ロシアW杯アジア最終予選グループBの3戦目となった6日のイラク戦で、日本代表はまたも苦戦を強いられた。山口蛍の劇的ゴールで何とか勝ちを拾ったものの、若い選手ばかりの相手に対し攻めあぐね、逆に押し込まれるシーンも目立った。一向に改善の兆しが見えない試合内容に、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任論が噴き出す危機的状況に陥っている。

 11日に行なわれる次戦は、オーストラリアとのアウェーでの戦い。グループ最大のライバルとの一戦を前に、DFの酒井宏樹と長友佑都が相次いでチームを離脱するなど不安要素は重なるばかりで、「一方的に押し込まれる試合になるのでは」と懸念する声が国内では出始めている。

 そんな中、「きっとタフな試合になるだろう」と首を振る男がいる。日本代表が優勝したAFCアジアカップ2011の決勝でオーストラリア代表として名を連ね、今年9月のW杯アジア最終予選にも招集されていたFC東京のFW、ネイサン バーンズだ。

「今の日本代表には批判も多いようだけれど、質の高いチームという印象は変わらない。僕がオーストラリア代表で戦っていたときも、日本がもっとも危険な相手であることはチームメイトの共通認識だったから」

 バーンズは、2014−2015シーズンにオーストラリアリーグ(Aリーグ)で最優秀選手賞を獲得し、昨年からFC東京でプレーする28歳。今回は選考から漏れたものの、19歳からオーストラリア代表にも召集されている。

 173cmと小柄ながら鋭いドリブルを武器に、9月のW杯最終予選でも5試合に出場し2得点を記録しているストライカーは、日本代表の攻撃陣を特に高く評価する。

「前線にはクオリティの高い選手が揃っている。チャンスが来たときにしっかり決める意識を持ち続ければ、現状を打破する試合がきっとできるはずさ。その試合がオーストラリア戦にならないことを願うよ」

 オーストラリア代表の注目選手としては、「もう充分にわかっているとは思うけれど」と前置きしたうえで、ティム・ケーヒルの名を挙げた。2006年W杯ドイツ大会の悪夢をはじめ、これまでの日本との8試合で5ゴールと、まさに「天敵」。今年で37歳になるが、先月のUAE戦では決勝ゴールを決めるなど衰えを見せない。

「彼はベテランの域に達しているけれど、しっかりコンディションを整えて常に90分プレーできる状態にある。ペナルティーエリア内、特にゴール前でのプレーは未だにワールドクラス。常にハードワークをするプロ意識を僕たちに与えてくれる、本当にスペシャルな選手だね」

 ケーヒルの活躍を見て育ってきた若手の台頭も目覚ましい。今年セルティックで才能を開花させた23歳のトム・ロギッチ、最終予選で3試合2ゴールと活躍している25歳のトミ・ユリッチなど、ケーヒルの絶対的地位を揺るがす選手が出てきている。

 ロギッチ、ユリッチの身長は共に190cm弱。フィジカルの強さはどうしても埋めることができない差だ。ここ5試合の対戦成績は3勝2分と日本がそれに対応しているようにも見えるが、直近の試合は2年前。そこからオーストラリアのサッカーは大きく変化しているという。

「フィジカルの強さを活かすサッカーから、今はボールをしっかり支配するポゼッションサッカーに移行しつつある。徐々にその成果が表れているし、オーストラリア代表は進化の真っ最中。イメージを修正できていないと、日本にとっては厳しい戦いになるだろうね」

 そんなチームの変革は、バーンズにとっても追い風だ。もちろん本人も、代表返り咲きを狙っている。

「自分は代表で活躍すべき選手だと思っている。そのためにも、FC東京でインパクトのある活躍をしなくてはいけない。フィットするまでに時間はかかっているけれど、自分のプレースタイルを生かして、多くのゴールを決めたいし、決められると信じている。近いうちに代表に復帰して、またチームに貢献したい」

 最後に交わした握手にはその決意がこもった力強さがあった。アジア最終予選はこれから約1年にわたって続く長い戦い。バーンズには申し訳ないが、11日の日本代表には「現状を打破する試合」を見せてほしいところだ。

和田哲也●文 text by Wada Tetsuya