by jeffrey james pacres

人の腎臓は片方だけでも正常な状態を保つことができることから、末期腎不全患者における血液透析・腹膜透析にかわる治療法として行われる腎臓移植において、腎臓提供者のその後のリスクは少ないと言われています。医者から「腎臓を提供した人が腎不全になるリスクは、一般の人が腎不全になるリスクと同じ」という説明を受けて18歳の時に腎臓提供を行ったMichael Poulsonさんでしたが、その数年後、ドナーとなったことを後悔することになります。

At 18 years old, he donated a kidney. Now, he regrets it. - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/national/health-science/at-18-years-old-he-donated-a-kidney-now-he-regrets-it/2016/09/30/cc9407d8-5ff9-11e6-8e45-477372e89d78_story.html

Poulsonさんが腎臓を提供したのは18歳、ちょうど大学への進学を控えている時でした。継父の兄弟が1年以上も透析で苦しんでいるのを見たPoulsonさんが腎臓移植のドナーとしての適合性を検査したところ、血がつながっていないにも関わらず、組織適合性があることが判明。家族からの反対にあいながらも「腎臓移植のドナーとなった人が腎不全になる確率は、一般の人が腎不全になる確率と同じ」ということから、Poulsonさんは腎臓を移植することを決断しました。写真の男性は2016年現在のPoulsonさん。



母親と共に手術が行われるサンフランシスコの病院まで向かい、手術室で麻酔を受けたPoulsonさんはすぐさま意識を失い、次に目覚めた時には手術が終わっていたとのこと。術前にあった手術に対する不安は、自分が有していた1つの腎臓とともに消えていってしまった、とPoulsonさんは当時のことを語っています。



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その後、体力を回復したPoulsonさんは大学に行き、平穏な日常生活を送ることになります。また、腎臓を提供された男性も健康な体に戻り、生活を楽しむことができたとのこと。

しかし手術から5年後、メディカルスクールへの進学を前にしたPoulsonさんはある研究施設で腎臓提供したドナーの様子を見ていた時に、大きな不安を抱くことになります。研究所でPoulsonさんが会話した100人以上の、かつて腎臓を誰かに提供したドナーは腎不全を患っており、中にはガンを発症させている人もいたのです。腎臓を提供したドナーについて学べば学ぶほど、Poulsonさんの中で不安は大きくなっていきました。

さらに、Poulsonさんに追い打ちをかけるように、2014年には、「腎臓を提供したドナーは末期腎不全になるリスクが大きい」という研究結果や、「心血管疾患といった原因で死亡するリスクが高い」という研究結果が発表されました。

もちろん、これらの研究結果はまだ議論の的となっており、例えリスクがあっても小さいものだ、とする意見も多くあります。アメリカの病院がドナー患者を追跡しデータを取るのは術後2年のみなので、長期的視点で慢性腎臓病といった合併症が起こりうるかどうかを観察するのは非常に難しいためです。過去数十年で行われた腎臓移植の総数も、腎臓移植後、腎不全となったドナー患者の数も把握できていないというのが現状なので、現時点で発表されている研究結果から「揺るぎない事実」は導き出せていません。

それにも関わらず、近年の腎臓移植では「長期的に見てもリスクが少なく、害のない手術」と説明され、ドナーは「利他的で勇敢な人」だとして賞賛されており、データが不足していることや現実に起こりうる移植後のリスクについては述べられていません。



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内科医を目指す医学生としてインフォームド・コンセントの重要性を理解したPoulsonさんは、「医者が持っているデータは必ずしも患者に伝えられるわけではない」ということ、そして18歳の時、術前に「研究が不十分で、長期的な健康への影響はわからない」ということを知らされなかったことに怒りを感じているとのこと。

腎臓移植によって身体的なリスクが増加したという事実との折り合いはついてきているものの、時々不安になるというPoulsonさん。腎臓提供者であるという事実はPoulsonさんのアイデンティティの一部になっており、Poulsonさんが「腎臓移植をした」ということを知った人の中には勇敢さや利他主義を賞賛する人もいるそうですが、一方でPoulsonさんは「腎臓移植をした」という事実を隠そうとしている自分に気づいたとのこと。自分のことを「謙虚なのだ」と自分で思いこもうとはするものの、実際のところ、「腎臓移植をしたことを後悔しているのだ」とPoulsonさんは語っています。