先制点に関してはオフサイドに見えたし、セットプレーからの失点は防げたように見えた。アディショナルタイムでの勝ち越し点は、得点者の山口蛍が「普段ならふかしているんだけど」と明かしており、軌道上にいた酒井宏樹のジャンプがあったからこそ生まれたラッキーなゴールでもあった。予選では勝利が全てという観点からみれば満足すべき結果なのかもしれないし、劣勢を跳ね返す勢いが生まれたという点ではUAE戦よりはポジティブに捉えるべきかもしれない。とはいえ、イラク戦を会心の勝利という人はいないはずだ。

 日本はこのままでいいのか。この体制、この監督でいいのか。常にこのチームの中心にいた本田圭佑は現状をどう見ているのだろうか。

 試合後の本田圭佑はこう語っている。

「そんな楽観視はしてない。これはこれ、次は次だ、というような切り替えが大事かな、と。本当に次につないだというだけの認識なので、一喜一憂せずに、今日は今日で喜べばいいですが、明日からは切り替えて、オーストラリア戦に向けてチームとして準備したいなと思います」

 本田自身のパフォーマンスも決して評価できるようなものではなかった。前半から"消えている"時間帯が多かった。それでもハリルホジッチが81分まで引っ張ったのは、ひとえに過去、どれだけ消えていても決定的な仕事をしてきたという実績があるからだろう。

 自身への評価について問われると「うーん」と言い、頭をめぐらしてから言葉を継いだ。

「体が動いていないという感触は特になかったですけど、そんなに......。決めるところを決めていればとか、細かいところのニュアンスにはもちろん反省点はあります。課題はいつも通りあるかなと。ただ、それが普段クラブで試合に出てるから、出てないから(ということが影響しているとは)特段気になったところはあまりなかったですけどね」

 ずいぶん歯切れが悪かった。80分には原口元気のクロスから決定的なヘディングシュートを放ったが、ポストに弾かれている。確かにこれが決まっていればだいぶ印象は変わったに違いない。だが紙一重の差でゴールは決まらず、コンディション不良の方に目が向いてしまう。とはいえ、本田はこれまでもミランで、監督交代のたびに出場機会を失う経験をしてきた。「それほど気にしていない」と本人が言うのは、"結果"さえ出せればいいという感覚なのかもしれない。

 もうひとつ、イラク戦や初戦のUAE戦で気になったのは、日本の出来もさることながら、相手が自信を持ってプレーしていることだ。日本のホームで、相手が前がかりに攻め上がるシーンなど、前回大会の予選では見られなかったはずだ。相手が日本にビビらない、力の差をさほど感じていないという現状を、本田はこう捉えている。

「本当はこっちが向こうをバカにしたいんですよ。そういうのが僕とかヤットさん(遠藤保仁)の真骨頂なので。でも、そういうところは今のところ戦術的には求められてないのでね」

 これまでの日本は、ボールを保持して回しまくることで試合を支配してきたわけだが、ハリルホジッチはそれを求めていない。

「悪く言えば、僕もそのあたりのスピーディさに欠けるとか、いろんな意見があるんでしょうけど、アジアレベルでいえば、徹底的に相手をバカにするようなプレーを得意としているところですよね。でも、それは求められていない。強い攻撃をもっと増やしていこうというところは、今のこの代表のテーマなので、それはそれで前向きにチャレンジの気持ちで取り組んでいるし、実際、今までの自分になかったところに挑戦できているという意味ではやりがいは感じているし、別に否定的ではないです」

 かつての課題であった、縦へのスピードを重視するあまり、これまでの日本のよさが薄れているというのは感じている。新たなチャレンジは必要なことだと理解しつつも、かつての力関係が変わってきていることには苛立ちを感じている。

「イラクみたいなチームが、僕らを必要以上にリスペクトしてないということは腹立たしいことなので。本当は向こうがウザいと思うくらいに回さないといけないなというのは感じています」

 だが、それを指揮官は求めていない。ではどうするのか。

「監督と話す機会というのは、僕だけじゃなくてみんな増えてきているし、ある程度、歩み寄っていくということが大事だと思う。やりたいことはもちろん伝えながら、監督がやりたいことも貫きながら。だからそこは今後、ちょっとずつ変わっていくと思います」

 予選は残り7試合。偶然が連なって勝ち続けるのは不可能だ。日本代表に変化が必要なのは誰の目にも明らか。そしてその可能性に、本田はかすかな手応えを感じ始めているようだった。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko