限界集落の汚名返上、年間32億円稼ぐ小さな村

写真拡大 (全2枚)

高知県馬路村:6次産業のモデルケースにIターン者急増中

経営力がまぶしい日本の市町村50選(44)

人口の10倍以上に上る“応援団”

 安芸郡馬路村は高知県の東部にあり、高知龍馬空港から車で約2時間ぐらいかかる山奥に位置する村で人口はおよそ900人(2016年5月推計)。総面積の約96%が山林に覆われており、魚梁瀬杉(やなせすぎ)という銘木を中心に林業で栄えてきた歴史がある。

 馬で行く以外に交通手段がないというのが村名の由来とされるが、県内34市町村の中で2番目に人口が少なく、規模だけを見れば「限界集落」と呼ばれる町村と大きな差はない状況である。

 そんな中、2003年に提唱した「馬路村 自立の村づくり宣言」のもと、子供たちが元気に遊び、楽しく通学できる村づくりを目指し、保育園2園(36人)、小学校2校(37人)、中学校2校(12人)を有していることは注目に値する。

 実際人口1人当たりの教育費は高く(財政コーナー参照)、その一方で学習塾はないため、住民がボランティアで教え合うという風習もある。

 柚子産業で有名な村で、その売上高は1988年の1億円から2014年には32億円へと増加し、それに伴い加工品工場にはI・Uターン者も含め従業員は80人を超えている。観光においても柚子効果で国内外から年間5万人が訪れている。

 また村外から来訪した観光客らを対象に2003年から募集している「特別村民」の登録者が今年の8月に1万人を突破した。登録料は無料で、専用の“住民票”が発行されるほか、特別広報紙が年1回送られる。

 来村時には馬路村農協のゆず飲料「ごっくん馬路村」を、上治堂司村長と村長室で一緒に飲める特典もある。

 人口の10倍以上に上る全国各地のファンへは特産品情報を積極的に発信しており、2015年12月に本格化させた「ふるさと納税」では、6800人に申込書を送った結果、約8カ月の寄付件数約1700件のうち、約100件が特別村民からだったという。

柚子効果を林業にも

 まさに柚子で知名度を上げたことによる波及効果とも言えるが、柚子産業の収入をテコにもう1つの基幹産業である林業の活性化にも取り組んでいる。

 2000年に村役場が出資して設立したエコアス馬路村はいままでの林業の仕組みを変えるとともに、主に自然循環型商品として、間伐材を利用して木製トイレやうちわなどのユニークな商品づくりをしたり、林業の後継者育成も担っている。

 それまでは伐採した後、下流の貯木場に運ばれて売られていた木材を、村内に貯木場を整理し、建築用材や様々な需要に対応できるように加工する製材所を充実させて間伐材を加工している。

 山仕事にはできるだけ高性能機械を導入し、効率化と安全性を高めながらコストダウンに努め、生産された木材で加工・流通の流れをつくり、資源循環型森林経営を確立している。

 現在では森林組合、エコアス馬路村、林材加工協同組合の雇用者数は108人に至っている。

 さらには、損保ジャパンや日本興亜損害保険とは「いきいき共生の森」パートナーズ協定を2007年から継続しており企業連携により森林整備を推進している。

 また東京都港区とは2011年に「間伐材をはじめとした国産材の利用促進に関する協定書」を締結したり、現在建築されている公共施設の外装木質化など、木材/木製品の需要拡大に向けた積極的な取り組みを行っている。

6次産業の成功モデル

 今でこそ農村漁村の6次産業化が注目され、国の支援も行われているが、JA馬路村ではその言葉さえもない1979年にゆずの加工販売を始めている。

 馬路村の急峻な段々畑で生産されるごつごつしたゆずは青果として評価が低く、当時のJAは付加価値を高める取り組みとして、佃煮や果汁などに加工し全国に営業をかけていた。

 百貨店を回り、出来上がった商品を催事場でPRするなど、10年以上にわたって地道な営業活動を続けてきたが、その背景にはゆずの品質に絶対の自信があったからこそだろう。時間はかかっても、いつか受け入れられる確信があったという。

