PK戦の末ラージョ・バジェカーノを退け、国王杯4回戦進出を決めたナスティック・タラゴナ。日本人DF鈴木大輔は先発フル出場しただけでなく、PK戦では6番目のキッカーを務めてしっかりネットを揺らすなど、チームの次ラウンド進出に貢献した。

 エスタディオ・デ・バジェカスの外部に設置された吹きさらしのミックスゾーン。広報とともに姿を見せた日本人DFは、ひと仕事を終えた男の満足感に包まれていた。

 リーグ戦は今季ここまで勝ち星なしの最下位と、スタートダッシュに完全に失敗しているカタルーニャのチーム、ナスティック。この日の国王杯もPK戦の末の勝利と、勝ちきることはできなかった。だが、相手は昨季1部でプレーをしていたラージョ・バジェカーノ。強敵を退けたことは、微妙にずれているチームの歯車を正すうえでも大きな意味がある。

 だからこそ、鈴木の表情、言葉からポジティブな雰囲気が生まれていたのだろう。「リーグ戦ではなかなか勝ち切れなくて引き分けが多い。今日も引き分けだったけど、勝ち進んだことでチームとして大きな自信になった。順位はけっこう詰まっているし、この勝利が浮上するきっかけになればいい」と、鈴木はラージョ・バジェカーノを退けたことの重要性を語った。

 先制点を奪ったタラゴナだったが、試合自体はラージョ・バジェカーノに自陣へ閉じ込められ続けた。特に左サイドを中心に攻められ続け、何度となく失点してもおかしくない場面を作られた。もちろん、92分、ロスタイムにミクーがPK失敗したように、この日のタラゴナに幸運が味方をしたのも確かだ。

 ホームチームの執拗なサイド攻撃をアウェーチームが耐えることができた理由のひとつは鈴木の存在にある。決してスマートとは言えない。だが、相手を止めるために体を投げ出してブロック。休む暇さえないラージョのクロス攻撃を、日本人DFは集中力を切らすことなくしのぎ続けた。

 ラージョの攻撃が執拗だったことはCBコンビを組んだ22歳のカメルーン代表、モハメドが後半途中に足をつったことからもわかってもらえるだろうか。鈴木自身も慣れない柔らかいピッチに足をとられ、疲労は蓄積していた。だが、そんな様子は露ほども見せず、相棒のカメルーン人DFを叱咤激励しながら最終ラインを守り続けた。

「誰とコンビを組んでも自分の特徴を出したい。チームのやることは変わっていない。コンビを組んだ相手が若かったので、サポートをしっかりして自分が主導権を握りながらできたかなと」と、自身のパフォーマンスを振り返った。

 そんな鈴木に、日本代表について聞いてみた。

「試合は練習があったんで見てないですけど、負けられない厳しい状況、プレッシャーが強い中で戦っていることは本当にすごいと思う。けど、いつでも代表の中に入って自分の力を出せるという自信を持ってこっちでやっている」

 鈴木はそう言って代表復帰への意欲を見せた。確かに鈴木がプレーしているのはバルセロナやレアル・マドリードのような世界トップクラスが集うトップカテゴリーではない。それでも鈴木は、自分が高いレベルでやれていること、そして日々の練習、試合が自身の血となり肉となっているという確信を手にしている。

「下のカテゴリーだと言われたら言い返せないところはある。ただ、今日の試合もそうだけど、高いレベルの中でやれているとは思っているし、着実に力はつけているという実感を持っている。2部とはいえ1部とは紙一重の差なんだな、というのは日々感じているし、楽しみながらサッカーができている」

 クラブでベンチを温めることが多いと言われる日本代表の欧州組だが、鈴木はカテゴリーが下とはいえ、激しいボディコンタクトとしっかりとした技術のあるスペインサッカーで、日々、揉まれている。

「いつ呼ばれてもいいように、見てくれていると信じて自分はサッカーに取り組んでいくだけ」

 日本代表のスカウティングがどこまでカバーをしているのかは見当がつかない。ただ、エスタディオ・デ・バジェカスでこの夜、鈴木が見せた無骨なパフォーマンスは、赤(ナスティック)だけではなく青(日本代表)のユニホームで戦う姿を見たいと、十分に思わせるものだった。

山本孔一●文 text by Yamamoto Koichi