大坂なおみインタビュー@後編

 インタビュー前編では、大坂なおみ本人に5年に及ぶキャリアを振り返り、思い出深い大会をいくつか選んでもらった。

 初めて姉に勝った試合、初めてWTAツアー本選の舞台に立った日、そして日本で準優勝の快進撃を見せた先日の「東レ パン・パシフィック・オープン(PPO)」......。

 ただ、それら彼女が選び取った大会群には、今年出場した3度のグランドスラムがいずれも入っていなかった。そのことを不思議に思い、「初めて出た全豪オープンはあまり嬉しくなかった?」と尋ねると、彼女は、「もちろん、あのときは嬉しいと思ったわ」と言いながらも、こう続けた。

「でも、その後に出た全仏オープンでも、同じ結果(3回戦敗退)しか残せなかった。もっと上に行きたかったから、ガッカリしちゃって......」

 この言葉には、大坂なおみというアスリートの本質が色濃く映し出されているように思われた。常に上達し続けたい、もっと上に行きたい――。そのような渇望が、彼女の加速度的な成長の根源にあるのだろう。

 クールな表情の下に秘めた、燃えるような向上心は、いったいどこから来るのだろうか? その源泉を探ってみよう。

―― 全仏の結果に落胆したと言っていましたが、3回戦ではシモナ・ハレプ(ルーマニア/当時6位)相手にフルセットのいい試合をしました。それでもやはり、勝たなくては意味がないと感じたんですか?

「そうではないけれど......勝つチャンスがあったから。第2セットの第1ゲームで、大失敗したボレーがあって......。あれが決まっていれば、と思ってしまったの」

―― 自分の過去の試合を振り返る機会は多いですか? たとえば、勝った試合の映像を見ていいイメージを持とうとしたり。

「それほど多いわけではないけれど、映像を見る場合は、勝った試合はほとんど見ないかな。見るのは、負けた試合ばかり。負けた試合を見て、客観的に分析することはあります」

―― あなたはいつも、コートに立てば相手の年齢もランキングも関係ないと言っています。そのようなメンタリティは、どこから来たと思いますか?

「私は子どものころから、自分より年上の相手と対戦することが多かったから。それに両親はいつも、『勝ち負けを気にすることはない』と言い続けてくれました。楽しむことが何よりも大事だとも教えてくれた。もちろん、負けたらすごくガッカリするわ。当然、勝つことは楽しい。でも、負けたからといって、世界の終わりではないという思いがあるの」

―― なるほど。あと、あなたは全米オープンで、「経験は大切だけれど、経験が勝敗を分けるわけではない」と言っていました。その真意をもう少し説明してもらえますか?

「う〜ん......たとえば時々、突然現れたのにどんどん勝っていく若い無名の選手がいる。その一方で、いつも同じくらいのランキングに居続けて、何年もプレーを続けている選手がいる。もちろん、後者の選手のほうが、"経験はある"ということになるでしょう。

 でも、どちらが強いかというのは別の話よね? 私は、本当に素晴らしい選手というのは、突然現れても、どうやって自分より経験のある選手を倒せるかという、その手法を知っている人なのだと思う」

―― つまりは、たくさんの試合を戦っているだけでは、それは"経験"とは呼ばないということでしょうか?

「ええ。たくさん試合をやっていれば、その会場をよく知っているなどのメリットはあるでしょう。でも私は、いい選手というのはたとえどのコートでも、たとえ誰が相手であろうと、いいプレーができると思っているから」

―― では、「いいプレーで負ける」のと、「プレーは悪いが勝つ」のでは、どっちが満足できると思いますか?

「たぶん、"いいプレーで負ける"かな」

―― ものすごく基本的な質問なんですが、テニスは好き? テニスをプレーするのは楽しい?

