金正恩氏

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台風10号(ライオンロック)によって甚大な被害を受けた北朝鮮北東部で、行方不明者が増加していると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の司法機関に勤務するRFAの情報筋によると、道庁所在地の恵山(へサン)市(人口17万人)で、今年7月初めから9月末までの2ヶ月間に発生した行方不明者の数が291人にのぼるという。ちなにみ両江道全体(人口72万)の今年上半期の行方不明者数は277人。これだけみても291人という数字がいかに多いかがわかる。実は、この行方不明者は中国へ逃れた脱北者。なぜこの時期に、脱北者が急増しているのか。

女子大生まで拷問

中朝国境地域は、もともと脱北者が多い地域だ。脱北を防止するため、至る所に国境警備隊の警戒所や鉄条網などが設置されている。しかし、今回の水害でこうした設備が破壊されてしまった。そんな中、北朝鮮当局は脱北行為を事前に防ぐため、秘密警察「国家安全保衛部(以下、保衛部)」を被災地へ派遣する。

保衛部は、韓流ビデオを保有していた罪で女子大生に拷問を加えるなど、強引な取り締まりで庶民から恐れられている恐怖政治の象徴と言える機関だ。

参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

北朝鮮当局は脱北を防止するため、「泣く子も黙る」拷問機関・保衛部を被災地へ派遣したが、彼らの目を欺くように脱北者が急増しているのだ。

先に述べた行方不明者291人のうちの94人は家族全員が姿を消した。既に彼らは韓国や第三国に向かっているのかもしれない。不明者の8割が女性だという。出稼ぎ目的で中国へ不法入国した可能性が高い。

故金日成氏の命日(7月8日)の前日には、渭淵洞(ウィヨンドン)から3家族11人が行方をくらませた。追悼期間中の脱北を防ぐために、国境警備が強化されていた。しかし、隊員の多くが追悼行事に動員された。そして、警備が手薄になった隙を突いて脱北したようだ。

集団脱北で公開処刑

北朝鮮当局も事態を重く見て、両江道の国境警備旅団に対する厳しい検閲(監査)を行っている。しかし、警備を強化している真っ最中だった今月2日、今度は市内の松峯洞(ソンボンドン)に住んでいた家族7人が行方をくらました。

国境警備隊員2人が受け持つ警備区間の長さは5里(1250メートル)。いくら探照灯があったとしても、夜間の細かい動きを察知するのは困難だ。また、脱北する人の多くがこの地で長く暮らしており、土地勘がある地元住民やブローカーだ。国境警備隊員の目を欺くことなど朝飯前なのだ。

それでも、金正恩党委員長は脱北行為に対して厳しく取り締まるよう指示している。世界的な事件となった4月の北朝鮮レストラン従業員らの集団脱北を巡っては、公開処刑が行われたとの情報がある。

日増しに強化される金正恩氏の恐怖政治だが、これに絶望して北朝鮮を逃れようとするエリート層が増えている。そして庶民たちも隙あらば祖国を離れて中国や韓国へ向かおうとする。もちろん彼らも安易に生まれ故郷を離れているわけではない。ある程度、普通の生活ができれば北朝鮮で生き抜こうとするだろう。

脱北者が生み出される最大の要因は、北朝鮮政府の経済政策の失敗に行き着く。しかし、金正恩氏をはじめとする北朝鮮の支配層は自らの過ちを決して認めない。庶民が生き延びるための数少ない手段の一つである脱北行為を厳しく取り締まる。

庶民たちの脱北は、見方を変えれば身勝手な金正恩体制に対するささやかな抵抗ともいえる。