ユーグレナ社長 出雲充氏●1980年、広島県生まれ。2002年東京大学農学部卒業後、東京三菱銀行入行。05年より現職。15年第1回日本ベンチャー大賞にて「内閣総理大臣賞」受賞。

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注目ベンチャー企業の社長から伝説の営業マン、最年少開発責任者、外資系企業の社長まで、彼らのキャリアを好転させた渾身の資料を大公開。

■息を吹き返した伊藤忠からの出資

ミドリムシで注目されるユーグレナの時価総額は約1400億円。しかし、創業から3年経った2008年、倒産の危機に立たされていた。

当時、出雲充社長は出資者や提携先を探し、奔走していた。事業計画書を携え、企業を訪問するものの袖にされ、その数は500社に上った。

東京大学3年のとき、「世界から栄養失調をなくす」大きな可能性を持つミドリムシと出合った。いったんは東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に就職するも、わずか1年で退職。ミドリムシで事業を成功させると夢にかけてきた。しかし、その夢が潰えようとしていた。

そうして501社目に訪問したのが伊藤忠商事だった。そこで出資と提携が決まり、ユーグレナは息を吹き返すことになる。

「最初に持っていった企画書は、それまでのものから特に内容を変えたというわけではありません。そのときに、先方が『まだ取引先がないのは自分たちにはチャンスだ』と言ってくれたのが大きかった。今から振り返ると、2回目に持っていった資料が重要だったと思います」

出雲氏は資料を作る際、相手の性格や、重視する点に合わせることを心がけていたという。

たとえば、企画を審査する相手が数字にうるさい人であれば、数字を正確に説明することが求められる。その場合、エクセルで将来の売り上げ、利益、経費などをシミュレーションし、データを中心に訴えた。

一方、相手が情熱を大事にする人だったら、ビジュアルを中心とした資料で事業にかける熱意を見せる。最初の提携を決めてくれた伊藤忠の取締役がそんなタイプだった。

「ベンチャー企業の経営計画とか、そんな計数を見たってしょうがない。ベンチャー企業なんて来年なくなっているほうがふつう(笑)。それよりも、なんでミドリムシをやりたいのかを説明してほしいと言われました」

取締役向けの説明資料は写真で埋め、ミドリムシにかけるパッションを示した。プレゼン後、「ぜひ一緒にやりましょう」と一言。出資が決まった。

■意外な反応を示した新日石

相手によって資料を使い分ける。そのためには、相手のタイプを知り、過去にどのような企画書を通し、どういう資料をボツにしたかを確認しなければならない。「取引したい相手方企業の中に、そういうことを教えてくれる味方をつくるのがコツ」と出雲社長は語る。

伊藤忠の出資決定後、取引先数は飛躍的に拡大。日立製作所、新日本石油(現・JX日鉱日石エネルギー)と、立て続けに大手企業からの出資が決まった。

これまで多くの失敗を重ねてきた出雲氏だが、その経験から「資料を作るときはある程度決め打ちして、精度を高めるのが常道だと思いますが、デメリットもけっこう多い」と言う。

新日本石油との交渉の際、バイオ燃料に興味があるだろうとその説明を熱心にした。すると意外な反応が返ってきた。

「ミドリムシにはこんなにビタミンが含まれていると話したんです。そこに非常に興味を持ってもらい、『うちの食堂で売ってみようか』と言われました」

企業のベンチャー投資は、本業以外のところで考えているケースも多い。エネルギー関連の企業だからといって、そこばかりをアピールする資料は、かえって相手に響かないこともある。

「1回目の面談ではほとんど資料を使わないこともあります。ミドリムシのどこに興味があって、きょう会ってもらえたのかをお聞きするほうが、相手のニーズに合わせられる。そうしないとチャンスも広がりません」

「この資料なら絶対相手にアピールできる」という先入観を持ちすぎると、伝わる資料にならない。最初の面談は“資料半分”くらいの姿勢で臨むのが出雲社長のモットーだ。

■初の出資を決めた「奇跡の資料」

【1】出資先を募るために用意した2種類の資料
起業3年目の2008年当時、出資・提携先を探す際に使用していた資料の表紙。501社目で出資が決まった伊藤忠との最初の商談でも使用。相手のニーズによって話を変えられるよう、ミドリムシ(ユーグレナ)の説明をする資料とユーグレナの企業紹介をする資料の2部を作成し、持ち歩いていた。

【2】相手に合わせ、「ビジュアル重視」と「データ重視」を作り分ける
2回目以降の訪問では、資料を相手に合わせて作りこんでいく。特に担当者の上長と会うときは、事前にタイプをリサーチ。感情に訴えたほうがよいのか、正確に数字を伝えたほうがよいのかを把握し、資料に反映していった。伊藤忠の場合、キーマンが情熱的なタイプだったため、ビジュアルを重視した。

(Top Communication=構成 宇佐美雅浩=撮影)