スリープクリニック院長 遠藤拓郎●1987年、東京慈恵会医科大学卒業。医学博士、日本睡眠学会認定医。スタンフォード大学睡眠障害センターでの研修、チューリッヒ大学薬理学講座への留学など経て、スリープクリニック調布、スリープクリニック銀座、スリープクリニック青山を開院。

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仕事量が膨大で時間がない。睡眠時間は削っても平気か。その悩みに睡眠の専門医が科学的にお答えしよう

■短時間睡眠が可能だという根拠

日々慌ただしい生活を送っているビジネスマンにとって、睡眠時間をどれだけ確保するかというのは悩ましい問題だ。確かに睡眠時間を減らせば、それだけ自由に使える時間が増える。ただし、短くするといっても限度があることを知っておくべきだ。アメリカ空軍の支援のもとフロリダ大学が行った実験では、3時間睡眠を8日間続ければ、慢性的な睡眠不足に陥ってしまい、起きている間のパフォーマンスが落ちることがわかっている。

もう一つ、睡眠学の権威であるチューリッヒ大学のボルベイ教授の研究室で行われた実験を紹介しよう。

普段8時間睡眠をしている人を対象に、1週間のうち4日間は4時間睡眠をさせて、残りの3日間は8時間寝てもらった。その結果、多めに睡眠をとる日をつくれば、慢性的な睡眠不足に陥ることがないことがわかった。つまり、極端に短い睡眠はよくないが、平日に睡眠が少し足りなくても、週末に不足分を補うことで、月曜の朝にはリセットできるのだ。

私の場合、平日は4時間半睡眠で、土日は1日を6時間睡眠、もう1日を7時間半寝るという生活を30年続けているが、それで全く不都合がない。この生活を6時間睡眠の人と比べてみると、平日は1日当たり、1.5時間長く働けることになる。1カ月で約30時間働く時間が増える。つまり、週休2日で考えれば、6時間睡眠の人よりも毎月約1週間分、長く働けるのだ。

なぜ私は平日の睡眠時間を4時間半にしているか。睡眠の「90分サイクル」を聞いたことはあるだろうか。睡眠には眠りが浅く、体は眠っているが脳は活動していて目が覚めやすいレム睡眠と、脳も体も休んでいるノンレム睡眠の2種類がある。

睡眠時にはレム睡眠とノンレム睡眠を行ったりきたりするのだが、個人差はあるものの、だいたい90分周期でレム睡眠は表れる。そして、一度眠りについてから時間が経つごとに、レム睡眠の時間は長くなる。つまり、1時間半や3時間の睡眠でレム睡眠時に起きようと思うと、かなりシビアなタイミングを要求されるが、4時間半寝れば、それだけレム睡眠の時間も長くなっているので、目覚めやすい時間も長くなるのだ。

睡眠に関して、睡眠時間のほかにもう一つ重要な要素がある。それは睡眠の質だ。「睡眠時間×睡眠の質=睡眠量」と考えてもらえばいい。睡眠の質がよければ、多少睡眠時間が短くなっても、問題は生じない。

睡眠の質は坂道でボールを転がすことにたとえることができる。質の高い睡眠は急な坂であり、ボールを転がせば勢いがつきやすい。一方で、傾きが緩やかだと、勢いがつくまでに時間がかかる。また、睡眠は食欲にも似ている。食事をとってから時間が経つほど食欲が出るように、睡眠も起きている時間が長くなるほど坂道は急になり、ストンと眠りに落ちて、しかも深く眠ることができる。

昼間だらだらしていて、仕事で頭も使わず体も動かしていない、というのでは、坂道の傾きは緩やかで、寝ようとしてもなかなか寝付けなくなる。

私は日中、空いた時間にはずっと体力づくりに励んでいる。なるべく暇な時間をつくらず、睡眠の坂道を急にするためだ。仕事が立て込んでいるときには肉体的な負荷(=体力づくり)を減らして仕事とのバランスを取る。種類は違うが、どちらも負荷に変わりない。負荷がかかればかかるほど、夜はぐっすり眠れる。

ただし、睡眠の質を上げたとしても、短時間の睡眠で済む人と、より長時間寝なければいけない人がいる。体温が高い人・低い人がいるのと同じように、これは体質的な問題だ。

まずは自分が短時間睡眠でも大丈夫な体質か調べてみよう。昔なら1セット100万円もする睡眠計が必要だったが、今では数百円のスマホアプリであっても、寝返りを検出することで、睡眠の質を調べることができる。日中にしっかり疲労していて、睡眠計では質の高い睡眠がとれているはずなのに、4時間半睡眠では起きられないなら、その人は体質的に向いていないと考えたほうがいい。

普段6〜7時間寝ている人が、4時間半睡眠に移行しようと思うと、完全に定着するまでには1年ほどかかるが、3カ月も試してみれば、自分が4時間半睡眠に向いているか、何時間睡眠が適切なのかがわかるだろう。

■寝るべき時間帯と寝室の環境整備

また、同じ4時間半睡眠であっても、どの時間帯に寝るかによって結果は変わる。ホルモンの分泌や体温の変化は、人の意思とは無関係に起こるが、そういったさまざまな要素を勘案すると、午前0時から6時の間に寝ていることが理想的だ。4時間半睡眠の際も、この6時間に収まるように寝るのがいい。そして、決まった時間に寝て、決まった時間に起床することで、ホルモンの分泌や体温の変化が調整され、より眠りやすく、起きやすい体になる。

寝室の環境も重要だ。私の場合は、完全に遮光して無音状態で寝る。ただし、窓を開けて風を通すために、カーテンではなく、ブラインドを使用している。湿気を吸わせるために床は無垢板で、壁は漆喰だ。これなら扇風機を使えば、夏は十分快適に過ごすことができる。

朝、なかなか起きることができないという人は、まずは遮光カーテンを導入して、朝起きたらすぐにカーテンを開けるという生活を試すのがいいだろう。朝日を浴びると眠気に関係するメラトニンというホルモンの分泌が止まって目が覚める。メラトニンは体内時計の働きにより、起床から16時間ほどで濃度が高まるようになっているので、寝付きもよくなる。

夜に十分寝ていても昼間は眠気が出てくるものだ。そんなときはご飯を食べて眠くなったタイミングで、1、2分でもかまわないから寝てしまおう。いったん深い睡眠に入ってしまうと、なかなか起きられなくなってしまうのだが、15分程度であれば深い睡眠に入る前に目を覚ますことができる。だからタクシーや電車での移動中は寝ると決めて寝てしまってもいい。

私のオススメの昼寝方法は、温かいコーヒーを飲んでから眠るというものだ。人間は、高い体温が急激に下がるときに眠くなる。温かいコーヒーを飲めば、体温を下げようとする反応が起こるので眠るのにうってつけだ。しかも、コーヒーを飲んでから、カフェインが効き出すには15分かかる。カフェインが効き出す頃に起きれば、睡眠とカフェインの相乗効果で、仕事の効率もぐっと上がる。

(唐仁原俊博=構成 村上庄吾=撮影)