「人と同じ風には撮りたくない」撮影歴6年でコンテストに入賞する写真家に絶妙な光を捉えるコツを聞いてみた

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燃えるような赤が印象的な“彼岸花の群生”を撮影した写真が、妖艶で美しいと話題を呼んでいる。

夜明け前の空の下で燃え上がる

この写真を撮影したのは別所 隆弘さん(@TakahiroBessho)。

夜明け前の空がうっすらと光を帯び、ひっそりと燃え上がる彼岸花の赤を際立たせている。

こちらの作品は、月光に照らされた儚げな彼岸花が幻想的で美しい。

別所 隆弘

別所 隆弘

昨年、スーパームーンと一緒に撮影したという彼岸花。

絶妙な光を捉えて撮影する彼に、“彼岸花の群生”の印象的な赤を撮影するための工夫、そして写真を撮影する際にこだわっていることやコツなどについてを伺った。

暗闇の中で赤が濃くなる

――“彼岸花の群生写真”を撮影した理由や撮影日時を教えてください。また、この赤を出すためにどのような工夫を?

撮影場所は奈良県の御所市で撮影いたしました。日時は9月21日。ちょうどお彼岸の頃ですね。

奈良県では彼岸花の群生が点在している時期で、この季節には御所市や近隣の明日香村など各所で鮮やかな色合いが見られます。

この場所を選んだ理由は二つで、一つは日の出を目の前にして彼岸花を撮影できること、もう一つは彼岸花の向こうに奈良の都市夜景が見られるという点でした。

これは“赤”を出す理由ともつながってきますが、赤い色は黒と相性が良いです。

夜明け直前のまだそれほど明るくない時間帯、朝日やその曙光がわずかに彼岸花の赤を照らす状態で撮影すると、暗闇の中で赤が濃くなります。

別所 隆弘

別所 隆弘

つまり、赤を鮮やかに出すためには、陽の光が明る過ぎるとだめなんですね。

そういうわけで、カメラで撮影するときも必要以上に彼岸花が明るくなりすぎないように暗めに撮って、そこから写真を仕上げました。

液晶画面の背後の美しいボケに感動

――写真を撮り始めたキッカケは?

実は大したキッカケはないんです。

私が写真を取り始めたのはたった6年ほど前なんですが、その頃一眼レフの値段が急に下がって、我々のような素人の一般人でも手を出せるようなお手軽なものになってきました。

別所 隆弘

別所 隆弘

そんな中、当時の同僚が流行りものに目ざとく一眼レフを買ってきて、私に試し撮りをさせてくれたのがキッカケといえばキッカケです。

液晶画面の背後に出てきた、ボケの美しい写真に感動したことを覚えています。

アイデアが来たときは“それ”とわかる

――写真を撮影する場所やモチーフはどのようにして決めていますか?また、アイデアやインスピレーションは?

場所やモチーフは、まず大前提として“琵琶湖を中心として半径200キロ”というのを撮影テーマにしています。

それを私は自分の撮影プロジェクトとして”Around The Lake”と名付けています。

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琵琶湖のほとりで生まれて、そこで人生の大半を過ごしているので、その部分を真ん中にして撮影を広げていきたいという気持ちがあるんです。

その上で、折々の四季が訪れる度――例えば“彼岸花なら彼岸花、桜なら桜”と(季節ごとの花を)調べていくうちに「自分ならこう撮りたい」という気持ちが湧いた場所に赴くようにしています。

別所 隆弘

別所 隆弘

その一つが、3年前に撮影した滋賀県高島市のメタセコイア並木(写真下)でした。

当時、この場所の写真はまだウェブの世界にはあまり出回っておりませんでしたが、私の頭の中には“(この場所で)大体こういう風に撮る”というイメージがしっかりありました。

別所 隆弘

別所 隆弘

また、時期が来ると一斉に落葉するという情報を事前に得ていたので、この写真は台風のような冬の木枯らしと大雨が降った翌日に撮影に行きました。

こうしたインスピレーションやアイデアというのは、色々な形でやってきます。

例えば飛行機写真(写真下)は、これは最初は“失敗写真”から生まれたものでした。

別所 隆弘

別所 隆弘

飛行機を撮るときは普通は高速シャッターで撮るのですが、前日の設定が低速シャッターで撮った設定を変更するのを忘れて撮影して大失敗しました。

しかしその大失敗の写真にキラキラ光る滑走路と、小さな“点”のような飛行機の姿を見たとき、「さらに超望遠で撮影すれば凄い写真が撮れるかもしれない」というアイデアが生まれました。

別所 隆弘

別所 隆弘

アイデアはどこから来るかわかりませんが、来たときには“それ”とわかります。

人と同じ風には撮りたくない

――写真を撮影する際に、特にこだわっていることを教えてください。また、気をつけていることやコツなどは?

