肺がんに効果的な保険が使える薬とは?(※イメージ)

写真拡大

 がんの中でも死亡者数が最も多い肺がん。早期発見が難しい上に進行が早く、診断されてから2年程度で亡くなる人も多い。だが近年、新薬の登場で治療は大きく変わろうとしている。

 肺がんの推定患者数は、全国で年間約11万人。年間約7万人が死亡している。40代後半から増え始め、高齢になるほど発症する率は高くなる。

 肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんとに大別される。後者は全体の85%を占め、そのうち6割が「肺腺がん」、3〜4割が「扁平上皮がん」、残りが「大細胞がん」だ。多くのタイプがあり、肺の中でも発生しやすい部位や進行速度などはそれぞれ異なる。

 治療は、外科切除ができるか否かで大きく変わる。肺がんは無症状で進行して転移もしやすいため、手術で根治が目指せるという状態で見つかるのは、わずか2割程度。約8割は手術が不可能な状態で発見される。

 非小細胞肺がんで最も病期が進んだIV期になると、5年生存率はわずか5%だ。だが、薬の目覚ましい進歩で生存期間が延びるなど、治療は進化している。

 和歌山県在住の香川和彦さん(仮名・66歳)は、2012年に県内の病院で健康診断を受けた。胸部X線検査で異常な影を指摘され、さらに詳しく検査した結果、扁平上皮がんと判明した。病期はIIIA期まで進んでおり、開胸手術でがんのある右下葉を切除した。

 ところが1年後に再発。肺に1〜3センチのがんが6個見つかり、最も進行したIV期になっていた。IV期の主な治療は薬物療法だ。香川さんは、2種類の抗がん剤を組み合わせた併用療法をおこない、通常の生活を送っていたが、さらに1年後に再発。別の種類の抗がん剤による治療でも数カ月後に再発してしまう。

 抗がん剤治療に限界を感じた香川さんはセカンドオピニオンを受けるため、藁をもつかむ思いで15年4月、和歌山県立医科大学内科学第三講座の山本信之医師のもとを訪れた。

「当時最適だと思われる抗がん剤、ドセタキセル(製品名タキソテール)を点滴で投与しました。しかし数カ月後にまた再発してしまったのです。香川さんは吐き気などの副作用が非常につらく、抗がん剤治療の継続を希望されませんでしたので、治療を一時中断しました」(山本医師)

 15年12月、肺がんでは初となる免疫療法薬ニボルマブ(製品名オプジーボ)に保険が使えるようになった。“抗PD‐1抗体”という性質の薬で、本来は14年9月に悪性黒色腫(皮膚がん)の薬として世界に先駆けて発売されたものが、追って肺がんにも使えるという国のお墨付きを得たのだった。

 がん細胞を直接攻撃する従来の薬とは異なり、ヒトが備えている免疫力を手助けしてがん細胞を攻撃する。そのため「免疫チェックポイント阻害薬」とも呼ばれている。

 もう少し詳しく説明すると──がん細胞を攻撃する「細胞傷害性T細胞」(以下、T細胞)の表面には、PD‐1というタンパク質がある。一方、がん細胞にはPD‐L1というタンパク質がある。これらが結合するとT細胞の働きが抑えられてしまう。つまり、がん細胞を攻撃する力が弱められてしまう。これを防ぐのが“抗PD‐1抗体”のニボルマブだ。先にPD‐1に結合して、PD‐1とPD‐L1が結合するのを妨げ、T細胞の働きが抑えられないようにする。

 特に扁平上皮がんには効果が高く、臨床試験ではドセタキセルに比べて延命効果があった。

 山本医師は香川さんにも効く可能性があると判断し、16年1月からニボルマブでの治療を開始した。

「効果は1カ月後には表れました。転移したがんが縮小し始め、3カ月後には2〜3センチのがんは半分以下に、1センチのがんは消失しました」(同)

 代表的な副作用として、甲状腺の機能低下や糖尿病などがある。香川さんは治療中に高血糖や軽度の倦怠感が見られたが、糖尿病薬や経過観察で対処できた。その後もがんが大きくなることはなく、現在も治療を続けている。薬がよく効き、副作用も軽度だったため、香川さんは「楽に続けられる」と治療に前向きになれたという。

 山本医師は「扁平上皮がんでは免疫チェックポイント阻害薬の効果が比較的高い」と話す。IV期で治療を開始した場合、これまでの抗がん剤治療では1年〜1年半で亡くなる人がほとんどだ。

「香川さんは9カ月間、がんが大きくならず効いています。この薬にはいったん効いた人に長く効くという特徴があるので、どのくらい続くのか期待しています」(同)

 ニボルマブを投与した人の2割に長期間の効果がみられ、臨床試験を含めて最長で3〜4年間持続している。山本医師は、「治癒する可能性を持った薬」と期待を寄せる。

週刊朝日  2016年10月14日号より抜粋