東京財団研究員(政策研究調整ディレクター)の小原凡司氏は時事通信社のインタビューに応じ、中国の軍事情勢などについて見解を示した。内容は次の通り。(インタビューは9月28日、聞き手=時事通信社解説委員 市川文隆、写真はニュース映像センター写真部 鴻田寛之)

――現在の米大統領選を中国はどう見ているのでしょうか。

小原凡司・東京財団研究員 米国は今、外交どころではないということを中国は理解していると思います。たとえヒラリー・クリントン氏が大統領になったとしても、対外的に大きな資源は割けないだろうと思っています。クリントン氏は民主党には珍しい、ルールをごり押しするタイプなので、中国は嫌いでしょう。それでもルールを押し出して型通りにやってくる方が読みやすいという思いはあるでしょう。

 一方、中国は、ドナルド・トランプ候補のようなポピュリストは好きではありません。世論によってどうにでも変わるからです。中国では、トランプ氏は商人だから金さえ積めば反対はしないはずだとの声も聞こえますが、本音のところではいつ手のひらを返されるのだろうかと心配するはずです。

 ポピュリストと言われるドゥテルテ・フィリピン大統領も、世論次第でいつでも対中強硬になりうるという意味で、中国は非常にやりにくいと思います。

――トランプ氏が大統領になったら、中国はやりやすくなるとの見方もあります。

小原氏 中国は米国の貿易など経済的な権益を侵しにいくわけですから、中国は米国に妨害されるのが怖いのです。トランプ氏が万一大統領になったとして、中国のそうした活動を理解した場合は、米国の権益を守るために動くと思います。そうした場合、中国にとってはトランプ氏の方がやりにくいのかもしれません。

――米中関係の今後をどう見ていますか。

小原氏 中国は経済権益を拡大したい、でもそれが思うようにいかないから不満だと言っています。経済ルールだけでなく、中国が触れてほしくない問題、人権や西洋型民主主義に関して国際社会で共通の価値観が形成され、この価値観を共有できる国が国際社会の成員だということになると、中国はこの条件には当てはまらない。欧米先進諸国が、こうした国際社会の認識、ルールを用いて中国の発展を妨害すると捉えるのです。コソボ紛争の時に、北大西洋条約機構(NATO)が人権の侵害を理由に軍事力を行使しましたが、中国は激しく反発しました。これを適用すると中国の人権侵害にも軍事力を行使する前例のようなものですから。

航空優勢、第1列島線超えて顕示

――韓国内での核保有論の高まりに対し、中国はどう見ているのでしょう。

小原氏 中国は、朝鮮半島が核を持つことに反対です。北朝鮮の核保有に反対しているのは、半島情勢の今後が不透明で、南北が統一されて米国寄りの核保有国になったら、中国にとっての悪夢でしょう。緩衝地帯としておきたいという以上は望んでいません。その意味で韓国はもちろん北朝鮮の核保有も嫌だということです。

 中国は、米国が極度に引いてしまうとこの地域のバランスが崩れて、日本や韓国に核武装論が出てくるのは困る。在日・在韓米軍に居てもらって、日韓を安心させておいて、米中で安全保障関係をつくっていくのが中国の理想でしょう。

――「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に中国が強く反発しています。

小原氏 THAADミサイル自体が脅威ではなく、ユニットを構成するレーダーによって中国の国内が読まれることへの反発です。一方で、中国指導部にとっては「この地域のバランスを崩しているのは米国だ」といういい口実になったと思います。これでバランスを回復するために北朝鮮を支援するのだといったような自分勝手な口実です。

――最近、宮古海峡を中国の航空機8機が通過したことが報道されました。目的は。

小原氏 日米に対するけん制であることは間違いありません。東シナ海、西太平洋まで航空優勢を取る実力があることを示したいのでしょう。その中にグアムの米軍基地も含まれています。

 今回確認された爆撃機H─6K、これは巡航ミサイルDF─10が搭載できますが、これでグアムの空軍基地はいつでも攻撃できるということです。宮古と沖縄の間を抜けていくということは中国空軍の活動を太平洋まで押し出してくるという意味です。

 こうした爆撃機が長距離を飛んで爆撃する訓練は、これまでもやっています。今回の特徴はこれだけの機数を使って、この空域の航空優勢を示そうとしたということです。中国軍が常に活動していることを示したいのだと思います。

――自衛隊のF35戦闘機が配備されれば、地域情勢が変化しますか。

小原氏 象徴的なことだと思います。南西諸島は現在のF15で十分でしょう。とはいえ、実際に戦闘力が高いということなので、中国に軍事衝突を避けたいと思わせる効果はあります。米国と衝突したら負けてしまうので、優勢を高めつつ日米と衝突しないよう常に考えるということです。

市川文隆(時事通信社解説委員)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載