百地章・日大教授(左)。隣に座る西修・駒沢大学名誉教授とともに安保法制合憲派法学者3人の1人

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 夏の参院選の結果、所謂「改憲勢力」が国会で2/3を占めることとなり、憲法改正が一挙に現実味を増してきた。今国会ではいみじくも安倍首相が「改憲にリアリティが出てきた」とさえ答弁している。

 昨年2月に始まった本連載の冒頭は、自民党憲法改正推進本部長・船田元(当時)と、安倍首相との会談のシーンから始まる。あの時、船田元は「憲法改正案原案の提示は2016年夏の参院選前ではなく、選挙後になる」という見通しを語った。まさに1年前の予告通りに、自民党政権は改憲への道を突き進んでいるのだ。

 船田はこの前後に極めて興味深い発言をしている。「憲法9条では国論が2分する。まずは変えやすいところから」という、おなじみの「お試し改憲論」に始まり、その「お試し改憲」についても「環境権や緊急事態条項など、国民の合意を得やすいところから」と、具体的に踏み込んだ発言をしているのだ。このうち、「環境権」は自民党と連立を組む公明党へ配慮したものだろう。公明党の掲げる「加憲論」では常にこの「環境権」なるものが前面に押し出されている。「緊急事態条項」については、東日本大地震の記憶がまだ鮮明である中で、国民的合意を取り付けやすいという計算から言及されるものであろう。

 こうした自民党を代表とする改憲勢力の言動に対し、護憲勢力側も敏感に反応している。昨年の安保法制議論では、「9条を守れ」の掛け声が高まった。また、改憲勢力側の主張する緊急事態条項の危険性について訴える言説も大量に流れた。
 しかし果たしてこの議論、噛み合っているのだろうか?

 なにも、「護憲側は9条を守れというお題目を唱えれば改憲を阻止できるという思考に凝り固まっている」と揶揄したいのではない。議論がかみ合っていないのは、改憲勢力側もだ。どうも、改憲への賛否を問わず、改憲議論に参加する人々の焦点がずれているように見えて仕方ない。

 月刊誌『正論』4月号は、興味深い特集が組んだ。題して「緊急大アンケート!緊急事態条項か9条か、それとも…論客58人に聞く 初の憲法改正へ、これが焦点だ」。まるで憲法改正が規定路線であるかのようなタイトルを、参院選の数ヶ月前につけていることも注目に値するが、何よりも、このアンケートへの回答がすこぶる興味深い。

 このアンケートに答えたのは、江崎道朗、大原康男、ケント・ギルバート、櫻井よしこ、八木秀次、渡部昇一などなど、おなじみの保守論壇人総勢58名。4月号の正論は3月初頭に発売されている。3月初頭発売の月刊誌だから、アンケートが実施されたのは、2月のことだろう。つまり、58人の保守論壇人は、参院選半年前の2016年2月の情勢を踏まえて、回答しているわけだ。

 58人のうち圧倒的大多数の回答は、「9条を改正すべし」もしくは「全文を改正すべし」のいずれかで足並みが揃っている。当然の事だろう。戦後このかた、改憲議論といえばこの2点が焦点であったのだから。回答者はそうした議論の流れを改めて踏まえて見せたに過ぎない。

 だが、二人だけ変わった回答をしている人物がいる。

 高橋史朗と百地章だ。もうこの2人に関する説明は、本連載の読者には必要ないだろう。高橋も百地も日本会議の本体であり、我が国の右傾化運動を40年以上の年月に渡ってリードしてきた「生長の家学生運動」出身者たちのグループ=一群の人々=の中核メンバーだ。両名ともに、生長の家学生運動出身者として、現在も日本青年協議会の幹部として活動している。いわば同じセクトの仲間。左翼で言えば、学生運動出身者が大学卒業後も、中核派や革マル派に所属したまま大学教授をやっている事例と全く同じだ。

 同じセクトの仲間である以上、彼らの意見が別れることは考え難い。しかし、高橋と百地、『正論』4月号アンケートには、全く違う回答を寄せているのだ。