時代の転換期である今、哲学は何を問うのか?

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世界の哲学者はいま何を考えているのか――21世紀において進行するIT革命、バイオテクノロジーの進展、宗教への回帰などに現代の哲学者がいかに応答しているのかを解説する、哲学者・岡本裕一朗氏による新連載です。9/9発売からたちまち重版出来(累計3万部突破)の新刊『いま世界の哲学者が考えていること』よりそのエッセンスを紹介していきます。第13回はIT&BT(バイオテクノロジー)革命によって抜本的な変化をむかえている現代社会において、世界の哲学者が考えていることを概観します。

哲学は「人生論」ではない

「哲学」という言葉を聞いて、皆さんはどのような学問だと思われるでしょうか?この問いに対して、日本ではおそらく、「人生論」をイメージする人が多いのではないでしょうか。「人生とは何ぞや?」とか、「いかに生くべきか?」といった問題を考えるのが、哲学というわけです。じっさい、Amazonで「哲学・思想」ジャンルの売れ行きランキングを調べてみると、たいてい、このタイプの本が上位を占めています。

たとえば、D.カーネギーの『人を動かす』や『道は開ける』は、この部門の長年にわたるベストセラーですし、最近ではマンガまで出版されています。ところが、哲学の研究者でカーネギーを哲学者と見なす人を、私は知りません。また、哲学の学会で、彼の本が問題になることもありません。

また、日本で「哲学」という場合、「誰某の『哲学』」をイメージすることが少なくありません。たしかに、哲学の学会に参加すると、哲学者の説を紹介したり、批評したりするのが主流となっています。論文や口頭発表のタイトルは、たいてい「○○(哲学者)における△△」という形を取ります。たとえば、「ヘーゲル『論理学』における〈反省〉の構造」といったタイトルです(このタイトルは、若かったころ私の論文で使用しました)。

ここから分かるように、哲学の研究とは、歴史上の偉大な人物(哲学者)の考えを紹介したり、解釈したりすることだと見なされているのです。そのため、大学院の哲学科に入って、最初に決めることは「誰(の学説)を研究するか」になります。哲学研究とは、ある哲学者の説を詳細に理解することだ、と考えられているからです。この作業を進めるには、哲学説にかんする先行研究をサーベイ(調査)する必要があります。こうして、「(誰某)専門家」が誕生するわけです。

問題なのは、そうした哲学説の研究者が、ただ学説にとどまって、その先に向かわないことです。おそらく、ホンモノの哲学者であれば、問題とする事柄(ひとまず「具体的な現場」と呼んでおきます)に直面し、それをどう捉えるか格闘しながら、理論を作り上げていったはずです。

したがって、哲学者の学説を理解するには、研究者はその学説だけでなく、さらに具体的な現場に赴き、自らもそれと格闘しなくてはなりません。具体的な現場こそが問題であって、哲学説を理解するには、哲学者が直面したその現場に迫っていく必要があるのです。

私たちが今、生きている現代世界は二つの革命――IT革命とBT(バイオテクノロジー)革命によって、大きな転換点にあるといえます。この時代に哲学者は過去の学説研究ではなく、どのように目の前で進展しつつある世界の変化を捉えているのでしょうか。

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