関東 日帰り 出会い旅 Vol.012 /アートでつながる旅(群馬県前橋市)【2】

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【毎週土曜 6:00 更新】
東京から90分以内の日帰り圏内。その円を広げてみると、そこにはとても豊かな自然や、新鮮な景色が広がっています。身近なようでまだ知らない「関東の田舎」で、地元を愛するみなさんと触れ合いながらの、楽しい週末旅はいかが? 『アーツ前橋』学芸員の辻さんが案内する前橋旅。3姉妹が営む食材店『サンデールーム』をあとに、歩いてすぐそば、地元に密着したアーケード商店街に向かいました。



東京駅から新幹線に乗って80分。自然との距離が近く、町を見守る赤城山には手が届きそうなほど。また、明治時代から国内有数の生糸の生産地として栄え、現在は群馬県の県庁所在地でもある。詩人の萩原朔太郎が生まれた地としても有名。



アーツ前橋学芸員。2010年からアーツ前橋開館準備に携わり、展覧会企画と教育普及を担当している。主な展覧会に「服の記憶 私の服は誰のもの?」展(2014年)、「田中青坪 永遠のモダンボーイ」展(2016年)など。食をテーマにした「フードスケープ 私たちは食べものでできている」展を担当したことにより、日々の食生活を見直し中。趣味はキモノとスポーツジム通い。



中央通り商店街沿いにある『Maebashi Works』。

◆人が集まる商店街のシェアアトリエ『Maebashi Works』

辻さん:次は地元に住むアーティストたちが作ったシェアアトリエ『Maebashi Works』をご紹介しますね。代表のカナイサワコさんは、私の勤める美術館『アーツ前橋』でも展示して頂いたこともある美術作家さんです。

磯木:商店街にアトリエを作っちゃったんですね。ここでは具体的にどんなことをしているんですか?

カナイさん:この2階をアトリエにしていて、普段はそこで作品の制作をしています。そして1階が作品展示やトークイベントを開催するフリースペースです。

磯木:イベントがあるときだけ一般の人が入れるというわけですね。

辻さん:でも、週末の夜には大体なにかしらやってるんですよね。

カナイさん:はい。焼肉パーティーをしたり、1日限定スナックをやることもあります。こうしたイベントで、いろんな人が来てくれて関わりができるので、商店街に作ったのはよかったですね。



1階にあったミラーボール。スナックでも活躍予定。

辻さん:商店街の納涼祭にも関わっていたり、アーツ前橋学芸員でもあるメンバーのひとりは、商店街の理事などもしていますよね。

カナイさん:去年はこの中央通り商店街をテーマにしてアトリエのメンバーがそれぞれ作品づくりもしました。

磯木:なんだか祭りが多くて楽しそうですね(笑)。ところで今日はなにを?

カナイさん:今日はまさにこれから、スナック開催のためのカウンターづくりをするところです(笑)。



『Maebashi Works』の前にはテーブルとイスが置かれ、誰でもひと休みできる。



カナイサワコさんの造形作品。

◆アートでつながり、外に開いていく。

磯木:2階のアトリエも見てもいいですか?

カナイさん:どうぞどうぞ。

磯木:おお、これがカナイさんの作品ですね。

カナイさん:そうです。これは瓶をすりガラス状に薄く加工していった作品です。

磯木:おもにこういった造形作品を作ってらっしゃるんですか?

カナイさん:あと、最近は映像作品づくりもしています。

磯木:幅広いですね。カナイさんはもともと前橋出身なんでしたっけ?地元でこんなアトリエが持てるような環境があっていいですね。

カナイさん:はい。大学から東京でしたけど、しばらくして戻ってきて。ちょうど『アーツ前橋』ができる頃だったので、そのプレイベントに行くようになったら地域のアーティストたちが繋がり出してコミュニティっぽくなってきました。

磯木:『Maebashi Works』は、メンバーは何人?

カナイさん:9人です。でも全員がアーティストというわけではなくて、『アーツ前橋』の学芸員や幼稚園の先生が関わるようになってきたこともあって、純粋な制作アトリエというよりも、いろんなことができるアートスペースになってきましたね。

磯木:地域に繋がって、開かれる場になってきたというわけですね。アトリエメンバーの結束も固そうですね。

カナイさん:結束、固いかなあ…。結束していなくて緩いのがいいのかもしれませんねえ。

磯木:なんだかさっき『サンデールーム』さんで聞いたような展開ですが(笑)。ところで辻さんから見てカナイさんってどんな人なんですか?

辻さん:“一生懸命な人”ですかね。同世代で同じ街でがんばってる人がいるってうれしいですね。実は今度はじめてふたりで女子会をするんですよ。

カナイさん:私も辻さんのこと、同志だと思っています!(笑)





カナイさんがアートディレクション&デザインを手がけた前橋市の観光パンフレット「kurun」。

◆旅を終えて

群馬といえば冬の雪山など自然のイメージがあったので、いわゆる街中に行ったことはなかった。しかし、勝手に思っていた以上に街中は充実していて、レンタカーも必要ないくらいのコンパクトなまちには、辻さんに紹介してもらったものの、時間が足りずに行けなかったところもたくさんあった。すぐそこにある赤城山では縦走して美しい景色も眺められるとのことで、アートに触れたあとに体を動かすというコースで旅することもできそう。日帰りでも楽しめるが、行ってしまうと長居したくなるまちである。



・『アーツ前橋』
TEL.027-230-1144
群馬県前橋市千代田町5-1-16
開館時間/11:00〜19:00(入場は閉館時間の30分前まで) 
休館日 水曜日

2013年10月にオープンした前橋の新しい芸術文化の発信拠点。展覧会、イベント、地域アートプロジェクトを行う。

・『Maebashi Works』
群馬県前橋市千代田町2-7-17

前橋市の中央通り商店街にあるアートスペース。1Fフリースペース、2Fシェアアトリエ、3F住居&レジデンス。フリースペースを使ってのイベントを随時開催。



食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター

自然と共生する価値観と地域の可能性をテーマに雑誌媒体などに取材・執筆・企画。2013年から現場に身を投じるべく、海と里山のある千葉県いすみ市に在住。地域の営みを観察し未来をつくる書き手を増やすための合宿型ライター・イン・レジデンス「ローカルライト-地域の物語を編む4日間」を主宰し、全国で開催。石巻復興まちづくり情報交流館コンテンツ編集デスク。季刊自然栽培「見えないものを見る」連載中。近刊予定として『「小商い」で自由にくらす〜房総いすみのDIYな働き方』(2016年冬発刊予定)。