 躍進のきっかけは、1988年にポン酢醤油「ゆずの村」が「日本の村101村展」で大賞を受賞し、全国に顧客が増えたことだった。

 また、同年にゆずドリンク「ごっくん馬路村」を発売すると、味はもとより、親しみやすい商品名と素朴なパッケージで村を代表する商品となった。

 農協婦人会や自分の子供たちもモニターとして、村民総動員による試行錯誤で生まれ、村民が本当においしいと思える商品に仕上げた。

 代表理事組合長である東谷望史氏自ら、百貨店などの催事に年間80日以上出店するなど、30 年以上にわたる地道で粘り強い開拓活動が、今なお販路を支えている。

 現在はドレッシングや調味料など約60種類の加工食品やゆずの種を利用した化粧品umajiシリーズなどが販売されている。

「村の空気を届ける」センター

 村内にある約170軒の農家のほとんどがゆずを生産しているが、JA馬路村が全量買い取り加工し販売している。

 主な販売先は一般流通65%、インターネット、直売所での直販が35%となっており、2006年3月に完成した「ゆずの森新加工場」にはコールセンターや配送センターも併設されて、集荷・広報・販売・クレーム対応まで総合的にプランニングしている。

 また、配送センターには「村の空気を届ける」というスローガンが掲げられ、お客の名前や住所を確認することで、全国から村の商品が必要とされていることを実感し、スタッフの誇りにも繋がっている。

 仕事に自信を持って取り組んでいるため工場は活気にあふれていて笑顔が絶えないが、自分たちの手で村を成り立たせている実感がそうさせるのかもしれない。車で1時間ほどの町民が馬路村で働いているケースも増えてきているようである。

 現在、工場では80人ほどの従業員が働いているが、馬路村のゆずの魅力が広まったことで人口の流入もあり、Uターン就職よりもIターン就職で馬路村へ移住してくる若者も多いようである。

 また、加工場などのほか、農産物直売所やパン工房などを併設し、視察者や観光客が馬路村の様々な魅力に触れることのできる交流施設にもなっている。

 馬路村のイメージにぴったりと来るような施設にすることを目指し、外壁にも内装にも地元杉材がふんだんに使われている。黒く塗られた外観は雑木林の中に沈み、その規模からは考えられないほど周囲の景観に溶け込んでいる。

 場内に足を踏み入れると、杉の香りが漂い、森林浴をしているようで、まさに馬路村のエキスが凝縮しているかのような空間である。

「田舎を丸ごと売り込む」

 「名前も知らない村の特産品は売れない。名前を知らない村へは遊びに行けない。まずは村を売る」。東谷組合長のこんな発想から生まれた「ごっくん馬路村」のCMには、村の元気な子供たちやお年寄りを起用し、商品の背景にあるのどかな山里のイメージを全国的に発信した。

 また商品に「馬路村公式飲料」と付して、さりげなく村のブランド品と謳う遊び心を加えることにより村の知名度は上がり、全国に馬路村ファンが広がった。

 現在、馬路村の製品は合計90を越えるが、あらゆる製品に共通したデザインが施されている。PFポスターやテレビCMに村の子供やお年寄りを起用し、自然豊かな田舎の良さを全面に出した「村を丸ごと売り込む」という販売戦略は、林業不振が影を落とす村のイメージを変えた。

 都会の人たちが「見たい、聞きたい」と思う「田舎の良さ」をアピールすることで、馬路村のゆず加工品の成長を支えた。通販の利用者リストは実に35万人に達し、商品の良さを知るリピーターが売上げの中心となっている。

