オーストラリア戦では攻撃が機能せず。「これ以上、やれることはなかった」という香川真司の言葉がすべてを表している。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 ジーコやオシム、岡田武史やザッケローニが日本の長所を武器にして世界と戦おうとしたのに対し、ハリルホジッチは日本に足りないものを伸ばそうとしている。
 
「攻撃における縦へのスピード」「競り合い、身体と身体のぶつかり合いでの強さ」「ゲームプランの使い分け」がそれだ。
 
 苦手なことに取り組んでいる最中だから上手くいかないことが多く、今は「産みの苦しみ」を味わっている段階とも言える。
 
「自分たちが回すのももちろんだけど、ワールドカップではそれで勝てなかったわけで、そこから脱皮するというか、成長するためにも臨機応変さは必要だと思う」
 
 そう語ったのは、南アフリカ大会、ブラジル大会と二度のワールドカップを経験している岡崎慎司だ。南アフリカ大会では守備重視のスタイルで、ブラジル大会ではポゼッション重視のスタイルで戦ってきた日本代表がロシア大会で勝ち上がるためには、速攻や臨機応変さを身に着けることへのトライは、避けて通れない道なのかもしれない。
 
 オーストラリア戦はイラク戦からゲームプランを大きく変えて戦った。長谷部誠のパートナーに山口蛍、CFには本田圭佑、両ウイングに原口元気と小林悠を配し、守ってカウンター狙いを徹底。守備のオーガナイズ作りとスカウティングを入念に行ない、オーストラリアの攻撃をPKによる1点に封じ込めた。
 
 もっとも、攻撃に関して言えば、「これ以上、やれることはなかった」という香川真司の言葉がすべてを表している。
 
 本田のスルーパスから原口元気が先制ゴールを決めたものの、決定機はこの場面を含め、3回ぐらいのもの。「前半は持たせるという感覚だった」と本田は振り返ったように、あえて相手にボールを保持させてカウンターを狙ったが、コロンビアやブラジルのように、鋭いカウンターを面白いように繰り出せたわけではない。ただ守っているだけで、チームとしてカウンターのパターンや約束事を共有しているようには見えなかった。
 
 臨機応変という点で言えば、ホームゲームだろうと、アウェーゲームだろうと、ボールを落ち着かせることもできていない。
 試合展開や状況による速攻と遅攻の使い分けは、本来ならば、柏木陽介が中心になってコントロールすべきだが、現状では柏木の先発はホームゲームにほぼ限られていて、先発しても途中で代えられてしまうことがある。
 
 本田や清武弘嗣もその役割を担える選手たちだが、本田はオーストラリア戦こそ1トップに入ったが、普段は右サイドでプレーしていて、攻撃のリズムやメリハリをコントロールするのが難しく、清武も柏木同様、常にピッチに立っている選手ではない。
 
 オーストラリア戦のピッチに立った選手たちも、守備に関しては一定の手応えを感じながら、攻撃に関しては問題を感じ取っていた。
 
「ブロックをしっかり作ってうまく守れたので、守備に関してはいい形ができていたと思うんですけど、奪ってからのカウンターや、低い位置でボールを取ってから前に運ぶ精度はかなりの修正が必要だと思いますね」と長谷部が言えば、山口も「繋いでもいいのに、って思うところでも簡単に蹴ってしまった。攻撃の部分でもっと自由に、いろいろやってもいいのかなって思います。 まあ、今日は守備に重きを置いていたから、仕方ない部分もありますけど」と振り返っている。
 
 カウンターの精度やパターンを欠いたり、速攻と遅攻を使い分けたりできないのは、現状のレギュラーの多くが所属ポジションで出られていないため、コンディションが悪いからなのか、まとまって練習する時間が足りないからなのか、そもそもハリルホジッチにオーガナイズする手腕がないからなのか……。
 
 幸い、次の11月シリーズではサウジアラビアとの最終予選のホームゲームの前にオマーンとの親善試合が組まれている。そこで、攻撃面での改善を確認したい。

取材・文:飯尾篤史(スポーツライター)