状況はきわめて厳しい。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の日本代表は、重大な岐路に立っている。

 10月6日のイラク戦、同11日のオーストラリア戦に挑む日本代表には、所属クラブでコンスタントに出場機会を得ていない海外組が多く含まれている。香川、本田、岡崎、吉田、清武らは、トップフォームに遠い状態でチームに合流していると言っていい。フィジカル的に追い込むことはできていても、ゲーム勘は研ぎ澄まされていないだろう。

 ならば、ハリルホジッチ監督は彼らをスタメンから外すのだろうか。 

 いや、外せるのだろうか。

 指揮官は二者択一に揺れているに違いない。

 海外組の多くはゲーム勘やゲーム体力に不安を残すが、チームのオートマティズムは彼らによって作り上げられている。イラク戦の2日前に全員が集合する時間の無さをカバーするためにも、継続性を重視することにメリットを見出す考え方がひとつだ。
もうひとつは、コンディション重視のキャスティングである。国内、海外を問わずにコンディションの整った選手を起用し、チームとしての運動量やそこから派生するダイナミズムに期待する、というものだ。単純に言えば〈動ける選手たちの集団〉だが、こちらはW杯予選に付随する重圧への耐性に不安がある。

 ハリルホジッチ監督の「いま」を考えると、ジーコ元監督の日本代表が思い起こされる。

 海外組の重用からスタートしたブラジル人指揮官のチーム作りは、海外組のコンディション不良という事態に直面し、袋小路へ迷い込んでいった。

 メディアとサポーターから非難を受けながらも、ジーコは海外組を辛抱強く起用した。だが、国内組で参加した04年夏のアジアカップ制覇をきっかけとして、メンバー選考に変化が生じていく。「海外組の招集は、試合に出ているかどうか。試合勘やリズムが大事だ」との認識を、ジーコが強めていくのである。

 05年2月のドイツW杯アジア最終予選を前にすると、海外組の招集にはさらに慎重となっていく。北朝鮮との初戦を前にしたジーコは「最終予選ではフィジカル面、技術面、コンディション面のすべてが揃っていないといけない」と語り、「どんなにいい選手でも、試合勘だけは試合に出ていないとつかむのが難しい」と続けた。

 果たして彼は、北朝鮮戦の海外組招集を最小限に止めた。レッジーナの中村俊輔、ハンブルガーSVの高原直泰、マルセイユの中田浩二の3人だけである。「海外組をとりあえず招集し、自分の眼で状態を見てから起用を考える選択肢はないのか?」と聞くと、ジーコは「勝点3のかかった試合ではそうはいかない」と答えた。

 北朝鮮のスタメンは国内組で固められ、中村と高原はいずれも途中出場だった。後半アディショナルタイムに決勝点を叩き出したのは、10日前に国際Aマッチにデビューしたばかりの大黒将志だった。

 ジーコはアジアカップで国内組への信頼を深めたが、ハリルホジッチ監督は同じような機会を持てていない。そもそも現日本代表監督は、国内組への信頼感が薄い。試合に出ていない海外組より国内組が優れているとし、その根拠として昨年8月の東アジアカップをあげている。

 中国で開催されたこの大会はJリーグの合間に行なわれ、中3日以内の3連戦だった。他でもないハリルホジッチ監督が、選手の疲労と準備不足を嘆いていたのだが……。

 6日のイラク戦で、ハリルホジッチ監督がこれまでと同じように海外組を起用し、勝利を逃すようなことがあれば──最終予選の行方が怪しくなるだけでなく、チームの「芯」が大きく揺らいでしまう。ハリルホジッチ監督と選手たちの関係、海外組と国内組の関係に、亀裂が生じるきっかけとなりかねない。

 チームの結果が出なければ、使われていない選手は不満を感じるものだ。プロなら当然の感情である。

 そこで重要なのは、自らの立場を脇へ置いて、チームをまとめることに力を注ぐ選手がいるかどうか。さらには、スタメンから外された海外組が、控え選手としての立場をしっかりと受け入れられるか。

 個人的には、コンディション重視の起用にためらいはない。本田、香川、清武、原口、宇佐美らが起用されてきた2列目は、浅野、原口、斎藤学の3人を並べても面白い。小林悠を右サイドに起用し、攻撃の局面では1トップと並ぶような立ち位置にしてもいい。選択肢はあるのだ。
 
 スタメンにどんな選手が並ぶにせよ、イラク戦は勝利が絶対条件だ。埼玉スタジアムを舞台とした6日のゲームは、このチームの未来を左右する大一番である。