動画をチンパンジー(右下)に見せる実験風景(京都大学の発表資料より)

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チンパンジーなどの類人猿が、人間にしかないと思われてきた他者の考えを理解する高度な能力があることが京都大学野生動物研究センターの研究でわかった。米科学誌「サイエンス」(電子版)の2016年10月7日号に発表された。

研究チームでは「人間だけが(動物界で)特殊で優位な存在だという考えを改めなければならないでしょう」とコメントしている。

人間の頭の中の「仮想現実」を理解する

京都大学が2016年10月7日に発表した資料によると、研究で類人猿が持っていることが確認された「他者の考えを理解する能力」とは、他者の「誤信念」を推し量る認知能力のことだという。「誤信念」とは聞き慣れない言葉だが、たとえば、ある人物Aが「引き出し」にペンをしまい外出したとする。Aの不在中に別の人物がペンを「筆入れ」に移し替えた。帰宅したAがペンをとろうとする時にまず探すのは「引き出し」だろうか、「筆入れ」だろうか。

ペンが実際は「筆入れ」にあるにもかかわらず、私たちがAは「引き出し」を探すだろうと類推できるのは、Aが現実とは違う状況を信じていることを知っているからだ。この「引き出し」に向かうAの間違った思考を「誤信念」と呼ぶ。Aの頭の中にだけ存在する仮想現実だ。それを理解する能力があるということは、他者の心の状態を本当に読んでいる強い証拠だという。

研究グループは、チンパンジーやオランウータンなど40頭の類人猿を対象に、人間と着ぐるみを着た偽類人猿(中は人間)が争っている動画を見せた。そして、「アイ・トラッキング」という装置を使い、目の動きを調べた。動画は類人猿が興味をひく活劇のドラマ仕立て。人間と偽類人猿が争った末、偽類人猿が争いから逃げ、干し草の中に隠れる。怒った人間が棒を取りにその場を離れると、偽類人猿はそのすきに別の場所に隠れる。人間が棒を手に元の場所に戻ってくるクライマックス場面で、40頭の目の動きを調べた。

創造力や遠い未来の予測能力があるかも

すると、40頭のうち半数の20頭(50%)が、もともと偽類人猿が隠れていた干し草を注視した。実際には偽類人猿は別の場所に隠れているのだが、この視線は、「これから人間は干し草の下を探すだろう」と予測し、現実とは違う「誤信念」を持っている人間の思考を理解していることを示している。別の動画でも同様の実験を行なうと、30頭中17頭(57%)が「誤信念」を理解した。

研究グループでは、発表資料の中で、「誤信念の理解は、人間では4歳児以降に表れる高度な認知能力です。類人猿は他者の心を理解しているという研究結果が数多くありますが、誤信念の理解については否定的な結果しか得られていませんでした。今後は類人猿の創造力や遠い未来の予測能力も調べていきたいと思います」とコメントしている。