また偵察行ってくるわ

 木原は和江商事からの受注に備え、新たにミシン16台を購入したのみならず、縫製工の募集まで行なってくれた。

 幸一も木原の熱意に応え、高品質のブラジャーづくりに取り組んでいった。

 一方、東京に定期的に出張して半沢商店からコルセットを仕入れる“東京飛脚”も続けていた。

 相変わらずこれは売れる。しかし幸一は抜け目なく次の一手を探っていた。

「また偵察行ってくるわ」

 彼は“東京飛脚”をこう表現するようになる。

 彼が“偵察”という言葉を使ったのは、半沢商店からコルセットを仕入れながらも、彼らがそれをどこに作らせているかの情報収集を念入りに行なっていたからである。

 時には半沢商店の店内の伝票を盗み見ることさえあったという。産業スパイさながらである。

 (いつまでも半沢はんの風下についているわけにはいかん)

 幹部たちには自分の思いを正直に語った。

「川口、これからは半沢はんに代わって、うちが直接百貨店に納入していきたいんや!」

 川口郁雄は思わず幸一の顔をまじまじと見つめた。

 この男はいつの間にか、商売の世界を戦場と心得るようになっていたのだ。弾は飛ばずとも、命をとるかとられるかである。“偵察”という軍隊用語を使ったのも、そうした気持ちの表れだ。

 彼の覚悟を知った川口は、幸一についていくと決めたのは間違いではなかったと今さらのように思っていた。

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