さなロゴであっても、明確に読者に覚えてもらえるようにするには、シンプルで見やすいフォントを使う必要があるのだ。逆に言えば、昔ながらの、PCの広い画面に置かれた存在感のある複雑なデザインでのロゴを、そのまま使用することは自殺行為と言えるのである。

こうした背景から、多くのメディアや企業サイトがシンプルなロゴを採用し始めているわけだが、ロゴというものは、そのサービスや企業のイメージを体現するものだから、変更するときには、なにかしらの理由が必要だ。

例えば、上述のロレンスの場合は、サービスそのものの運営会社を新たに作って移管したことをきっかけにしているし、Mediumもまたビジネスモデルの転換に合わせてロゴの刷新を行った。スタートアップでも保守的な大企業であっても、消費者に対する自社の印象を切り替える、ピボットのタイミングでロゴを変えるわけだ。逆に言えば理由なしにロゴを変えても、消費者にアピールできないから(鶏か卵かの感じになるが)、企業としてはピボットとロゴの変更を戦略的に合わせる。

最近の事例の場合、こうした思惑に、ロゴに対してもフラットデザインを適用するというデザイン上のトレンドが重なった、というわけである。
■著者の最近の記事
Spotify上陸。ストリーミング音楽配信サービスはどこが勝つのか?
iPhone 7 / 7 Plusの進化と今後の方向性
分散化メディア時代の標準指標はPVからCVへ
UI/UX?そんなものを気にするのは金輪際やめておけ
Webメディアの会員制課金モデルは成功するか?〜KADOKAWA WPJの場合〜[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

●twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
●facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro