好事魔多し、と表現すればいいのだろうか......。あまりにも突然、錦織圭はケガに見舞われた。しかも好調だっただけに、唐突に訪れた結末の衝撃度は大きかった。 

 楽天ジャパンオープン2回戦、第1セットの立ち上がりでは、錦織(ATPランキング5位、9月26日付け)が早いタイミングで打つショットに、ジョアオ・ソウザ(34位、ポルトガル)が防戦一方になった。「出だしがあれだけいいのは、なかなか少ないです」と錦織は、第1ゲームと第3ゲームをブレークして3−0とした。

 しかし、第3ゲームの最後のポイント(第3ゲームの14ポイント目)で、錦織は左側のでん部を痛め、直後にメディカルタイムアウトをとる。トレーナーから治療を受ける際には、痛みに顔をしかめる場面も見られた。

「どのショットで痛めたかわからないけど、ポイントが終わった瞬間から痛みが急に出始めた。徐々にきたわけではなく、最後のポイントのどこかのショットで痛めてしまったので、それだけが心配」

 その最後のポイントで、錦織はバックハンドクロスリターン、クロスへのバックハンドグラウンドストローク、フォアハンドのドロップショット、クロスへのバックハンドロブを打っており、この4つのショットのどこかで痛めたことになる。

 痛み止めの薬を飲んでプレーを続行するものの、錦織の4−3、第8ゲーム15−30の時点で途中棄権を申し出て、無念のリタイア。5年連続の準々決勝進出とはならなかった。

「さっきまで調子がよくて、3−0までいって、まだ悔しいという思いがそこまでなく、まだ信じられないというか、急にきた痛みだったので、まだ受け止められていない自分と、来週どうなるんだろうという不安が今はある」

 錦織は大会前に休養をとり、疲労の回復をはかってから、トレーニングをしたので、「体調としては、ほぼバッチシの状態だった」と振り返る。準備万端で臨んだ母国の大会だっただけに、第1シードの責任を果たせなかったことに落胆は隠せなかった。

「大事なジャパンオープンで、リタイアという最悪な結果になってしまった。いろんな気持ちが......やっぱり申し訳ない気持ちもあります」

 ただし、「徐々にきたケガではないので、どうしようもないですね」と錦織が語るように、試合に出場し続けていれば、プレー中の突発的なケガは、誰にでも、いつでも起こり得ることだ。

「腰の痛みが結構あったので、それがもしかしたら関係しているのかもしれないけど、でん部の痛みで、こんなに痛くなるのは初めてなので、検査をして数日の回復具合を見ないと、来週どうなのかというのは想像がつかない。今は何とも言えない」

 まずは、何より錦織は治療に専念することが必要だ。ジャパンオープンの後に、マスターズ1000・上海大会(10月9日〜16日)、バーゼル大会(10月24日〜30日)、マスターズ1000・パリ大会(10月31日〜11月6日)の出場を予定していたが、すでに上海大会の欠場が発表された。完治までどのぐらいかかるかわからないため、スケジュールの見直しは必至だろう。

 ちなみに、2014年マスターズ1000・マドリード大会決勝で、錦織がでん部を痛めてリタイアした時には、2週間後のローランギャロス(全仏)では完治せず1回戦負けを喫し、さらに2週間後のハレ大会でようやくまともにプレーができたのだった。果たして今回はどうだろうか。これまでも指摘してきたが、12月に27歳になる錦織に無理は禁物で、ケガとうまく付き合いながらプレーしていくしかない。

 残りわずかとなった2016年シーズンだが、錦織はATPツアー最終戦であるワールドツアーファイナルズ(11月13日〜20日、ロンドン開催)に照準を定めた戦略を、コーチやトレーナーと話し合って立てるべきだろう。今や錦織は名実共にトッププレーヤーのひとりであり、選ばれし8名だけが出場できるツアーファイナルズに重点を置くべきなのだ。

 3年連続出場を目指す錦織は、出場権を争うRace to Londonにおいて、ジャパンオープン2回戦を終えた時点で4315点から4360点となり、依然として5番目につけている。

 出場権争いで錦織のライバルになりそうなのは、4番目のミロシュ・ラオニッチ(4465点)、6番目のガエル・モンフィス(3400点)、7番目のラファエル・ナダル(3245点)、8番目のドミニク・ティーム(3205点)、9番目のトマーシュ・ベルディヒ(2870点)、10番目のマリン・チリッチ(2445点)、11番目のダビド・ゴフィン(2210点)らだ。

 10月5日時点では、5番目の錦織と次位のモンフィスの間に、960点差があるのはかなりのアドバンテージだ。もちろん他の選手の活躍にもよるが、たとえ錦織が今後ポイントを加算できなくても、出場権を確保できる可能性はある。あくまで参考にすぎないが、2015年のツアーファイナルズでは、錦織は4035点で8番手として出場権を確保した。

「これから回復に向けて全力を尽くしたい」

 錦織のケガの回復が順調にいくことを願わずにいられないし、今季の集大成としてツアーファイナルズの出場権を決めて、ロンドンで再び好プレーが見られることを期待したい。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi