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ホンダの隠れた(?)ヒットモデルとなっている「フリード」が先月、満を持してフルモデルチェンジを果たした。最大の特徴は室内の広さ。とくに「フリード プラス」(従来の「フリード スパイク」)の広さは、このクラスの限界を打ち破るものだ。軽自動車で突然変異のように現れた「スペース系」というジャンルが、コンパクトクラスにも生まれたといっていいのかもしれない。

「フリード」はもともと広さを売りにしているモデルだ。その源流をたどれば、2001年に発売された「モビリオ」に行き着く。全長4mで大人7人がゆったり乗れるクルマを作るという、無謀とも思えるが、しかしいかにもホンダらしいチャレンジから誕生した。

ちなみに2001年といえば、ウルトラ大ヒットモデルであり、現在のホンダ躍進の立役者にもなった「フィット」が発売された年でもある。両モデルはともにセンタータンクレイアウトを特徴とするグローバルスモールプラットフォームを採用しており、外観からは想像できない広さを実現していた点は共通だ。

大ヒットした「フィット」の影に隠れがちだが、「モビリオ」もまた、ヒットといえる販売を記録した。翌2002年には、派生モデルの「モビリオ スパイク」が発売されて、こちらも好評を博している。「モビリオ スパイク」は「モビリオ」そして「フリード」を語る上で重要なポイントになるモデルといえるだろう。

「モビリオ スパイク」は「モビリオ」を5人乗りに仕立て直し、ラゲッジルームを限界まで広げることで、レジャー用途に特化させたモデルだ。その狙い通り、趣味やドライブ旅行を愛好する人に、「モビリオ スパイク」はカルト的な人気を得た。人気の理由は単純に、このクラスで最も車内が広いこと。二輪のモータースポーツ愛好者にマシンを運ぶトランスポーターとして使われたほか、この頃から徐々に一般化してきた「車中泊」に最適な1台としての人気も高まった。

こうして一定の人気を得た「モビリオ」「モビリオ スパイク」だが、大ブレイクとまではいかず、モデル末期には大きく販売台数が減少する。強力なライバルが出現したわけではない。問題はその外観。購入を検討した多くの人が口にした言葉は「クルマとしての機能は最高だけど、スタイルが……」。室内の広さを優先するあまり、ミニバンといいながら商用ワンボックス車のように角張った外観が災いしたのだ。

○「モビリオ」から一転、スタイリッシュになった「フリード」

モビリオの後を継いで2008年に発売された「フリード」は、「モビリオ」の反省を生かしてイメージを完全に一新。スタイリッシュな外観でデビューした。その効果はてきめんで、「ちょうどいいホンダ」のキャッチフレーズとともに大ヒットを記録。「スパイク」はいったん消滅し、かわりにサードシートを廃止して5人乗りとした「FLEX」(派生モデルではなく、グレードのひとつ)が用意された。

その後、高い人気を背景に「フリード スパイク」が2010年に"復活"。2011年のマイナーチェンジでハイブリッドモデルが追加され、モデル末期まで高い人気を持続した。

そんな「フリード」にも死角はあった。それは「フリード スパイク」のスペース・ユーティリティ。「フリード」はボディサイズを「モビリオ」より拡大しており、室内寸法も拡大したが、その一方でセンタータンクレイアウトを採用していない。丸みを帯びたボディも、室内スペースを限界まで広げるには不利になる。3列シートの「フリード」ではその点が表面化していないのだが、「フリード スパイク」ではやはり影響が出た。

後席の座面を跳ね上げて上下に高いものを積む。後席の背もたれを前に倒すだけで、ラゲッジルームの床面と同じ高さまで後席全体が収納される。ラゲッジルームが直方体に近い形状で、レジャー用途できわめて使いやすい。こうした「モビリオ スパイク」で評価された独創的なユーティリティは、「フリード スパイク」では実現しなかった。

広さなら「フリード スパイク」より「モビリオ スパイク」。このクラスの購入を考えているユーザーには、そのあたりのことが十分に知られているようで、「モビリオ スパイク」の中古車相場はいまでもかなり高い。とくに前後の意匠を変更して高級感を出した後期モデルは人気が高く、10年落ちでも程度のよい車両は50万円以上の値を付けている。

○歴代の美点を両立した新型「フリード」「フリード プラス」

総じて「モビリオ」「モビリオ スパイク」は広さにこだわり、スタイリングはやや犠牲になった。逆に「フリード」「フリード スパイク」は文句のないスタイリングを実現したが、スペース・ユーティリティの面では一部後退した部分がある。

今回登場した新型「フリード」「フリード プラス」はどうか。「モビリオ」のスペース・ユーティリティと先代「フリード」のスタイリングを両立することに成功したととらえることができるだろう。「フリード プラス」はラゲッジルームの床面を極限まで下げることで、上下方向の広さを飛躍的に拡大。その広さを効果的に使うためのユーティリティボードを装備し、ラゲッジルームを2階建て構造で使えるようにした。

その結果、セミダブルベッドのマットレスを置けるほど広大なフラットスペースを実現しながら、その床下に荷物を収納する広大なスペースを共存させることに成功。ユーティリティボードを外せば背の高いものも容易に積むことができ、床面が下がったことで、自転車や小型バイクの積込みも格段にやりやすくなるはずだ。後席のシートアレンジこそ平凡な方式に改められたが、それ以上の魅力・楽しさを手に入れたといっていい。

すでにお気づきの方も多いと思うが、「フリード プラス」のスペース・ユーティリティは、軽自動車の「N-BOX プラス」のそれを踏襲している。軽自動車ではダイハツ「タント」によって創出された新ジャンル「スペース系」が人気で、「N-BOX」はこのジャンルで最も進化したモデルのひとつといえる。「スペース系」軽自動車の技術を登録車に持ち込んだ例としては、スズキ「ソリオ」の例もあり、これはひとつの波が来るのか? という気がしないでもない。

海外の自動車評論家やカーマニアが実物を見て最も衝撃を受ける日本車は「スペース系」軽自動車だという話もある。その技術がこれからコンパクトカーの勢力図を書き換えることになるのか、それとも単に少数の個性派モデルで終わるか。興味深いところだ。

(山津正明)