オートファジー研究が画期的な理由は(東京工業大学HPより)

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 日本中が大隅良典・東京工業大栄誉教授のノーベル医学生理学賞受賞に沸いている。飢餓状態に陥った細胞が自らのタンパク質を食べて栄養源にする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明した功績が評価されての受賞となった。

 この研究自体は専門家の間で大いに注目されており、だからこそ今回の快挙につながったわけだが、実は一般向けのサプリメント解説書でも同研究について言及されていることから、話題を呼んでいる。今年2月に刊行されたサプリメント解説書『コンビニで買える「やせるサプリ」「若返りサプリ」』の中には、以下のような記述がある。

〈最近になって注目を集めているのは、体内の細胞レベルでも、他の動植物のユニットを直接再利用していることがわかったことです。これはオートファジーと呼ばれ、もともと酵母菌で見つかった作用でした。(中略)その分子レベルのメカニズムは東京工業大学の日本人科学者によって発見されましたが、近いうちにノーベル賞をとるといわれている大きな業績です〉

 まるで大隅栄誉教授のノーベル賞受賞を「予言」していたかのような記述だが、オートファジー研究のどのような点が画期的なのだろうか。同書の著者である村上篤良氏(「一般社団法人 最先端医科学研究会」代表)は、こう解説する。

「もともと細胞には、侵入してきたバイ菌や異物をファゴソームという消化用の袋に閉じ込めて分解酵素と混ぜることで消化分解し、外敵から身を守ると同時に細胞内でアミノ酸などの栄養素を取り出して利用する仕組みがあります。オートファジーは、その現象が外敵だけではなく、細胞自身の持つタンパク質などの分解・再利用にも使われていた点が驚くべき発見だったわけです。

 この発見のずっと以前から、酵母菌は食物を与えなくてもある程度の期間、生き延びられることが知られており、“不老不死の菌”として研究されていました。オートファジーが発見されたことで、人間の細胞内でもタンパク質やアミノ酸の再利用システムが機能していることがわかり、医学や栄養学を根本から見直すきっかけになっています」

 村上氏は同書で、生命が進化の過程でそうした機能を獲得したということは、それだけ生物の身体を形作るタンパク質やアミノ酸の合成が身体に大きな負担となるからだと指摘し、同書のテーマであるサプリメントの活用が人間の健康維持に重要であることを説いているのだが、同時にこれはある社会的テーマの再考を促す事実であると警告する。

「これだけバイオテクノロジーが発展しているにもかかわらず、なぜか学校では教えていないことですが、実は人間の遺伝情報を記録しているDNAには2つの作られ方があります。原子や分子を一から組み立てて作る『デノボ合成』というやり方と、食物として摂取した動物や植物のDNAユニットを分解して再利用する『サルベージ経路』というやり方です。

 赤ちゃんのうちはデノボ合成が8割くらいありますが、成長するにしたがってサルベージ経路の割合が増え、70歳くらいでほぼ0になります。つまり、人間は食べた動植物のDNAを再利用しなくては生きていけなくなるのです。オートファジーという機能があるのと同じ理由で、たんぱく質やアミノ酸を合成することは、生物にとってとてもエネルギーを大食いする大変な作業だからです」(村上氏)

 それ自体は人体の優れた機能であるが、心配もあるという。村上氏が続ける。

「近年、懸念されている遺伝子組み換え食品が本当に人間の遺伝情報に影響を与えないかという問題です。これまでの科学的調査では、そうした影響はないとされていますが、食べた動植物のDNAが人間のDNAの材料になっているのですから、影響がないのは“たまたま”かもしれません。人間に取り込まれたら病気を引き起こすような食品中のDNAが、消化不良で塊のまま、荒れてデコボコの腸壁から吸収されてしまう可能性もないとはいえないのです。

 例えばがん細胞は、遺伝情報のバグによって変異した人間自身の細胞です。大隅教授の快挙を祝福するだけで終わらず、この機会にそうした問題にも目を向けるきっかけになればいいですね」(村上氏)

 いつかの“割烹着リケジョ”の反省があるのかないのか、テレビや新聞は大隅氏のヒゲが似合っているとか、研究仲間が「七人の侍」と呼ばれているなどとお祭り騒ぎをしているが、せっかく一般には知られていない専門分野に注目が集まったのだから、我々の生活や健康に関わる問題に広く光を当ててもらいたいものだ。