 商品だけでなく原料の産地である村自体をブランド化し、農業と観光を結びつけたことで、毎年多くの観光客や工場の見学者が訪れるようになった。

 具体的には、村外のファンを村の仲間ととらえ、商品と一緒に、小さい挨拶文を入れるといったきめ細かい配慮もなされている。

 お客の要望で、葉っぱや河原の石、地元新聞を入れたり、村の今を届けることに徹底したこだわりを持ち、お客の要望に柔軟に対応することで全国に馬路村ファンを広げている。

 通信販売で全国のお客に商品を発送する際、馬路村の情報を掲載したニュースペーパーを必ず同梱するようにもしている。

 内容は村の雰囲気を伝えるもので、「田植えの時期がやってきました」や「村の学校で運動会が催されました」などといった、季節ごとの情報を掲載。結果的にこれが馬路村の認知度をさらに上げていくことにつながった。

持続可能な組織へ

 事業の成功によって、生産者から市場より高い価格で買い取り、加工品の販売利益も配当として生産者に還元される仕組みが整い、農家所得の向上・安定につながり、地域に雇用が生まれ、約100人がJA職員として働いている。そのうち15人がIターン職員であることも驚きである。

 今後、組織が数十年にわたって成長・発展してゆくために、若手の育成や世代交代も重視している。

 仕かけ人の東谷氏が馬路村の村づくりのポリシーを若手世代に伝承している。小さな村のため、飲み会の開催も容易で頻度が多く、昔の話を聞くことで若手が馬路村のこれまでの取り組みを伝承していくサイクルが生まれている。

 ブレてはいけない馬路村の哲学と消費者や現場スタッフから寄せられる時代の感覚のバランスを取ることが、管理職の間で心がけられている。

 国道も鐡道もコンビニもない村だが、美しい山や川といった自然を大切にする取り組みをはじめ、小さな村で生き生きと暮らす子供たちや村人の姿を“ありのままの田舎”を発信しつづけた結果と言えよう。

 普段見慣れていた柚子の価値を見出し、その魅力を最大限に引き出し、6次産業(生産・加工・販売)の循環を生み出した馬路村の仕組みは地方創生のヒントになるのではなかろうか。

 自分たちの村で生産されたものが町の人に喜ばれ、それが収入として還元されている。そんな自信が村民の元気につながっている。少なくとも馬路村は課題解決に約30年前から着手し、自分たちの足で生きていける知恵と技術を身につけている。

【馬路村の財政事情(2014年度)】――――――――――――――――――――――

馬路村は財政力指数※1が0.12と、全国の類似団体(28町村)の平均0.21を下回り相対的に財政力が劣っている。生産年齢人口の減少に伴う地方税の減少が主な要因である。

また、経常収支比率も、85.9%と類似団体平均の82.4%を上回りやや硬直化している。これは単独事業である簡易水道施設の大規模改修による投資的経費の増加が、公債費増による経常収支比率の増加につながったからである。

<人口1人当たりの歳出額>

○投資的経費 104万8440円(馬路村) ⇔ 28万7135円(類似団体)

また特徴的なのは、以下の通り人口1人当たりの農林水産業費や民生費、教育費への支出が類似団体平均を上回っている点である。柚子産業への積極的な拠出や、保育園、小学校、中学校が各2か所設けられ次世代育成への熱意もうかがい知れる。

<人口1人当たりの歳出額>

○農林水産業費 56万4457円(馬路村) ⇔ 11万8625円(類似団体)
○民生費 26万6357円(馬路村) ⇔ 19万6664円(類似団体)
○教育費 13万1230円(馬路村) ⇔ 10万2240円(類似団体)

※1 財政力指数= 基準財政収入額 ÷ 基準財政需要額(3か年の平均値)

基準財政収入額:自治体の標準的な収入である地方税収入の75%などを対象とする。
基準財政需要額:人口や面積などにより決められる標準的な行政を行うのに必要と想定される額。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【参照、出典】

・第21回全国小さくても輝く自治体フォーラム in 馬路村
・「地方から都市への戦略〜馬路村:高付加価値農業による雇用創出〜」
・クローズアップカンパニー「馬路村農業協同組合」(ビジネス高知)
・馬路村HP
・「地域資源を活かした食料品の販路拡大に関する調査研究」(中小機構)

筆者:大和田 一紘