レスリングで前人未踏の4連覇を成し遂げた伊調馨。日本にバドミントン初の金メダルをもたらした高橋礼華&松友美佐紀ペア。

 先のリオデジャネイロ五輪では土壇場での逆転勝利がいくつも見られたが、その勢いが今もなお続いているかのようだった。諦めない気持ちはきっと最後に報われる――。

 と、そんな話にまとめられれば、どんなにいいだろうか。

 W杯アジア最終予選、イラク戦。日本は試合終了間際にMF山口蛍が決めた値千金のゴールで、劇的な勝利を飾った。キャプテンのMF長谷部誠が「この勝ち点3は勝ち点3以上の意味があるのかな、と思う」と話していたが、予選突破のためには非常に大きな1勝だった。

 しかし、内容的に言えば、とてもではないが"美談"で締められる試合ではなかった。最近の日本代表で、これに匹敵する試合をすぐには思い出せないほど酷かった。

 日本は、2014年ブラジルW杯での惨敗をきっかけに、自分たちのよさである敏捷性や協調性を生かすよりも、足りないところを伸ばす方向へと舵が切られるようになった。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が強調する、デュエル(1対1)での強さや攻撃時の縦への速さがそれだ。

 ところが、今の日本代表を見ていると、短所を補うどころか、これまであった長所さえも失われてしまったように感じる。

 意図を持ってボールを動かし、ポゼッションで相手を翻弄することはできず、アリバイ作りのショートパスを何本かつないだあとは、ただただ相手DFラインの背後めがけてロングボールを蹴るだけ。テンポよくボールを動かし、複数の選手が連動するような攻撃はほとんど見られなかった。

 おそらく、そこでボールを失い、カウンターを受けるのが怖かったのだろう。連動のスイッチとなるはずの縦パスを打ち込もう、という狙いはまったくと言っていいほどなかった。

 MF柏木陽介は、相手の背後を狙うだけの単調な攻撃になったことについて、「監督は意識づけのために強調するが、あんなに(裏へのパスは)いらなかった」と自戒し、こう続ける。

「相手のプレスを受けて蹴るだけになり、どんどん間延びしてしまった。縦に速いだけでなく、ゆっくりする時間も作らないと。自分たちで判断できるようにしないといけない」

 その結果、前線の選手を単騎で走らせるような攻め方しかできず、全体が間延び。セカンドボールは拾えず、守備での対応も遅れてしまうため、逆にイラクには面白いようにパスをつながれた。

 悲しいことに、攻撃でも守備でも日本には何もない、かなりショッキングな試合だった。

 試合後、指揮官は「強い気持ち」や「勇気」を強調し、満足そうな様子を見せた。「選手たちには強い気持ちを見せろと言ってきたが、それが見られた価値の高い勝利」であり、「困難なときによりよい結果が出せるかどうかがフットボールでは大事」なのだという。

 もちろん、メンタル面の重要性は言うまでもないが、それだけで勝てるわけでもない。それは技術や戦術といった部分でやれることを最大限にやったうえで、その先にあるべきもののはずだ。勝ち点3を手にしたことで、前例がないほどに酷かった試合内容から目を背けてしまうのは、あまりにも危険だ。

 結果に関して言えば、レフェリーに助けられた部分もある。

 日本の先制点は映像で見直すと、MF本田圭佑からMF清武弘嗣にパスが出た時点で、本当はオフサイドだった。山口の決勝ゴールのシーンでは、ケガでピッチの外に出ていたイラクの選手がすぐに戻ることを許さず、日本はひとり多い状況でプレーできた。試合終了直前では、DF酒井宏樹がクリアミスを犯し、日本にとってはまだ危ない状況が続いているなかで、タイムアップの笛を吹いてくれた。

 イラク代表のラディ・スワディ監督は試合後、「レフェリーは日本をサポートしている」と厳しい口調で語っていたが、イラク側に立てば当たり前の主張だ。韓国人レフェリーが隣国・日本に肩入れしたと思いたくもなるだろう。

「試合を通してチャンスの数は少なく、追いつかれてからは苦しい時間が続いた。一番チャンスを作れたのが、(DF吉田)麻也を(前線に)上げたパワープレーでは......。これが目指すサッカーではない」

 長谷部がそう語っていたように、内容的には評価に値しない試合。完全に日本の負け試合だった。初戦で"中東の笛"に泣いた日本は一転、"極東の笛"に救われたのだ。

 もちろん、ときには内容が悪いなりに勝ち切る試合があってもいい。それはそれで成長の証であり、強さの証である。

 しかし、今の日本代表はこの試合の内容だけがたまたま悪かったわけではない。最終予選の3試合を通じ、低調な内容が続いている。初戦でUAEに敗れたあと、ハリルホジッチ監督は「これからパフォーマンスを上げていくアイデアはたくさんある」と話していたが、パフォーマンスは上がるどころか、むしろ低下が進んでいるようにさえ見える。

 日本人選手に欠けている点をあげつらい、徹底して意識づけを図る手法は否定しない。だが、すでにハリルホジッチ監督が就任して1年半、弱点が改善されないばかりか、従来あったよさまで失われてしまった現在、このまま彼に指揮を委ねておいていいのか。イラク戦が、そんな不安を募らせるに十分な試合だったことは間違いない。

 ひとまず勝ったから様子を見るのもいいが、幸いにも最悪の事態を免れたからこそ、遅きに失する前に決断すべきこともある。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki