何を基準に判断するかで評価は変わる。そんな試合だったのではないだろうか。

 W杯アジア最終予選第4戦。日本はオーストラリアとアウェーで対戦し、1−1の引き分けに終わった。

 5日前に行なわれたイラク戦(2−1)と比べれば、試合内容はよかったと言えるだろう。自分たちの狙い――「引いて(守備の)ブロックを作ってカウンター」(MF長谷部誠)というプラン――に沿って試合を進められた、という意味では数段よかった。

 高い位置でボールを奪い、3本のパスで先制ゴールまでつなげたシーンは、まさに狙いどおりだっただろう。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も「ボールを奪ったあと、少し慌てたが」と攻撃面での課題を指摘しつつも、「相手にほとんどチャンスを作らせず、規律を持ってオーガナイズされた守備ができた」と、満足そうに語っていた。

 しかし、2012年に行なわれたまったく同じ条件の試合、すなわち、W杯アジア最終予選でのオーストラリアとのアウェー戦と比べたらどうだろうか。

 4年前の試合も、結果は今回とまったく同じ1−1の引き分け。だが、内容的に見れば、日本はほとんどの時間で、ボール支配率でも、攻撃の質でも、チャンスの数でも、すべてにおいて上回り、オーストラリアを圧倒した。

 どれほど充実した内容の試合だったかは、試合後の選手がはっきりと口にしている。

「今日はホント楽しい90分だったし、もちろんタフな相手だったが、やりがいがあるサッカーもできていた。チームとして攻撃の形は、ある程度は示せたと思う」(MF香川真司)

「結果は引き分けだが、はっきり言えるのは、僕らのほうがいいサッカーをしたということ。もっといいコンディション(ピッチ状態)で試合をしていたら、どうなったか。(オーストラリアがこの試合内容に)何も感じていなかったら、ただのアホか、何か秘策があるかのどちらかだろう」(MF本田圭佑)

 本田のコメントにもあるように、4年前の試合会場となったブリスベンのスタジアムは、ピッチがかなり荒れていた。パスをつないで攻撃を組み立てたい日本にとっては不利なコンディションだったのだ。

 実際、オーストラリアはグラウンダーのパスを使わず、前線へ放り込むロングボールを多用し、とにかく日本の弱点である高さとパワーで対抗しようとした。にもかかわらず、試合内容は前述のとおりである。

 ところが今回の対戦では、日本は徹底して守備を固め、カウンターに活路を見いだそうとした。これに対し、オーストラリアは4年前とは対照的に、単純なロングボールやアーリークロスでゴリ押しするのではなく、あくまでもパスをつないで攻撃を組み立てようとした。

 オーストラリアのビルドアップは、残念ながらかなり拙(つたな)く、特に前半は日本の守備網に引っかかることがほとんどだったが、それでも愚直に自分たちの現在のスタイルにこだわり続けた。

 つまり、試合に臨む姿勢に関して言えば、4年の歳月を経て、両者の立場は完全に入れ替わっていた。

 日本はボールポゼッションでオーストラリアを圧倒する以前に、端からその可能性を捨てて試合に臨んだ。「相手に(ボールを)回させてからのカウンターというのは、はっきりさせていた」(長谷部)というより、今の日本代表ではそうせざるをえなかったというのが、現実なのだろう。そうでなければ、再びイラク戦のような酷い試合になっていたかもしれない。

 日本が守勢に回った試合を振り返り、本田はこう語る。

「前半は(オーストラリアに)"支配させる"という感覚だったが、後半は"支配される"に変わった。これは大きな課題」

 確かに後半に入ると、さすがのオーストラリアもパスのテンポが上がった。日本は自陣奥深くまで攻め込まれることが多くなり、明らかにピンチの数が増えた。日本は「守ってカウンター」がゲームプランだったにしても、余裕を持って狙いどおりの戦術を遂行できていたわけでないことは、本田の言葉からもわかる。

 わずか4年にして、日本代表はここまで変わってしまった。有り体に言うなら、弱くなってしまったのである。オーストラリアを相手にアウェーの地で、あれだけボールを支配して圧倒していた強さは完全に失われていた。

 長谷部は「ボールを奪ったあとのカウンターの精度」を課題に挙げ、「(オーストラリアの)DFラインの足の遅さ、アジリティーのなさを考えれば、もう少しチャンスが作れたかなと思う」と語った。だが、そこまではっきりと短所がわかっていながら、そんな相手に「守ってカウンター」を選択せざるをえないのが、日本の現状なのだろう。

 もちろん、世界中を見渡しても、永久に右肩上がりで成長を続けるチームなど存在しない。時間の経過とともに選手は入れ替わり、抱える選手の能力はその時々で変化する。アルゼンチンにしても、常にメッシのような選手がいるわけではない。2010年にW杯で準優勝したオランダが、6年後にはユーロの本大会に出場できなかった例もある。

 しかし、だからといって、日本はもう4年前ほど強くないのだから、現実的な戦いをするしかないと諦めてしまっていいのだろうか。5日前のイラク戦よりも意図を持った試合ができているのだからと、それを評価している場合なのだろうか。

 前の試合では相手のカウンターを恐れて、DFラインの背後へボールを蹴るだけの攻撃に終始し、今度は守りを固めてカウンター狙い。臨機応変と言えば聞こえはいいが、長期的な視野に立ったとき、これが本当に日本サッカーの強化、あるいは成長につながるのだろうか。

 どうにも腑に落ちない10月の2試合だった。


浅田真樹●文 text by Asada Masaki