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調査報道の辣腕記者、大統領選のインチキ暴く

 最終コーナーに入った米大統領選の真っただ中にアッと驚く本が出た。

 保守系の億万長者が秘かにカネを出して各州の有権者登録データを不正操作し、共和党に投票する有権者を二重投票させていた新事実を明らかにした本だ。

 著者はこれまでにもブッシュ一族の「不正選挙操作」を暴いた調査報道記者のグレッグ・パラスト氏(64)だ。

 今回は、米連邦政府独立機関、「選挙支援委員会」(ESC)が保管する全米有権者登録リストを入手、いかに不正操作が行われているかを突き止めた。

 これによると、オハイオ、サウスカロライナ、コロラドなど、大統領選挙では「スウィング・ステート」(選挙のたびごとに民主党、共和党各候補が勝ったり負けたりする「揺れる州」)を含む十数州で、1人の有権者が2つの州で二重投票している実態が浮かび上がったのだ。

 二重投票は公選法で禁止されており、有罪判決が下ると、懲役5年の刑を受ける重罪だ。

同じ名前の有権者が2州を跨いで2回投票の不思議

 誰がこんな操作をしたのか。

 著者は、その背後に過去10年間、共和党が秘かに実施してきた「全州有権者登録点検計画」(Interstate Voter Registration Crosscheck Program)があると言う。

 資金面でこれを支援してきたのは、エネルギービジネスなどを手がける「コーク産業」の最高経営責任者で、445億ドルの資産を誇るチャールズ・コーク氏(80)やヘッジファンドで億万長者になったポール・シンガー氏(72)。

 知恵を出したのは保守系シンクタンクの「ヘリテージ財団」であることを突き止める。

 「二重投票」の有無については以前から取りざたされていた。

 現にドナルド・トランプ共和党大統領候補は、今年1月5日、ニューハンプシャー州で行った集会でこう述べていた。

 「投票システムは今や制御不能に陥っている。何回も何回も投票している有権者がいる」

 トランプ氏の竹馬の友でかってはビル・クリントン元大統領の側近だったが、その後反クリントンに転じた政治評論家のディック・モリス氏は、フォックス・ニュースの番組でこう言ってのけった。

 「共和党の人間が大規模な不正投票を裏づける証拠を見つけた。ノースカロライナ州ではなんと3万5500人がほかの州でも投票していたんだ。全米規模でその数は100万人にはなるだろう」(フォックス・ニュース「シーン・ハンティ・ショー」2014年4月7日)

 ところが連邦政府はこうした憶測には「知らぬ顔の半兵衛」を決め込んできた。

「どぶに捨てられた清き一票」は590万票

 著者が暴いた不正選挙の実例はまだまだある。

 EACのデータを徹底検証し、コンピューター専門家集団の協力を得て明らかになった新事実は、過去10年間の大統領選で有権者の590万票が「どぶに捨てられていた」といショッキングな新事実だ。

 その内訳は、

(1)有権者の270万票は実際に集計されず、闇から闇に葬り去られていた。
(2)有権者が投票したはずの320万票が削除されていた。

 こうした「どぶに捨てられた票」の大半は、民主党候補に投票する可能性の高い黒人有権者の票だった。

 著者によれば、こうした嫌がらせは、共和党州知事の下で働く州務長官が率先して行ったケースが多いという。

 「州が管理する有権者登録リストは極秘になっている。それをいいことに州務長官はしたい放題。他州ですでに投票した有権者の名前を拝借してもう一度投票させたり、民主党候補に投票しそうな黒人有権者の票を削除したり、最初から集計しなかったりした」(本書)

 それだけではなかった。大統領選挙が行われる投票所や投票時間の設定は各州の州務長官が決める。

 著者は南部のサウスカロライナ州の黒人密集地区では白人居住地に比べ、投票所を極力少なくすることで待ち時間を長引かせる措置を取ったり、投票所受付で改めて写真つき証明書の提示を求め、何ページにもわたる書類を書かせるなどの嫌がらせをしている実態を取材している。

脚光は浴びたのは2002年のフロリダ不正選挙報道

 パラスト氏が最初に注目を浴びたのは、ジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事(当時)2000年大統領選挙の際、子飼いのキャサリン・ハリス州務長官(当時)を使って有権者登録リストから黒人票を削除させた事実を暴いたスクープだった。

 ところが、ニューヨーク・タイムズをはじめ主要メディアはすべてこれを無視した。その理由はブッシュ知事が否定したからだった。その結果、この疑惑は米社会では無視された。

 なぜ、こんな不正が行われているのか。

 選挙登録や登録記録の管理はすべて各州の州務長官が行い、「公正な選挙」を実施するという大義名分を盾にすべて極秘になっている。それにつけ込んだ悪事がはびこっているのだ。

 パラスト氏が前著で暴露したフロリダ州の「不正」の手口は、新著で明らかにされた不正選挙にも使われていた。

 パラスト氏はこう結論づける。

 「共和党保守派の白人の中には、民主党を支持するヒスパニックやアジア系の急増で共和党はますます厳しい選挙を迫られていると考えるものが増えている」

 「そのためにはありとあらゆる手を打たねばならないと考えた末、一部の選挙屋が考え出した『不正工作』だった。その背後には保守派の億万長者や保守系シンクタンクが蠢(うごめ)いている」

本書と同時にドキュメンタリー映画も制作

 パラスト氏は、本書の出版と同時にドキュメンタリーを制作、11月上旬から一般公開される。

 それに先立ち、同氏は全米各地で開かれている試写会に姿を見せ、「自分の票が適切に登録され、11月8日の大統領選挙で有効かどうか、再チェックしよう」キャンペーンを行っている。

 10月1日夜、カリフォルニア州ノースハリウッドで試写会が行われた。その会場にもトレードマークのハットを被ったパラスト氏が登壇し、映画終了後、招待客との質疑応答に応じた。

 招待客全員、リベラル派のようだった。おそらく招待客全員、ドナルド・トランプ共和党大統領候補には票を入れる雰囲気ではなかった。

筆者:高濱 賛