「うん」

―― 「どうして、そんなわかりきったことを聞くの?」という顔をしていますが、「Yes」と答える選手は意外と少ないんですよ。「他にできることがないから、続けている」と答える選手も多いから。

「ええ、それもよくわかるわ。私たちはみんなとても小さいころからテニスをやっているから、この年齢になったら、他に何ができるのかな......という気はしてしまう。

 でも......私は身体を動かすのが、すごく得意だと思っているの。たとえば、数学は得意ではなかったから、数学を仕事にできるとは思わないし」

―― それはわかんないですよ〜!

「私はわかってるわ。科学は得意だったけれど、数学はね。私にとっては、スポーツをやるというのは、極めて自然な流れだったと思うの」

   ◆   ◆   ◆

「テニスは好き、スポーツは得意」だと明言する彼女の表情は柔らかく、その声色は、どこまでも自然に響いた。同時に彼女は、16歳のころから常に、「目標は世界1位と、グランドスラムで可能なかぎり優勝すること」と明瞭に公言している。その信念や自分を信じる強さを、彼女はどのようにして得てきたのだろうか?

―― あなたはかなり前から、「目標は世界1位と、グランドスラム優勝」と言ってきました。その自信はどこから来るのでしょう?

「それは私が、何事も口に出したほうが、達成するのは簡単になると思っているからです。これは、あまりいい例ではないかもしれないけれど......子どものころは常に、お姉ちゃんに『倒してやる』と言い続けてきた。そうしたら、本当に勝つことができた。

 あるいは今季の初めに、『トップ50になる』と言ったら、やっぱりなれた。だから、口に出して挑戦したほうが、だまって胸の内に秘めておくよりも、達成しやすくなると思っているんです」

―― 女子テニス界は今、長年女王として君臨してきたセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)がその座から陥落するなど、過渡期にあるようです。尊敬するセリーナが1位でなくなったことは残念ですか?

「そんなことないわ。だって、新しい1位の(アンジェリック・)ケルバーは、本当に世界1位にふさわしいと思うから。特に彼女はこの1年間、素晴らしいプレーをしていた。グランドスラムで2度優勝し、準優勝がひとつなのだから。セリーナは今でもアイドルだけれど、彼女を尊敬することと、選手としての彼女の推移をどう感じるかは、私にとっては別の話なのかな? だって、本当に悲しいとは思わないから......」

―― では、そのような今の女子テニス界の傾向を、あなた自身はどう見ていますか?

「誰にでもチャンスはあると見ている。グランドスラムの決勝に勝ち上がってくる選手たちも、トップ10とはかぎらないしね。男子ではトップ5の壁は本当に高いけれど、女子はそんなことはないから」

―― チャンスがある「誰にでも」のなかには、もちろん、あなたも含まれているんですよね?

「うん」

―― では、来季の目標は?

「まずは、ツアー大会で優勝すること。そして、グランドスラムで4回戦以上に進むこと。あと大切なのは、ケガをしないで健康で過ごせること」

―― いつまでにグランドスラムで優勝したいなどの目標はある?

「来年!」

―― えっ、来年? そんなにすぐ?

「ええ。だって、『2年後』とか言ったら、まるで、今すぐにでも勝つ力はあるのに、来年にはまだ優勝したくないと思っているようじゃない? 私は、そうではない。可能なかぎり、早く優勝したいと思っているんだもの」


【profile】
大坂なおみ(おおさか・なおみ)
1997年10月16日生まれ、大阪府出身。ハイチ出身でアメリカ国籍の父と、日本人の母を持ち、3歳でアメリカに移住。父親の影響でテニスを始める。2013年にプロに転向し、2014年7月のバンク・オブ・ウェスト・クラシックで初のWTAツアー本選出場を果たす。2016年の全豪オープンでは予選を突破してグランドスラム初出場して3回戦まで進出。その後、全仏オープンと全米オープンでも3回戦まで駒を進める。今年9月の東レ パン・パシフィック・オープンで準優勝。180cm・69kg。10月6日現在、世界ランキング46位。IMG所属。

内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki