町に着いたら、本屋をめざそう。Vol.011/古書と古本 徒然舎(岐阜県岐阜市)

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【毎週水曜 21:00 更新】
知らない町に迷い込むのと、本屋さんで心を遊ばせるのは、どこか似ている気がする。そして、旅先で出会った本の一節はなぜか、いつも以上に心に残ったりもする――。
全国の町の味わい深い本屋さんが、旅のお供におすすめの1冊を教えてくれる、リレー連載。
石川県金沢市の「オヨヨ書林」の山崎有邦さんがご紹介くださったのは、岐阜県岐阜市のこちらです。







鵜飼でおなじみの長良川。ここから見える金華山と岐阜城(写真では小さいけれど)の景色が好き/店主・深谷由布さん

◆自分が暮らす町に、だれでも気軽に行ける
古本屋さんを作りたくて。

 美殿町商店街の一角にある「古書と古本 徒然舎」は、古書店にはちょっと珍しいガラス張りのお店。
「ここには2014年に移転してきたんです。中が見えると入りやすくていいなと思って。赤ちゃん連れのお母さんやスーツ姿の男性、若いカップル、ご年配の方…色んな方がいらっしゃいます」という店主・深谷由布さんの前職は出版社勤務。“固い本”を作る仕事をしていたというが、図書館や新刊を扱う書店で働いた経験もあったりと、かなりの本好きであることがうかがえる。

「就職を機に岐阜へ引っ越してきたんですが、岐阜市には古本屋さんが少なくて…。疲れたときにぶらっと行けるような古本屋さんがあったらいいなぁと思ったのが、お店を始めたきっかけです」



◆もっと必要とされる本屋さんになりたい――
尊敬する古本屋さんが書いた本に助けられています。

 深谷さんがめざしたのは、古書マニアにも、何となく立ち寄った人にも楽しんでもらえる“街の古本屋さん”。無造作に見えるようで“掘り出しもの”的な一冊が紛れ込んでいたりと、陳列方法にも仕掛けがあるのだそう。
「西荻窪の古本屋さん−音羽館の日々と仕事−」は深谷さんにとって、バイブルのような大切な一冊だ。著者は品揃えの豊富さと、良心的な価格で知られる西荻窪の名店「音羽館」の店主。店づくりや本に対する想い、日々の仕事についてなどが綴られている。
 本当に必要とされる、信頼される“街の古本屋さん”になるためのヒントを探して、何度も何度も読み返しているという。

お気に入りの一節
「古本屋にとってお客さんというのは、ある人は本の導き手でもあり、集書のライバルのような人もいて、また友人のような人もいる。時にはこちらがお客さんに影響を与えることがあるかもしれません。いずれにしても単なる物とお金の交換ではない、それ以上の何かをいつも伝えたいし、受け取りたいと思っています。」
――――『西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事』広瀬洋一  より



鵜飼観覧船の乗り場のほど近くには川原町の古い町並みが。昔ながらのお店に交じって、おしゃれなカフェも





「みんなの森 ぎふメディアコスモス」の中には蔵書数90万冊を誇る市立中央図書館が。図書館の中にある「ひだまりテラス」がお気に入り。飲食はできないけれど、ペットボトルやマイボトルなどの持ち込みOKなのが嬉しい

◆古本にしかない空気感、柔らかさ。
――そんな些細な楽しみも、感じてもらえたら。

 隣町に初めのお店をオープンしたのは震災直後の2011年4月。
「流通がストップしていたので、オープンを目前にしてもレジもない、本棚も作る板もない…という状況。そうしたら、Twitterの情報を見た親切な方が、本棚を貸そうと言ってくださったんです」
 辛いニュースがあふれていた時期だからこそ、深谷さんが作ろうとしていたお店は、街の人々にとって、小さな灯火のような存在だったのかもしれない。

「古本はとにかく、迷ったら買い!です(笑)。ちょっと不思議なんですが、古本って“今度来た時に買おう”と思って棚に戻すと、大抵売れちゃうんですよ」
 深谷さん曰く、棚に戻された直後に別の人に買われたり、動きがなかった棚を入れ替えた途端に売れ始めたり……ということが頻繁にあるという。

「古本には、心を穏やかにしてくれる力があるような気がしていて。心の疲れを癒してくれるような一冊を見つけてもらえたら嬉しいです」



11/19(土)、20(日)には、東京蚤の市に出店予定。

TEL.058-214-7243
岐阜県岐阜市美殿町40 矢沢ビル1階
12:00〜20:00
火・水定休

西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事/広瀬洋一(本の雑誌社)

WRITING/MINORI KASAI