コミュニケーションの未来を創造する「KDDI総合研究所」ってどんな組織?【1】

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世界には、多くの研究所や研究施設が存在する。

国家が立ち上げ運営するもの、一般企業が設立し運営しているものと、成り立ちはさまざまだが、いずれの研究所でも、日夜、さまざまな研究が進められている。

私たちの暮らしをより便利に、そして、より快適にしてくれる多彩な技術。中でも“コミュニケーション・テクノロジー”分野をリードする「KDDI総合研究所」とは、一体どのような組織なのか? ここでは、そこで働く人々のお仕事に注目する。今回はその第1弾。

KDDI総合研究所インタビュー (左)KDDI総合研究所 代表取締役所長 工学博士 中島康之さん/(右)KDDI 技術統括本部 技術開発本部 知的財産室 知財開発推進グループリーダー 後藤 守さん

■今や当たり前の映像配信。その裏にKDDI総合研究所の特許あり!

--まずは単刀直入におうかがいします。KDDI総合研究所とは、一体どのような機関なのでしょうか?

中島:KDDIグループ唯一の研究所です。300名くらいの、比較的小規模な部隊ですね。他社には、3000名くらいの研究員を抱えるところもありますが、KDDI総合研究所では選択と集中を推進。その中で、auのモバイルビジネスを中心に、情報通信に関するさまざまな研究開発を行っています。

--すでに半世紀以上の歴史があるんですね。

中島:設立されたのは1953年です。60年以上の歴史の中には、いろいろなターニングポイントがありました。

例えば、衛星通信を活用した日米間初のテレビ中継。1963年11月23日に、当時のジョン・F・ケネディ米大統領が日本へ送った録画メッセージを中継予定でしたが、実際は、米・カリフォルニアのモヒービ砂漠にある、NASAの中継局から送られてきた砂漠の映像を受信・中継したのです。

KDDI総合研究所インタビュー

その3時間後には、ケネディ大統領暗殺のニュースを中継しました。その時はたまたま試験放送中で、突然入ってきた訃報を中継することになったのです。

もともと研究所では、国際間の映像中継のために、衛星通信に関する技術、衛星電波を伝送する技術、無線の技術、テレビ放送中継用の映像を伝送する技術などを磨いていました。しかも、テレビ放送の映像はそのままだと情報量が膨大なので、データを圧縮する技術の研究も進めていました。

それらは、かつてはプロの領域で活きていた技術ですが、それが今ではマルチメディア時代となり、PC間はもちろん、スマホなどのモバイル端末とも映像データを送り合うためのコアテクノロジーとなっています。

--現在、映像コンテンツの配信は当たり前のサービスとなっていますが、以前から開発を続けられてきた技術は、具体的に、どのような箇所に活かされているのでしょうか?

中島:有名なところでは、映像や音声の圧縮技術“MPEG”です。これは、世界中のさまざまな技術を集めて出来上がった国際標準技術ですが、その中には、KDDI総合研究所が取得している特許も息づいています。

動画はいわば、連続する静止画とも考えられます。前のコマと次のコマの違いを差分と呼びますが、その差分のデータだけを送るようにすれば、映像データの情報量をかなり減らせます。KDDI総合研究所の特許は、そうした差分の情報をすべて送るのではなく、1度送ったら以降は送らなくてもいい部分を探し出し、必要な差分データのみを送る、という映像圧縮に関する技術なのです。

--今では当たり前のように、映像をスマホやデジタル放送で楽しんでいますが、そこにKDDI総合研究所が開発された技術が活かされているのですね。

中島: KDDI総合研究所が培ってきた技術の実例として、もうひとつ挙げておきたいのが、音楽配信に関するセキュリティ技術です。

auは2006年に、音楽配信サービス「LISMO」を提供しました。サービスを始めるに当たって、音楽業界の方と話をした際「不正コピーなどからコンテンツを保護しなくてはならない」という結論に達しました。

KDDI総合研究所インタビュー

当時はまだフィーチャーフォンの時代で、端末に搭載されているメモリーも限られており、ネットワークも細かった。メガビットといったら、皆がびっくりするような時代でした。

その限られた速度の中で、コンテンツを圧縮して送る技術に加え、コンテンツを保護する技術の搭載も求められました。当時はまだ、世界標準がきちんと出来上がっていない技術でしたが、その領域においては、日本のモバイル技術が世界をリードしていたのです。そのため、当時のKDDI研究所から頑健なセキュリティ技術を提供することで、コンテンツの安全性を認めてもらい音楽配信に至ることができました。

KDDI総合研究所インタビュー

--モバイル端末をはじめ、ハードウェア本体の技術開発も行っていらっしゃるのでしょうか?

中島:もちろん、やっています。最近の例としては、京セラさんとのオープンイノベーションで誕生した“スマートソニックレシーバー”という技術があります。

実は、京セラさんが展開されるスマホやフィーチャーフォンには、スピーカーがありません。スピーカーの代わりに“圧電素子”が入っています。これは、昔でいうところのブザーですね。この圧電素子を巧く振動させると、スピーカーのようにいろんな周波数の音を出せるんです。

ちなみに、スピーカーの穴はありません。その代わりに、物体を振動させることで音を伝えます。また、端末内部の空間でも音が発生するので、その空間も利用して音を伝えます。このふたつの組み合わせると、雑音や騒音が多いところでも音がクリアに聞こえるのです。少し耳が不自由なシニアの方でも聞きやすいんですよ。また、スピーカー部の穴が不要なので、パーツ類の配置が自由になるというメリットもあります。

“スマートソニックレシーバー”は、我々がデバイス自体を開発したわけではありませんが、デバイスの活用方法を京セラと連携して見つけた好例といえるでしょう。

--そういった特許というのは、何件くらい取得されているのでしょうか。また、年間どのくらいのペースで出願されているのでしょうか。

後藤:KDDIでは2000件ほどの特許を取得しており、それらはすべて、知的財産室で管理しています。

2015年は、当時のKDDI研究所の発明分だけで約300件出願しました。それまではずっと、年間400件ペースで出願していましたが、特許に関して世の中では“量から質へ”という流れになっているため、KDDIでも新しい基準を設けることにしました。出願に当たっては、KDDIの事業にマッチするものかどうかも踏まえた上で出願しています。

KDDI総合研究所インタビュー

--出願件数は減ったとはいえ、毎年、それだけの数の特許が認められるとなると、相当な数になりますよね。

後藤:特許を維持していくためにはコストが掛かるので、新しい特許取得と並行して、従来からある特許の取捨選択の判断もしなければいけません。これはもう使われないだろう、と思われるものは捨てる、そういったことを定期的に精査しなければなりません。

また、我々が取得した特許が他社に使われているかもしれませんので、そうした技術のチェックも欠かせません。我々が取得した段階では想定していなかった領域で使われている技術もあるので、それらを探し出すのは大変です。

--そういった特許の管理も、KDDI知財部門の重要なお仕事なのですね。

後藤:そうなんです。特許侵害は基本的に「KDDIさんの特許が流用されていますよ」と誰かが教えてくれるものではないので、自分たちで気づく必要があります。「これは私たちの特許です。あなたは侵害しています」と(発明者本人からの情報提供も貴重な情報源となる)。また、取得している特許からライセンス料が発生するケースもあるので、知的財産室では細かい部分にまで目を光らせています。(続く/Part.2は10月7日20:00に公開予定)

(文/ブンタ、写真/田中一矢)

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