『ビジネスに効く教養としての中国古典』(守屋洋著・プレジデント社)

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■“人間学の宝庫”中国古典を現代に生かすには?

山本夏彦さんという辛口のコラムニストがいた。たくさんの本を書き残しておられるが、そのなかで「人間の知恵はすでに中国古典のなかに出尽くしている」というコメントにぶつかって、私はわが意を得たりという思いを禁じえなかった。

たしかに中国古典の取り上げているのは、人間の営みに関する万般の知恵である。現代風な言い方をすれば、人間学の宝庫と言ってもよい。

私は長いことそんな中国古典の知恵を、あまり予備知識のない方にもすらすらと理解してもらえるように、わかりやすく紹介することにつとめてきた。このたび上梓した『ビジネスに効く教養としての中国古典』は、そんな仕事の延長線上にある。

ここでは、『孫子』や『論語』、『老子』や『韓非子』を始めとして、主な古典十四冊を取り上げ、あらためて現代を生き抜いていくために必要な知恵を取り出してみた。その内容は、戦略戦術の基本から人間関係の極意、さらにはリーダーとしての器量やその磨き方などに及んでいる。

一言断っておきたいのは、それぞれの古典には当然のことながら、立場の違いによって説く内容にも違いがあるということだ。一例をあげれば、孟子のような性善説と荀子や韓非のような性悪説である。どちらの立場に立つかによって、対応の仕方も異なっていく。たとえば、性善説に立てば徳による感化が重視されるし、性悪説に拠(よ)れば法や規範による締め付けが優先されることになる。

どちらが正しいかということは、このさい問題ではない。しいて言えば、一長一短であって、長所もあれば短所もある。それぞれの長所を学び、短所を補うことができれば、あるべき理想に近づくことができるかもしれない。

そのあたりに配慮しながら、先人の知恵を現代に活かしてもらえればと願っている。

■『孫子』の説く「戦わずして勝つ」をどう実践するか

さて、『孫子』である。

どうすれば戦いに勝てるのか、その兵法理論をまとめているのだが、それを紹介するまえに、まず戦いを始めるさいの前提条件についてふれておかなければならない。

第一は、戦わずして勝つことが望ましいのだという。

「百戦百勝は善(ぜん)の善なるものに非(あら)ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」(謀攻篇)

たしかに武力で相手を圧倒しようとすれば、どんなにうまく戦っても、味方にも必ず損害が出る。はては国力の衰退を招きかねない。こういう勝ち方は、仮に勝ったとしても、誉められない勝ち方だということになる。

また、今敵として戦っている相手は、情勢が変われば、いつ味方につくかわからない。そんな相手を武力で叩きのめすのは、長い目で見ると、けっして得策ではない。

では、戦わずして勝つためには、どんな勝ち方があるのか。

まずは外交交渉である。これによって、有利に事態を収拾することができれば、あえて武力に訴えるまでもなく解決することができる。

次は謀略活動である。これによって、相手の結束をくずし、内部体制を崩壊させてしまう。

もう一つ付け加えるなら、相手に初めから「とてもかなわん」と戦うことを断念させるような備えである。これを固めて隙を見せなければ、戦いに突入するのを避けることができる。

国については防衛力の強化、企業については新規参入を許さないような独自の技術や商品を開発することが望まれるのである。

※本連載は書籍『ビジネスに効く教養としての中国古典』(守屋洋 著)からの抜粋です。

(守屋洋=文)