これも壮大なるチャレンジである。スタートしたプロバスケットボールのBリーグ、サンロッカーズ渋谷(SR渋谷)の本拠は東京都渋谷区、ホームアリーナが青山学院大の体育館(青山学院記念館)である。成功のカギは?と聞けば、SR渋谷の岡博章社長は「地域貢献」を挙げた。

「まずは渋谷の子どもたち、近辺の子どもたちにサンロッカーズの試合を見に来てもらって、自分も将来、バスケット選手になりたいんだ、このチームでやりたいんだ、と思ってもらえれば、成功かなと思います。子どもたちに夢を与えて、スポーツを通じて地域に貢献できれば一番だなと思います」

 8日のホーム開幕戦、SR渋谷vs富山グラウジーズ。試合開始(午後6時)の1時間半前の開場の際、体育館の周りには長蛇の列がグルグルとできていた。ざっと150m。特に子どもや若者、女性の姿が目立った。熱気に気圧(けお)されながらも、岡社長はホッとした表情を浮かべていた。

「これほどのお客さんが来てくれて、率直にうれしいなと思います。この勢いが続くよう、我々も営業努力していかないといけないですね。ぜひ、このお客さんがリピーターとなって、ずっと継続して応援してもらえるよう頑張りたい」

 人気沸騰に青学大の三木義一学長も笑顔だった。SR渋谷はこれまで、NBL所属の日立サンロッカーズ東京という強豪クラブだった。プロバスケと大学のコラボに声も弾む。

「こんな形で進んでいってくれるといいですね。青学大に対するイメージも上がって、いい大学だと思ってくれるとありがたいですね。渋谷、バスケット、日立、青学、これが一緒になって発展していけばいい。お互いが、それぞれ"ウイン・ウイン"の関係じゃないと、継続できませんから」

 人気と強化はチームの両輪である。ホーム開幕戦に向け、1964年の東京五輪のときに建てられた伝統の体育館に新しいコート床を付け、照明機器や音響設備を加えた。もちろんBリーグ開幕のときの東京・国立代々木競技場のようなLEDビジョンなどの派手な演出はない。簡素なイメージは拭えないが、それでも、ほぼ満員の「2624人」がスタンドを埋めた。観客席の最上段には立ち見も出た。

 観客席とコートが近く、臨場感はバッチリだった。「サンロッカーズ!」「サンロッカーズ!」。歓声と興奮。渋谷が終始、リードをしたこともあって、SR渋谷のチームカラーである黄色一色となった観客席もノリノリだった。唯一寂しいのは、大学の体育館ということもあって、売店でビール販売がないことか。(いや、裏を返せば、子どもや家族連れには安心なアリーナともいえる)。

 試合はSR渋谷の79−61の快勝だった。SR渋谷のキャプテン広瀬健太は青学大OBである。31歳。この日、攻守に活躍し、8得点、5スティールを記録した。「満員のお客さんを見て、すごく気持ちが高まりました」。試合後、笑いながら遠い昔を懐かしんだ。

「学生時代とは雰囲気が違いますね。ここは苦しい思い出しかない体育館なので......。ハハハ。もう練習がきつくて、監督も怖かった。特に下級生の時は、一番早く来て準備して、最後まで体育館に残っていました。ホント5、6時間ぐらい。トラウマじゃないですけど、それが出なくてよかったです」

 それはそうだ。プロチームのホームアリーナなのである。それなりの演出や舞台づくりはなされている。

「アリーナとして、やりやすいですね。お客さんとの一体感もありました。プレーしていて、気持ちがよかったです」

 また本拠が渋谷区というのがヒットである。これはプロ野球やJリーグのチームには絶対、マネができないだろう。広瀬は島根・松江東高出身。渋谷のイメージを聞けば、「大学時代、とにかく楽しかったです」と笑った。

「田舎から出てきた学生が、この街にやってきて。飲みにいったり、渋谷でバイトをしたり。やっぱり若者の街なんです。勢いがあるというか、パワーがありますよね、渋谷は」

 渋谷はまた、バスケットの"聖地"ともいわれている。1964年東京五輪の開催にあたり、バスケットボールの専用体育館として建設されたのが代々木第二体育館だった。かつてはそこで高校バスケの全国大会が開かれていた(※)。
※現在はウインターカップという名称で、東京体育館で行なわれている

 渋谷のスクランブル交差点そばの渋谷センター街は2011年、「バスケットボールストリート」に名称変更がなされた。地味ながらも、ストリートの入り口には銀色のバスケットボールが飾られている。

 そういえば、広瀬らSR渋谷の選手たちはBリーグ開幕前、東京都を本拠とするアルバルク東京の選手とともにバスケットボールストリートをパレードした。「もともと人が多いところを歩くのは恥ずかしかった」と広瀬キャプテンは言う。

「でも、優勝してもう一度、パレードをやりたい。そうすると、サンロッカーズの認知度も上がるでしょう」

 プロリーグのクラブのマーケティングが成功するための要素は多々あるが、ブランディングもそのひとつである。つまり、しっかりしたコンセプト。B1リーグでいえば、今のところ、「琉球王国」の琉球ゴールデンキングス、「バスケ王国」の秋田ノーザンハピネッツ、「田臥勇太」の栃木ブレックスなどは、ほぼ確立されているのではないか。

 クラブのコンセプトがしっかりしていれば、スポンサーもファンも集まってくる。カネが集まれば、強化も加速できることになる。SR渋谷はホームアリーナ探しに難航した結果、青学大の体育館を借りることになった。行政関係の手続きに手間取ったため、営業活動は出遅れた。メインスポンサーの日立製作所があるとはいえ、「まだ20社程度。まだまだ募集中と書いておいてください」(岡社長)という。

 渋谷には多くの会社が集まり、マーケットのポテンシャルは大きい。青学大の体育館の立地は抜群である。東京メトロの表参道駅からは徒歩数分、JR渋谷駅からも徒歩圏内で、洒落たレストランやショップが近くに並ぶ。こういった利点をどう生かすのか。

 チームの人気アップはまず、勝利が一番だろう。さらにはスター選手。

 SR渋谷は9日も富山グラウジーズに76−52で快勝し、通算5勝1敗でリーグ中地区首位に浮上した。観客数は2503人。ちなみに昨季の1試合平均は約1300人だった。

 ファン拡大のターゲットは「子ども」である。SR渋谷の広瀬キャプテンはこう、しみじみと言った。使命感が頭をもたげる。

「Bリーグになったのは、日本代表を強くするためというのが理念にあるので、将来の日本代表になるような子どもたちにバスケットボールに興味を持ってもらえるようにしたい。バスケットの試合に招待したり、オフシーズンにバスケット教室を開いたり、子どもたちとバスケットを通してコミュニケーションをとっていきたい。それがBリーグの中で一番大事なことかなと思います」

 若者の街、国際都市、ファッションの街、渋谷に誕生したSR渋谷。恵まれた立地を活かし、クラブのブランディングに成功することができるだろうか。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu