第65回:豪栄道

負傷した足の回復が遅れて、秋場所(9月場所)を休場した横綱。
そんな中、優勝を飾ったのは角番だった大関の豪栄道。
彼の魅力を横綱が語る――。


 先日、千秋楽を迎えた大相撲秋場所(9月場所)は、負傷した足の回復が思わしくなかったため、休場させていただきました。

 初日からの休場は、横綱になってから初めてだったこともあり、ファンのみなさまにはいろいろとご心配をおかけしました。また、温かい励ましの声などをたくさんいただき、本当にありがとうございました。

 思い返してみれば、昨年の秋場所、以前から痛めていた足の痛みが悪化して3日目から休場。これが、横綱として初の休場となったわけですが、このときは自宅での療養のかたわら、初めて大相撲のテレビ中継をゆっくり見る時間をいただきました。

 普段は土俵の上で戦っているはずの私が、画面を通してその様子を見ているのは、最初かなりの違和感を覚えました。それでも慣れてくると、同時代を戦ってきた横綱・鶴竜、大関・稀勢の里らを応援しながら、実はテレビの前で熱くなって観戦していました。また、思いがけなく家族と過ごす時間ができたことで、心も穏やかになったものです。

 ところが、今回の休場中はやや過酷な時間を過ごしていました。秋場所から始まってすぐに足の指を手術。他の負傷部分も慎重に検査して、1日でも早いケガの回復に全力を注ぎました。そして、たぶん力士としては初めてのことでしょうが、3日間の断食にも挑戦しました。

「食事も力士の仕事」と言われるほど、「食」は力士の大きな部分を占めていますが、休場中という身でいったん体をクリアにして、もう一度出直すためには、そうした思い切ったことも必要だと思ったからです。

 最近では、一般の人がチャレンジできる、いわゆる『断食道場』と呼ばれる施設もあるそうですね。そういう場所だと、規定のジュースを飲んだり、自由時間は近くの高原を散歩したりという気分転換もできるそうですが、私の場合は都内のある場所にこもって、飲めるのは水のみという、ちょっとハードなものに挑みました。

 確かに、1日目、2日目はきつかったですね......。でも3日目にもなると、だんだん清々しい気分になってくるというか、体も、頭も目覚めていくような気持ちになっていきました。不思議なものですね。

 断食を終えて体重を測ったら、10kgほど減って147kgでした。実際、ひと回り細くなった感じがしましたね。あと、周囲の人からも「顔がすべすべになったんじゃない?」と言われたのですが、肌の調子がよくなったことを実感しました。

 相撲を取るのに重要な足を痛めていることも、断食に踏み切った理由でもあります。相撲の動きの中で、そして日常生活の中で、体重の重い力士はいつのまにか、足に負担をかけてしまっています。

 今、幕内の平均体重は160kgを超えていて(※秋場所前で平均164.3kg)、過去最高を記録したそうです。正直、それは力士たちの体にとって、とても危険なことだと思っています。

 公称199kgの臥牙丸が20kg近いダイエットに成功して、土俵上の動きが以前とは見違えるほどよくなりました。同様に力士は皆、それぞれベストの体重をもう少し意識して、体重の管理もきちんとしたほうがいいのではないか、と思います。意外に思われるかもしれませんが、私の体重は普段から幕内平均体重よりも、若干少ないんですよ。

 とにかく、過酷な時間ではありましたが、今回の休場期間はアッという間に過ぎ去りました。それでも、断食効果もあって、おかげさまでケガの具合も徐々に回復してきています。近いうちに、元気な姿をお見せできればと思っています。

 さて、秋場所では大関・豪栄道が素晴らしい相撲を披露し、見事な初優勝を飾りました。本当におめでとうございます。

 もともと、豪栄道は若手の頃から力のある力士でした。初土俵からおよそ2年半後、2007年秋場所で入幕を果たしたときには、すぐにでも大関になるのではないか、と期待されていたほどです。

 ところが、度重なるケガに泣かされて、なかなか出世できませんでした。結局大関に昇進したのは、2014年の秋場所。入幕から7年もかかりました。

 以降も、とんとん拍子とはいかず、勝ち越すのがやっと、という成績が続いていました。部屋での稽古では断トツの強さを見せつけていると聞いていたので、先の名古屋場所(7月場所)で負け越したときには、「いったい、どうしたのだろう?」と、不思議に思いましたね。

 それでも8月の夏巡業では、懸命に稽古に励む豪栄道の姿がありました。きっと、心に期すものがあったんでしょうね。そしてそれが、秋場所の輝かしい結果につながったのだと思います。

 私から見ると、豪栄道はいいところがたくさんある力士です。力士向きの向こうっ気の強さがあります。天性の相撲勘のよさも持ち合わせています。そのうえで、人に感謝できる、素直な気持ちを持っている点もいいですね。縦社会である相撲界ではそういうところも重要なんです。非常に人間性に優れた彼は、男が惚れる男なんじゃないかと思います。

 少々不器用なところもあって、今までは思うような成績が挙げられなかったかもしれませんが、今回の優勝でひと皮も、ふた皮もむけて、これからますます活躍してくれるのではないでしょうか。そんな"新しい"豪栄道が見られることを、私も大いに期待しています。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki