【福田正博 フォーメーション進化論】

 日本代表は、10月6日のホームでのイラク戦を2―1で辛うじて勝利し、1月11日にアウェーでオーストラリアと1―1でドロー。4試合を終えて2勝1敗1分の勝ち点7で、サウジアラビア(3勝1分、勝ち点10)、オーストラリア(2勝2分、勝ち点8)に次いでグループ3位につけている。

 初戦でUAEに敗れ、イラク戦で苦しみ、オーストラリア戦は先制しながら引き分け。徐々にハリルホジッチ監督の手腕に対して疑問の声もあがってきている。

 そんななか、今月末に日本サッカー協会の技術委員会が監督手腕を検証する会議を開くという。だが、当面は監督更迭という事態に発展しないのではないかと私は考えている。

 ここまでの試合内容を問えば、決して満足できるものではない。しかし、W杯最終予選は結果がすべて。どんなに内容が良くても、負けて本大会への出場権を逃しては身も蓋もない。

 日本代表は過去に、98年フランスW杯を目指すアジア最終予選の途中で加茂周監督が更迭され、岡田武史コーチが昇格したケースがある。岡田体制に移行した3戦目にアウェーでの韓国戦に勝利したことで、「ジョホールバルの歓喜」につながったが、監督交代直後に行なわれた2戦はどちらも引き分けだった。

 監督交代は選手の発奮材料になるものの、チームを立て直す即効性は期待しにくい。試合をするのが選手である以上、メンバーを大きく変えない限りはピッチで見せるサッカーに大差はないからだ。

 さらに言えば、オーストラリア戦後にハリルホジッチ監督は「勝ち点2を失った試合」とコメントしたが、過去2大会のW杯予選でオーストラリアに3分1敗の日本代表が、勝ち点1を積み重ねられたことは決してネガティブな結果ではない。コンディション不良の選手が多く、故障者も相次いだことで守備的なサッカーを選択し、そのなかでも勝利をつかみかけただけに悪い内容ではなかった。一定の形に固執せず、相手に応じてスタイルを切り替えられる柔軟性が今後さらに求められるだろう。

 この試合では、ハリルホジッチ監督がW杯で世界の強豪と対戦する際に求める「攻撃の形」が垣間見えた。象徴的だったのは、原口元気がゴールを決めるまでの展開だ。原口が中盤でボールを奪取し、そのまま味方にボールを預け、ゴール前に走り込んでフィニッシャーとなった。これまでハリルホジッチ監督が何度となく口にしてきた「デュエル」と「タテに速く」が実践されたプレーだった。

 原口は、アジア最終予選2戦目のタイ戦でスターティングメンバーに起用されてから3戦連続ゴール。チームを活性化させている。最大の特長は、勢いのあるプレースタイルと、結果を求めるハングリーさだ。

 日本の指導者の多くはバランスを重視する傾向が強く、原口のように「野性的」なプレーをする選手を敬遠しがちだ。原口は、浦和ユース時代からその能力を高く評価されていたにもかかわらず、ロンドン五輪メンバー入りを逃すなど、各年代で代表の中核にはなれなかった。そうした経験があるからこそ、今も貪欲なプレースタイルを貫けているのだろう。

 ハリルホジッチ監督就任後、原口はボランチやサイドバック、右MFなど、本職ではないポジションで起用されることが多かった。それでも不慣れながら懸命にプレーして食らいつき、ようやく手にした本職FWでのプレーで「一発回答」した。

 代表の試合で起用された若手には、チームのバランスを崩すことや、ミスを怖れる傾向がある。そうやって本田圭佑や香川真司、岡崎慎司らの顔色を伺うプレーをしていたら、持ち味を発揮できないまま試合が終わってしまいかねない。だが原口は、がむしゃらに自らの持ち味であるダイナミックなプレーをして、ゴールという結果を出した。

 原口の活躍によって注目したいのが、これまで代表で実績を積んでいる宇佐美貴史や武藤嘉紀だ。原口にポジションを奪われたまま終わるような選手ではないだけに、彼らが切磋琢磨しながら代表の世代交代を推し進めることに期待したい。

 また、守備陣はここまで4戦4失点と、安定しているとは言い難い。苦しんだ要因に、「ヘディングのパワー不足」がある。これは日本サッカー界の長年の課題でもあるが、DFラインからヘディングで弾き返す時に、日本人選手は強豪国の選手と比べると飛距離が出ない。そのため、オーストラリア戦のようにラインを押し上げてきた相手にクリアボールを拾われ、相手の波状攻撃を受けてしまう。

 相手の中盤の頭を越えるクリアができれば、仮にボールを拾われたとしても、相手はいったん自陣を向くことになるので勢いを削げる。ただし、急なパワーアップが見込めない以上、DFのクリアボールを拾えるように、前線や中盤の選手がポジショニングで工夫していく必要があるだろう。

 日本代表にとって、11月15日にホームで行なわれるサウジアラビア戦は重要だ。前半戦最後の試合でグループ1位のサウジアラビアを叩けば、勝ち点で並ぶ。さらに、2017年に日本のホームで行なわれるのはタイとオーストラリア戦のみ。UAE、イラク、サウジアラビアとの3試合はアウェーでの戦いになる(イラク戦は中立地開催の可能性が高い)。苦しい展開が予想されるだけに、11月のホームでの試合は勝ち点3を奪っておかなければならない。

 サウジアラビアはアジア最終予選のタイ戦(1-0)、イラク戦(2-1)は、守備陣でボールを回すのらりくらりとしたサッカーをしていたが、その後は激変した。第3戦のオーストラリア戦(2-2)、第4戦のUAE戦(3-0)では、高い位置からプレスをかけてボールを奪い、すばやくパスを展開するサッカーを見せている。グループ首位に立っているのは決してフロックではなく、楽観視できる相手ではない。

 日本にとっての追い風は、11月11日にオマーンと親善試合をした後にサウジアラビア戦に臨めること。ヨーロッパ組にとっては、長距離移動や時差などによるコンディション不良を調整する時間がある。このメリットを最大限に活かし、大一番で勝ち点3を奪いたい。5戦を終えて勝ち点を10で前半戦を折り返すことができれば、2017年3月から再開される戦いにも光明が差し込むはずだ。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro