日本中を席巻したラーメンブームがニューヨークに上陸して、早数年。その勢いは未だとどまることを知らない。しかしその30年以上前から、ニューヨークのみならず全米のラーメンシーンを縁の下で支え続けてきた企業がある。その立役者の名は、Sun Noodle(サンヌードル)。創業以来、常に時代の一歩先を読み、戦略を繰りだしてきたサンヌードルが、ニューヨーク、いや全米のラーメンシーンに再び先手を打って出る。これからのラーメンの新常識、すでにサンヌードルの手中にあり。

 「トレンドラーメン」
だけならもういらない?
増え続ける需要

近年、ニューヨークは熱狂的なラーメンブームに湧いている。新しいラーメンレストランが次から次へと生まれ、斬新なメニューやしゃれた店構えで、味にもサービスにもうるさいニューヨーカーの胃袋と心を満たしている。日本とは違い、ラーメンは少し高級感のある「トレンディな外食」と認識され、一杯15ドル超えも珍しくない。しかし一方で、「自宅で手軽においしいラーメンを楽しみたい」というニーズが育ってきているのも間違いない。

その増えつつある需要に応えるべく、先陣を切った企業がある。1981年、若干19歳の若さで三台の製麺機を抱え、海を渡った一人の日本人青年、夘木栄人(うきひでひと)が、ハワイで誕生させたSun Noodle(以下サンヌードル)だ。クライアントであるレストランそれぞれの味にあった高品質のカスタムメイド麺をつくるヌードルメーカーとして、全米業界No.1のシェアを誇る企業に成長。アメリカ本土のラーメンブーム突入前の2004年には、いち早くロサンゼルスに第二の工場を構え、急増する需要に万全の体制で臨んだ。2012年には東海岸にも冷凍しない新鮮な麺を届けるべくニュージャージーに工場を建設。そして昨年秋、全米きってのオーガニック・グルメスーパーマーケット、Whole Foods Market(以下ホールフーズ)のノースイースト地区とタッグを組み、「化学調味料フリー」のラーメンキットの発売を開始した。

 先手必勝。
ラーメンを「健康食」へ

ホールフーズには、健康志向のアメリカ人がこぞって通う。アメリカ国内だけでも300以上の店舗を展開。ホールフーズの厳しい基準をクリアした商品だけが店に並ぶことができる。
「ラーメンは多少コレステロールが高くても塩分が多めでも美味しいから味わいたい」と考える日本人。一方、ニューヨークでは日常食としての普及には、「ヘルシー」ということが絶対条件。そのニューヨークにおいて、ホールフーズの店頭に「ラーメン」が並ぶということは、ラーメン業界での大きな転換といえる。まさに鋭い先見の明を武器に道を切り開いてきたサンヌードル。今回もまた先手を打ってみせたのが、その未来を任されている二代目の夘木健士郎だ。このラーメンキットの発売は、ホールフーズからのアプローチで実現に至ったという。「僕たちはこの企画が持ち上がる1年以上前から、化学調味料無添加のラーメンの開発に取り組んでいたんだ」

健康志向がブームのニューヨーク。ホールフーズのノースイースト地区から声がかかったときが「パーフェクトなタイミング」となったのも、健士郎がニーズをいち早く察知し、実現に乗り出していたからだ。また、このコラボレーションのためのマーケティングの費用は全てホールフーズが賄っている。それだけ同店が力を入れているという証拠だ。味噌と醤油という王道のラインナップ。スープと麺二食分が5ドル99セントとの手頃な価格設定は、「ラーメンを気軽に家庭で楽しめるもの」にする、大きな役割を担う。

 「豚骨ラーメン」しか知らない
アメリカ人にもの申す

サンヌードルの新たな試みは商品の開発、販売にとどまらない。水質も材料も違うアメリカで、日本と同じ味とクオリティの麺を、しかもそれぞれの店の味に合わせて作っている。その卓越した知識と技術を頼って、教えを請いにくるラーメン店は多い。実際にオープンを手伝った店もいくつかあり、今では2号店、3号店を出すまでに成長した店も。そうした経験から、3年前、ニュージャージーの工場内に、日本人ラーメンシェフと協力してアメリカのラーメンシェフ向けに、「ラーメンラボ」を開設。コンサルタント兼ラーメン文化の教育を行っている。

「当初は業界人のみが対象で、一般向けにラボを開くつもりはなかった。でも、豚骨ラーメンしか知らないアメリカ人が、鶏ガラスープを出す店に行って『これはラーメンじゃない』っていうような話を聞いて、シェフだけでなく一般のアメリカ人にも、地域ごとに異なる日本の豊かなラーメン文化を教育する必要があると思った。それに、一般の人たちの間でもラーメンを自分でクリエイトしたいというニーズが上がってきているんだ。実際に、最近ではラーメンをケース買いし、好きな具材をのせ、自宅でラーメンパーティをする人たちもいるからね」

思い立ったら、行動。「アメリカにおけるラーメン文化の啓蒙」というミッションのもと、サンヌードルは今年1月、ローワー・イースト・サイドにプロのみならず一般の人にも開かれた「新生」ラーメンラボをオープンする。一般向けのラーメンセミナーも開講予定だ。「ラーメンラボがこの産業を盛り上げる力になればうれしいし、それは自分たちのビジネスを高めることにもつながる」と話す。味噌、醤油、つけ麺、まぜ麺の4種類のラインナップを揃えて、あとは開店を待つのみ。

 食卓から進化する
「新種ラーメン」が
世界を変える日

「ニューヨークやロスにはもうすでに十分な数のラーメン屋がある。来年は、ボストン、フィラデルフィアなど、メインストリームから離れた都市でラーメンブームが起こるんじゃないかな」。健士郎は今後のラーメンシーンをこう予測する。

「シェフの存在に重きを置く日本に対して、ここでは『ラーメンを通して何にチャレンジしているか』が大事。みんな色々な新しい味にオープンになってもっとラーメンを楽しむようになると思う」

ホールフーズで販売されるラインナップには、替え玉も含まれている。今後、ミリ単位で太さの違う麺も生産することを計画中だという。ニューヨークの各家庭の食卓から生まれ、インターナショナルに進化した独自のラーメンが、世界中の人々の舌を楽しませる日もそう遠くはないだろう。寿司でいえばアメリカで進化し、人々に長く愛され続けているカリフォルニアロールのように。そしてその布石を築いたのは他でもない、サンヌードルだ。

※この記事は、HEAPS Magazineで2015年1月15日に公開されたものです。

Photo by Tomoko Suzuki
Text by Haruka Ue

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