こだわりは一つあって、「人と同じ風には撮りたくない」ということはよく思っています。

もちろん、同じようにしか撮れない被写体というものも存在するのですが、それなら最終的にいちばん美しく仕上げられるようにとは思っております。

ただ、それ以上にむしろ現地でのマナーや振る舞いの方に気をつけております。

これは花を撮影するときだけではなくて、例えば有名な観光地での撮影でもそうですが、周りが見えなくなるくらい必死になって余裕を失うのではなく、目の前の被写体に対する敬意を忘れずに自然や文化を大事にしたいと思っております。

別所 隆弘

別所 隆弘

最も繊細に光を捉えてくれる

――どのような機材で撮影を?特にお気に入りの機材は?

Nikon D810と各種のNikonのレンズで撮影しております。

お気に入りというか、このD810は、現在発売されているフルサイズと呼ばれるカメラの中で、最も広いダイナミックレンジを持っています。

別所 隆弘

別所 隆弘

簡単に言うと、“最も繊細に光を捉えてくれるカメラ”なんですね。

このカメラのおかげで、随分色々なものを美しく捉えることができて気に入っております。

原点は小学校入学時に見た桜

――今まで撮影した写真で、いちばん気に入っている写真を教えてください。

先程、例にあげた“飛行機”は、そもそもの失敗から始まった後、Twitterなどでものすごく拡散してもらえるようになった、いわば“出世魚”みたいな写真なので…。

撮ったものとしては「よくぞここまで大きくなって…」という感慨があります。

他にもたくさん色々な“いちばん気に入っている写真”がありますが、多分私自身がいちばん気に入っている写真は、この桜の写真(写真下)です。

別所 隆弘

別所 隆弘

この写真は、私が子どもの頃に通っていた小学校の近くを流れている運河を撮影したものです。毎年春になると、地元の人達が沢山この運河の周りに集まります。

小学校に入った日、私はこの桜が満開に咲いているのを見て「なんて美しいのだろう」と感動しました。

多分生まれて初めて“美しいもの”を認識した瞬間だったような気がします。

以来私は、毎年この桜を見ながら生きてきました。

いわばこの場所は、私の人生の原点なんです。

初めてカメラを買ったとき、「なんとかこの“桜”を美しく撮りたい」と思って撮り続けてきて、ようやく昨年、よい構図・よいタイミング・望ましい光・好きな色で完成させることができました。

この写真を私はフォト・コンテストなどには出さないで、自分の“お気に入り”として使っております。

これまでの撮影ノウハウを注ぎ込んだ

――今後の活動に関して教えてください。

現在、いちばん力を入れて完成を目指し作業しているのは、11月18日に出版を予定している初の単行本『心を震わせる ドラマチック写真術』(インプレス)の執筆です。

この書籍は共著なのですが、これまでの撮影のノウハウの大半を注ぎ込んだ一冊になっております。

別所 隆弘

別所 隆弘

また共著陣も今話題の新鋭の写真家たちが勢揃いとあって、非常に見応えのある本になっております。

まだ少し発売まで時間がありますが、書店などで見かけられたら是非お手に取っていただけましたら幸いです。

美しい光の反射に心が洗われる

ドラマティックで色鮮やかな瞬間を撮影し、様々なコンテストで賞を受賞している別所さん。

“東京カメラ部10選2014”に選出され、初の単行本発売や『デジタルカメラマガジン』10月号に寄稿するなど幅広く活躍している。

反射する光の美しさに心が洗われるような写真の数々に、思わず目を奪われてしまう。

目の前の被写体に対する敬意を持ち、自然や文化を大事してる彼の心のありようこそが、ダイナミックでありながらも美しく繊細な光を捉える写真を撮影する秘訣なのかもしれない。

別所 隆弘

別所 隆弘

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