『MODS』(ナツメカズキ/東京漫画社)

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 スタイリッシュな表紙にカッコイイタイトル、「オシャレBLかな」と思いながら、それほど期待せずに読んだ『MODS』(ナツメカズキ/東京漫画社)だったが、予想をはるかに超えてどっぷりと世界観にハマってしまった。

 なぜなら、お互い想い合っていながらも、恋人同士になれない切なさと、中盤明かされる「受」の背負った悲しい過去に、「早く、幸せにしてあげて!!」とめっちゃくちゃ歯がゆくなるからだ。

 受はゲイ向けデリヘル「Rain」の人気男娼・シロ。親の借金を返すために、幼少期から身体を売って生きている彼は、飄々として感情の起伏が少ない。どこか幸せを諦めている雰囲気がある。「シロ」というのも本名ではなく、源氏名のようなものだ。小さい頃から、誰もシロのことを名前で呼ぶ人間がいなかったため、本人すら自分の名前を知らない。

 そんな彼と出会ったのが、妹の借金を返すため、高収入の仕事を探していた信虎(のぶとら)。ゲイ向けのデリヘルの送迎とは知らず、高額な時給に惹かれて「Rain」を訪れ、そのままなし崩しにシロの付き人となる。完全なノンケで、夜の世界とも縁遠い存在だったが、思いがけず未知の世界へ。コワモテで一見ヤクザのようだが、本当は面倒見のよい青年だ。

 信虎に対して、シロは顔と身体が好みだと、初対面からセクハラを繰り返す。信虎は一線を引いて、実直に仕事をこなそうとするが、ある夜、客からの暴行で傷ついたシロの姿が頭から離れなくなる。「どうしてこんな仕事をしてるのか?」と問うた信虎に、シロは「俺はこれしかできないから」と諦めたように答える。だが信虎にはそうは思えなかった。何か力になれないかと、同情心を向ける信虎だったが、シロは「反吐が出る」とそれを拒絶する。

 シロのことが気になり始めた信虎は、「Rain」のオーナーである元ヤクザの春にシロの過去を聞く。シロは、一度闇の世界から抜け出そうとしたが、結局その願いは叶わなかった。一度「逃げようとした」代償は大きく、自分の大切な人を失う結果となってしまったのだ。

 シロはそのトラウマがあるため、信虎から差し出される救いの手を掴むことが出来ず、「自分にはウリしかできない」と思い込み、同情が愛情に変わった信虎を避けて、姿を消してしまう。

 お互いに好意を持っているはずなのに、中々結ばれない二人。いつになったらシロは幸せになれるのだろうと、かわいそうで、愛おしくなる。

 安心していただきたいのは、本作はバッドエンドではないということ。最終的にはシロが一番笑顔になれるかたちで終幕を迎えられる。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、最後の終わり方がまた良かった。

 本作の冒頭では、暗い部屋で、まだ「闇の中」にいるシロが一人でラジオを聴いているのだが、ラストも同じラジオの、同じ曲を聴いている。その曲と、シロの本当の名前がリンクしているのだ。その最初と最後のつながり、暗い部屋から明るい部屋にいるシロの変化が、物語の終わり方として感動を誘われた。

 本作は著者にとってセカンドコミックスだというが、キャラクターの魅力や内容の濃さ、構成力等々、どれをとっても満足のいく読み応え抜群の一冊だった。「男娼と付き人」という設定はBL界ではそこそこよくあるが、個人的には一番感情が揺り動かされ、情感溢れる作品だったと思う。性描写もBLとして丁度いいくらいではないだろうか。物足りなくもなく、過激過ぎず、ストーリー重視なので、BL初心者の方も楽しめるだろう。

文=雨野裾