問題となった「うな子」動画

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― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

 この時代だから、たぶん、削除になるんじゃないかなあ、そうなったら嫌だなあと思っていた鹿児島県志布志市制作のうなぎPR動画が、数十件の抗議電話やメールを受けて、市の判断で削除されました。んで、市長のお詫び文まで発表されました。

 見ましたあ? 男性がプールでスクール水着のうな子と出会うところから物語は始まります。この「うな子」ちゃんは、思い詰めた潤んだ目で、「養って」と一言言うのです。こんな目で言われたら従うしかないわけで、この男性はプールサイドにテントを立てて上げたり、天然水をプールに引いたりしたわけです。

 つまりまあ、ずっと彼女は水着なわけですね。

 で、1年たってみると、彼女は「うなぎ」だったと分かるのです。ラストカットは、また新しい「うな子」が現れて、「養って」と言うのです。

 なんかねえ、この動画作った人は、もう確信犯的に「美少女飼育モノじゃないか」「女性差別だろ」「行政がこんなの創っていいと思っているのか」と突っ込まれると分かっていたんじゃないかと思います。

 ああ、「確信犯」という単語もめんどくさいことになっています。

 本来は、「自分の行動の宗教的や政治的な正しさを確信して行われる犯罪を指す法律用語」なわけで、じつは、「こうやったら、こうなるだろうなあと分かってやった場合」は、法律上は「故意犯」と呼ばれます。

 で、この指摘がネットで広がったわけです。「間髪(カンパツ)を入れず」なんかと同じです。ちょっと目立つ誤用を知ると、とにかく気になって、それだけを激しく攻撃して、それで書き手の水準を判断する、というパターンです。

 この「うな子」のクリエーターが、「うなぎを養うのは美少女を養うのとまったく同じである。いや、それが、うなぎの養殖の本来の姿である。うなぎの稚魚は美少女そのものである」という宗教的信念を持ってこの作品を創ったのなら、間違いなく「確信犯」です。

 けれど、「この作品、もめるだろうなあ。でも、もめるぐらいが話題になるんだよなあ。無視されるのが一番、意味がないし」と思って創ったのなら、「故意犯」なのです。

◆ネット的厳密な正しさの末に

 それでね、ネットで「この作者は確信犯として」と書くと、必ず「誤用である。この程度の日本語も知らないで文章を書いて欲しくない」と突っ込む人が現れるんだけど、でもさあ、日常レベルで「故意犯」って使うかあ?ということなのですよ。使わないよねえ。だって、語感としては「もめるという確信を持って行動したから、確信犯」が一番、ピタッと来るのですよ。

 その実感を尊重してはいけないとなると、「間(カン)、髪(ハツ)を入れず」みたいに「本当はそうかもしんないけど、こっちは『カンパツをいれず』で身に染みついてるのに、それがダメって言うんなら、もう使わないよお」となる可能性がどんどん高くなると思うのです。そして、ネット的厳密な「正しさ」で、日常的に使っていた言葉が抹殺されていくのです。

 で、話は戻って、このクリエーター達は「確信犯」だったと思うのですが、それにしても、市長がお詫び文を出すわけですから、ちょっと計算外だったかもしれません。まさか市長に「市長、これ、たぶん、もめて削除になります。その時はお詫び文、頼みます」なんて言えないと思いますからね。

 市長は、動画の意図について「志布志の天然水でうなぎを大切に育てていること、栄養や休息を十分に与えてストレスのかからない環境で大切に育てていることをお伝えしたかったものです」と説明し、しかし、「引き続き動画を配信することにより、視聴者の皆様に更に不愉快な思いをさせてしまうだけでなく、これまで志布志市へふるさと納税をしていただいた寄附者の皆様や地元市民の皆様をはじめとする関係者の皆様に及ぼす影響を考え」動画を停止するとし、謝罪しました。

 なんかねえ、最後に次の「うな子」が来るんですけどね、これが、いがぐり頭の「うな男」でさ、声変わりした低音ボイスで「養って」って海水パンツ姿で言うだけでも、この作品の印象はずいぶん変わったと思うのですよ。確信犯なら、それぐらいの「予防線」を張っててもよかったかと老婆心ながら。