社会人こそ要注意! 職場での麻しん感染を防ぐのが困難なワケ

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 今年は夏以降、麻しん(はしか)が流行しています。8月には米人気歌手、ジャスティン・ビーバーのコンサート来場者に感染者が見つかったり、9月には関西空港内での集団感染のニュースが記憶に新しいのではないでしょうか。国立感染症研究所は8月25日に「麻しんに関する緊急情報」を発表しましたが、その後も患者数は増加しており、現時点ですでに昨年の年間患者数の約4倍の患者さんが確認されています。

 麻しんは感染しやすく、こじらせると危険であるとともに、妊婦が感染すると、流産や早産のリスクが高まることもわかっています。さらに麻しんウイルスは感染力が非常に強く、コンサート会場や体育館などどんなに広い場所であっても、その免疫を持っていない人は同じ空間にいるだけで感染します。

 感染すると約10日後に発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が現れ、2、3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と、発疹が出現します。合併症のない限り、7〜10日後には回復しますが、肺炎、中耳炎を合併しやすく、患者1000人に1人の割合で脳炎が発症する人もいます。死亡する割合も、先進国であっても1000人に1人と言われています。

◆職場における麻しん対策の現状

 さらに麻しんは職場においてもなかなか有効な対策が取れずに困っているのが現状です。

 今回は職場における麻しんの何が問題か。どのような対策が有効で、なぜそれができないのか。さらに現状、最善の策として何ができるかについて説明したいと思います。

 職場における麻しんの理想的な対策は、麻しん感染者、または家族が感染した者が人事に自ら申し出て、社内でそれを速やかに公表することでしょう。それが他の社員への予防と早期発見の第1ステップとなるはずです。また、実際に麻しんにかかった社員は学校保健安全法と同じく、解熱した後3日を経過するまで出勤停止とするのが理想的でしょう。

◆立ちはだかる個人情報の壁

 しかし、ほとんどの会社ではこれが社員にできません。理由はその裏付けとなる法律がないことと病名などが個人情報であり、本人の同意なしに会社が勝手に扱えないためです。

 麻しんは感染症法では「五類感染症 全数把握疾患」であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならないとされています。しかし、医師も保健所も会社には伝える義務はありません。なので、会社は患者本人が麻しんであることを自己申告しないとわからないのです。

 また、学校保健安全法では、麻しんは第2種の感染症に定められており、解熱した後3日を経過するまで出席停止とされていますが、労働安全衛生法をみても会社におけるこのような規則はありません。そのため、熱が引いて、すぐに出勤する社員を止めることは難しいというのが現状です。

 一般論としてもし社員が病気で会社を休んだ場合、就業規則などで診断書の提出を求め病名を会社が把握するとは合法的に可能です。しかし、たとえ該当社員の名前を公表しなくても他の社員が麻しん感染者を容易に想像できる形で、社内で公表することは本人の許可なければ、個人情報(個人の医学的情報)の開示となりますので、会社に新たなリスクをもたらします。

◆危険なのは妊婦さんへの感染

 では、全社員だけではなく、社内の妊婦さんにのみ、麻しんにかかった社員がいることを公表するのはどうでしょうか? 実際、私の産業医クライアントには麻しん感染者本人の同意のもと、そのようにしている会社もあります。しかし、これも万能ではありません。

 第1に、すべての妊婦さんが会社に自分の妊娠を早い段階で伝えるとは限らないからです。12週位の安定期に入ってから、上司や人事に伝える方はたくさんいます。会社が把握していない妊婦さんは同僚の麻しん情報を教えてもらえないわけです。