『AV女優とAV男優が同居する話。』(時計/小学館クリエイティブ)

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“カメラ回ってない所で金にならないセックスしてどーすんの”

 これは、『AV女優とAV男優が同居する話。』(時計/小学館クリエイティブ)の主人公・梓のセリフだ。セックスはあくまでも商売道具。カメラの前でするセックスに、感情が伴うことはない。彼女は、僕らが性産業に従事する女性たちに抱きがちなイメージを、そのまま体現しているような人物像だ。しかし、本作を読み進めていくと、そのイメージがいかに間違ったものなのかを思い知らされる。

 タイトルにもある通り、本作はとある理由からルームシェアすることになったAV女優とAV男優の姿を描いた作品である。梓の同居相手は、大地。金欠を理由にAV男優になることを選んだ男だ 。大地のやさしい人柄、そして同業者ということもあり、次第に距離が縮まっていく。

 ふたりはプロのAV出演者。だからこそ、カメラが回っていない所ではセックスしない。大地が「女優さんだし、家でもやってあげなきゃ駄目かなと思った」と口にすれば、前述のように梓は「金にならないセックスをしてどうするんだ」と答える。

 そんな梓に徐々に惹かれていく大地。「仕事と恋愛は別物なのに理解してもらえない」と寂しそうに呟く彼女に、大地は「同業者だからこそ、恋人としてもうまくやっていけるはず」と告白する。こうして彼女らの関係は、同居人から恋人へと変化するのだ。

 ところがある日、撮影に呼ばれた梓は狼狽する事態に直面する。ふたりの関係をおもしろがった監督によって、仕事で共演することになってしまうのだ。

 “大地との初体験”が商品になってしまう。大地との関係は、“仕事”ではなく“恋愛”なのに、その気持ちがカメラによって踏みにじられてしまう。気持ちいいはずのセックスが、苦痛でしかない。そして梓は、「こんな仕事場じゃなければ、もっとまともに始まれたのかもしれない」と涙を流す……。


 その後、AV業界から去った梓と大地。彼女らがどのような道を辿ることになるのかは、ぜひ本作を読んで確かめてみてほしい。

 本作で強く描かれているのは、AV女優・AV男優も僕らと同じ“人間”であるということ。彼女たちにだって感情はあるし、どんなことをされても傷つかないわけではない。けれど僕らは、セックスを売り物にしているという一点だけを見て、「自分たちと彼らは別次元に生きている」と見なしてしまいがちだ。そして、そういった視線が、彼らを必要以上に傷つけているのである。

 この世はすべて地続き。公務員として働いている人の隣に、性産業に従事している人が存在する。その間に壁などなくて、皆同じ世界に生きる人間なのだ。本作で傷ついた梓の姿からは、そんな当たり前のことを教えられる。

 ちなみに本書には、梓と大地の恋模様を描いた表題作のほかに、全6作の短編が収められている。

文=五十嵐 大