健太、お前はただのノーマルカモ ――連続投資小説「おかねのかみさま」

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みなさまこんにゃちは大川です。

『おかねのかみさま』52回めです。

きょうも六本木SLOW PLAYで書いてます。

※⇒前回「情弱」

〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
村田(村) 健太が師と崇めるノウサギ経済大学の先輩。元出版社勤務
ママ(マ) 蒲田のスナック「座礁」のママ。直球な物言いが信条
学長(学) 名前の由来は「学長になってもおかしくない歳のオッサン」の略

〈第52回 こんなとこ〉
蒲田 スナック座礁

村「いくら?」

健「ご…」

村「ご?」

健「ごじゅうまんえん…」

村「!!!」

マ「あらやだ。けんたくんそんなにお金もってたの?」

健「いえ…ローンにしてもらいました。すっごくカワイイ子がこーーーんな近くで、甘あぁい匂いがほわ〜ってなるくらいの距離で勧めてくれたんで、その、つい…」

学「ローンなら払えるじゃろ」

健「は、はい。毎月15,000円なのでなんとか払えるんですが、よりによってそのプログラムで損しちゃいまして…なんていうんですか、えーと証拠金を追加しなくちゃだめみたいに言われてるんです」

学「ほう」

村「そんなもの、ほっといたらいいじゃねぇか。お前はそもそも失うものがないところが唯一の長所なんだから、踏み倒ししまえ」

健「で、でも、もしこれを踏み倒したら僕どうなるんでしょう。自己破産っていうんですか?そうなったら実家の親にも知られるし、たぶん学校にもいられなくなるし、仕事だって起業どころじゃなくなるし、このままずっと居酒屋リグレットで働くなんて、僕はどうなっちゃうんでしょう」

マ「店名的には最高の店員よね…」

村「あぁ」

学「で、払込まなくちゃいけないのはいくらなんじゃ?」

健「76万円…です…。明後日までに…」

村「くはー。デカイねぇ。もう逃げちゃえ。旅にでろ」

健「…」

マ「でもひどい話ねぇ。健太くんみたいな子を騙してそんな風にお金儲けに使うなんて。ちょっと許せないわ」

学「ママ、それはちがうんじゃ」

マ「なにが?」

学「けんたくんみたいな子は、そうじゃな、言語に例えるとわかりやすいんじゃが情弱語で暮らしているんじゃ。英語とか日本語とか中国語とかみたいに、世の中には情弱語があると思うとわかりやすい」

村「ほう」

学「つまり、情弱語のメッセージというものは、情弱以外には響かない。なぜなら母国語じゃないからな。しかしそのかわり、情弱のみなさまには驚くほどに効果がある。しかも情弱のみなさまは疑うことも知らんから、底引き網でガンガン穫れる。これは善悪の問題ではなくて、メッセージの受け手にも問題があることなんじゃ」

マ「でも健太くんがいくら情弱だからって騙すのは悪いことでしょ?」

学「確かに騙すのは悪いことじゃ。しかし、情弱民じゃなかったとしたら、そもそもその言葉に流されることもなかったんじゃ」

健「あのー…」

村「なんだ」

健「じょうじゃくってなんでしょうか…」

学「んー」

健「…」

学「どうぶつに例えるといいかな。ライオンだとおもう?」

健「い、いえ…」

学「じゃあなんだとおもう?」

健「しまうま?」

学「近づいた」

健「も…もしかして…カモですかね…」

学「正解!!!」

マ「よかったじゃなーい♡」

村「カモだな。カモ。俺はコールセンターでマンション売ってるから、カモ猟師くらいかな」

学「むらたは人間かどうか微妙じゃの」

村「うるせぇよ」

マ「さ、それじゃあ健太くんの逃亡先でも相談しましょうか♪」

健「!!!!逃亡って!ぼく!旅行は高速バスで名古屋しか行ったことないし!そんな!」

村「あのな健太。俺がいうのもなんだけどな。情弱を卒業するために必要なことを教えてやる」

学「おっ」

健「な…なんですか……」

村「それはな…俺も、よくわかんねぇんだ」

健「そんな!!!」

学「ゲラゲラ」

村「確かに俺自身は情弱じゃないとは思う。なにより出版社にいたときから読者のことを情弱扱いしてたこともあったし、出版社を辞めたあともコールセンターで誰でもいいからカモを探してる。そういう意味では俺は情弱じゃない自信はあるんだ。でもな、俺がカモにしてるあいつらが、どうやったらあの場所から抜け出せるかってのはわかんねぇんだよ。俺から見たら、なんで引っかかるかわかんないようなものにニッコニコで引っかかるんだから、まったく理解ができねぇんだ」

健「はぁ…」

村「な、『はぁ…』だろ。つまり情弱自身もわかってねぇんだよな。ってことはさ、生まれ持ったものか、後天的なものかは知らないけど、抜け出せないんじゃねぇかな」

マ「かわいそうじゃない」

村「かわいそうだけど、関わるほどのことでもねぇんだよ」

健「そんなぁ…助けてくださいよぉ…」

村「あのな、お前はそうやって地雷踏んでから助けてくれっていつも言ってきただろ地雷はな、避けるんだよ。お前らおしゃべりしながらお花しか見てないから毎回地雷踏むんだよ」

健「でもぉ…」

マ「あ、あたしもちょっとイライラしてきたわ♡」

学「まぁ起きてしまったものは仕方ない」

健「結論ですか!?」

学「結論じゃ」

健「そんなぁ…僕どうしたら…」

村「あのな健太、俺は去年すげぇ映像を見たんだよ」

健「はい」

村「多摩川の向こうに川崎って場所があるのを知ってるか?」

健「はい。しってます」

村「川崎でな、去年火事があったんだ。簡易宿泊所ってとこで、まぁ安い旅館みたいなとこなんだが、全焼して、10人が死んだ」

マ「ニュースでやってたわね」

村「うん。あのとき、火が回る様子がテレビで流れてたんだけど、テレビの音声に絶叫が入ってたんだよ」

マ「なんて?」

村「『こんなとこで死にたくねぇよーーーー!!!!』って」

健「……」

村「仕事からくたびれて帰ってきた俺は目が覚めちゃったね。その言葉を叫んだ男が助かったかどうかは知らねぇが、とにかくショックだった。逃げられない場所で、助けが来なくて、予定していた死に方とまったく違う最期が目の前に迫っている。『こんなとこ』で暮らしていることは辛うじて受け入れていたけれど、なにも報われないままに『こんなとこ』で背中を炎に焼かれてる。ひとりの人間が受け入れがたい現実に直面したときの叫びに、俺は心臓が締め付けられる思いがしたんだよ。健太、それに比べたらお前は単なるノーマルカモで、騙す連中から見たら死なない程度に追い込まれただけだ。生きろ。強くなれ。これくらいのことは自分で解決して…」

学「ワシが貸したげるよ」

村「おい」

健「ほんとですか!!!!!」

マ「よかったじゃなーい♡」

村「ジジイ、余計なことすんな」

学「76万円だっけ?貸したげるよ。そのかわり、なんか担保がほしいな」

健「ありません」

学「だよねー。ほんとそうだよねー」

健「すいません…」

学「じゃあ無担保で、月1万円の100回払い」

健「!!!!ひゃくまんえん?」

学「いやならいいよーん」

健「100回払いって…8年4ヶ月…えっと…僕35歳…うーんえっと…」

村「ジジイお前そんなカネあるのか?」

健「でも…月1万円なら…」

学「どうする?」

健「お、おねがいします!!!」

次号へつづく

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

Twitterアカウント
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〈イラスト/松原ひろみ〉