『九十歳。何がめでたい』(小学館)という佐藤愛子の本が売れているらしい。

 1923(大正12)年の関東大震災の年に生まれた佐藤は今年93歳。同じ年の作家に池波正太郎、遠藤周作、そして司馬遼太郎がいるが、いずれもすでに亡くなっている。

 いまなお元気なこの愛子センセイと私が対談したのは、『サンサーラ』という雑誌の1996年10月号でだった。ちょうど20年前だが、それより20年ほど前の経済誌の編集者時代、私は出張校正に江戸川橋の印刷所に行き、ゲラが出て来るまでの間、近くの喫茶店で、「non-no」連載の佐藤の「娘と私の部屋」を読むのを楽しみにしていた。若い同僚に冷やかされながらである。

“ソクラテスの妻”に納得

 そう告白すると、佐藤は「幅の広い方でいらっしゃいますね」と笑ったので、私はこう続けた。「読んでいて『なるほど』と思ったのは、悪妻の代名詞でもある“ソクラテスの妻”についてなんです。『世に“ソクラテスの妻”は多けれど、げに、ソクラテスのなきをいかんせん』とお書きになっていた。それは『もっともな話だな』と(笑)。ときどきその話を使わせてもらっています。私の“怒り”とか“辛口”と言われる部分には“怒りの愛子さん”の影響があるんです」「そうですか。うれしいわ(笑)」という答えを得て、私は彼女の『ソクラテスの妻』という作品に話を移した。

 彼女がそれを書いたのは1963年だが、そのころの男には、いくらか“ソクラテス”はいたという。当時、佐藤は「男は本質的にロマンティストで女はリアリストである。本質が全然違っていて理解し合えないものだ」と思っていた。佐藤の夫は“駄目ロマンティスト”で借金をつくり、家計とかを顧みない。

「女房として私はリアリズムで生きなければならないけれども、彼は彼の持っている理想だけしか考えないので」夫婦喧嘩の絶え間がなかった。それで佐藤は、これは男と女の本質的な差でどうしようもない、と達観し、書くことで借金を返そうとする。

 それを振り返りながら、「いまは多くの男もリアリストになりましたね」と言った。ため息まじりにである。

妻から見れば夏目漱石は悪夫

「“ソクラテスの妻”と“ソクラテス”の関係」ということで言えば、夏目漱石の鏡子夫人も悪妻だといわれる。

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