さあ、ラグビーシーズン本番である。トップリーグ同様、大学ラグビーも熱戦が繰り広げられている。秋晴れの2日の秩父宮ラグビー場。低迷打開を図る"新生ワセダ"は、対抗戦グループで難敵の筑波大と対戦し、2季ぶりの白星を挙げた。

『王道をゆく』

 これが、早稲田の試合テーマだった。山下大悟新監督によると、ラグビーの王道とは、「スクラム」と「ブレイクダウン」「チームディフェンス」の3つを指す。過去5季の対抗戦で2勝3敗と分が悪い筑波大には、接点、すなわちブレイクダウンとディフェンスでやられていた。だから、ここにこだわった。

 勝負の鉄則はまず、相手の強みを消すことである。特にブレイクダウンでは、ポイントに入る、入らないの判断がよかった。体を張る。さらに「レッグ・ドライブ」。ボールキャリアーが足をかく、サポートプレーヤーも前に出る。筑波を圧倒した。

 早稲田主将のロック桑野詠真(えいしん)は試合後、こう言った。つぶれた右耳に汗が光る。

 「王道の部分を意識していました。そこで筑波にしっかりと戦えました。試合的にも、点数的にも、いい結果になりました」

 特にグラウンドで躍動したのが、早稲田の新しい力である。先発には、5人もの1年生が並んだ。正確なパス、キックでゲームをうまく運んだのが1年生スタンドオフ(SO)岸岡智樹だった。

 冷静さが光る。早稲田が前半30分過ぎ、連続攻撃を仕掛けた。ラックから右。ウイング本田宗詩(そうし)からのパスが乱れる。後ろに戻って拾った岸岡だが、慌てず、焦らず、右サイドライン際に張っていた長身フランカーの加藤広人にオープンキックを蹴った。

 SO岸岡が説明する。

「14番(本田)がボールを持って前にいくはずだったんです。でも、ぼくたちのコミュニケーションミスでボールを下げてしまいました。(外側に)ハイボールに強い加藤さんがいたので、そこを狙ったんです。まあ、イチかバチかのプレーの選択なんですけど、(相手の布陣は)よく見えていました」

 この"キックパス"を加藤がジャンプ一番、ナイスキャッチして、そのまま右中間に躍り込んだ。技ありのトライ。約6500人の観客が大きくどよめいた。

 ゴールも決まって、17−0となった。勝敗の帰趨はほぼ固まった。岸岡は笑顔で続ける。

「結果論ですけど、よかったなあと思います。いい判断ができました。うれしいです」

 SO岸岡は高校日本一となった東海大仰星高出身で、パス、キック、ランと3拍子そろった選手として知られていた。山下新監督に誘われて、早大進学を決めた。学業も優秀。自己推薦で教育学部に入った。

 試合前は緊張したそうだが、「始まれば、落ち着いてプレーができました」という。額に汗の粒を浮かばせながら、おじさん記者の質問に丁寧に対応する。先発に1年生が5人も!?

「1年生同士なら、遠慮せず言い合えます。1年生なので、"思い切って頑張ろう"みたいな結構ラクな感じで試合に臨めました」

 記者の笑いを誘ってから、真顔でこう付け加えた。

「先輩たちが体を張ったプレーで相手を上回ってくれたので、1年生の緊張がほぐれたんだと思います」

 体作りの成果だろう、スキルを活かすフィジカルもアップした。体重は入学時から10kg増えて84kg。あこがれの早稲田の寮生活にはもう慣れたそうだ。「標準語をしゃべっています」と関西弁のアクセントで言う。朴訥(ぼくとつ)とした風情。

「関東は、関西人としての憧れみたいなものがあったんです。目標? それは帝京に勝つことです」

 他の1年生をみれば、スクラムハーフ齋藤直人(桐蔭学園)もいいテンポの球さばきをみせた。フランカー柴田徹(てつ/桐蔭学園)は地味ながら、堅実なタックルを繰り返した。フルバック梅津友喜(黒沢尻北)も無難なキック処理、的確なキックを蹴った。センターの中野将伍(東筑)は186cm、100kgの体を活かし、力強いランをみせた。

 非凡な才を発揮した中野の顔には充実感があふれていた。夏合宿の帝京大戦で痛めた右ひざのケガからの復帰戦だった。
「どちらかというと、今日はワクワクした感じでした。不安とかありませんでした」

 結局、46−12だった。1年生の活躍について聞かれると、山下監督は表情をゆるめた。

「体作りをしているので、もともとあったテクニックが試合で発揮できているのだと思います。本当のスキルになってきた。あとは度胸もある。ネガティブなものがあまり身についてないので、相手に対して果敢に戦ってくれます」

 ネガティブな部分とは、"負け癖"ということだろう。早稲田は2008年度を最後に大学日本一の座から離れている。そこで一新。2002年度の大学日本一の時の主将だった山下新監督が再建に乗り出した。

 山下監督ほか、ストレングス強化担当などの約10人のフルタイムのコーチをつけた。寮の食事の運営を変え、栄養士も常駐してもらっている。学生には、「トレーニング」「リカバリー」「ニュートリション(栄養摂取)」の3つを義務付けている。ついでにいえば、スポンサーもアディダスからアシックスに変わり、ジャージも変わった。

 そのうえで、勝ち方を肌で知る山下監督は綿密な計画と準備を立て、日々、ハードワークを課している。ラインアウトからのモールディフェンスやプレーの精度などの課題も多々見えたが、どうしたって低迷打破のにおいがするではないか。
 山下監督は短く言った。

「計画どおりですね。もっともっと強くなりますよ。まだまだ」

 王者帝京との対戦は11月6日(秩父宮)である。もちろん、目先の一戦、一戦ではあるが。山下監督はカチッと『打倒!帝京』に照準を合わせている。

 もっとも、他の大学も帝京大の連覇ストップに燃えている。今季の大学の勢力図をみると、フィジカルと個々の強さで群を抜く帝京がひとつ抜け出し、日本代表勢を多数抱える東海大が追い、これを対抗戦の早稲田、明治、慶応、リーグ戦の流経大、"外国人パワー"の大東大などがつづいている構図か。

 今季の大学ラグビーの特徴としては、早稲田、慶応などほとんどの大学でストレングス強化の専門コーチを付け、フィジカルアップを図っていることである。これは帝京と戦う際、戦法、戦術はともかく、まずは接点である程度戦えないとラグビーは成立しないという反省に立っているからだろう。

この日、慶応は成蹊大に大勝し、2連勝とした。目標は当然、大学日本一である。「打倒!帝京」の道筋を聞かれると、金沢篤ヘッドコーチはこう言った。

「自分たちのスタイルを出して、ディフェンスで相手にプレッシャーを与えることができるか。まずはフィジカルでどれだけ対抗するか、上回れるか。プラス運動量でチャレンジしていきます」

 大学8連覇に向けて帝京が走るのか。それとも、他大学が連覇にストップをかけるのか。綿密な準備とハードワーク。その積み重ねと激しい闘いが、大学ラグビーのレベルを押し上げていくことになる。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu