吉原に建つ吉原神社。吉原遊郭の遊女による信仰を集めた倉稲魂命(うがのみたまのみこと)を御祭神とする

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一大遊郭地として江戸時代から続き、現在でも全国有数の風俗街として有名な吉原に遊郭史や赤線史などの専門書店「カストリ書房」がオープンし話題となっている。

開店させたのは出版社「カストリ出版」の代表であり、カストリ書房のオーナー・渡辺豪氏。彼がなぜ遊郭史に興味を持ったのかを前編記事(「吉原の遊郭専門書店が静かな反響『歴史的・文化的なものこそビジネスに』」)では詳しく聞いた。

しかし、どう想像しても狭い趣味の店にも関わらず、渡辺氏いわく意外なことに「来客の6割は女性」なんだそう。彼ら、彼女らは一体、何に惹(ひ)かれたのか? そこで「カストリ書房」を訪れた20人(女性7人)の来客を調査してみた。

そのうち17人は元々、遊郭や遊郭街に興味がある人々だが、入り口は様々。渡辺氏と同じく、街歩きの中で遊郭街や赤線を知り興味を持った人が10人で、うち4人は女性だ。

「どこを見ても建物が古くて、この辺を散歩するのが好きなんですよ。ちょっとアウトローな感じもあるけど、ちゃんと文化として残っているのが興味深いです。職場が近いので、こういう面白いお店ができて嬉しいですね」(20代・女性)

「出身が福岡なんですけど、子供の頃に近所にあって建物がかわいいなと思ってたんです。それで大人になって調べたらそういう場所だと知り、興味を持ちました。青森の『浅虫温泉』や大阪の『飛田新地』などは、旅行のついでに行きましたね。くたびれた雰囲気が好きなんですよ」(30代・女性)

遊郭や赤線地帯には「カフェー建築」なるものが存在する。代表的な特徴は「角がアールになっている」「壁の下部や円柱がタイル貼り」「入口が2つ以上ある」など。これらは全て1958年に売春防止法が施行されるまでに建てられた。渡辺氏によると、こうしたモダンな建築物や街並みに興味を持つ人は少なくないそう。

また、遊郭地の特徴的な地形からその文化に興味を持った女性(20代前半)も。

「元々、江戸時代の古地図とかを見るのが好きだったんですよ。それで大学の文化人類学の授業で来た時に、その名残(なごり)があるのを知ったのが興味を持ったきっかけです。性文化が地形として残っているのに人間らしさを感じたんです」

吉原には、周囲の土地とこの地を隔離するための「お歯黒どぶ」の跡地や、中を見せないように街の入り口からS字を描いた道「S字カーブ」がそのまま残っているという。

売春防止法によって遊郭がなくなり、約60年経つが、遊郭と縁のある人も訪れている。その文化を肌身で感じた貴重な存在だ。

「おばが玉の井に住んでいてね、芸者(娼婦)の置屋のババアとかにかわいがってもらってたんだよ、おばはいい顔しなかったけど。それで懐かしくて来てみたんだよ。昭和40年代から日本人はこういうのを隠そうしているけど、れっきとした文化なんだから残していかないとね」(60代・男性)

玉の井とは、現在の墨田区向島付近。かつては都内有数の私娼街として栄えた場所だ。玉の井、洲崎遊廓(江東区東陽町)など、吉原以外にも都内に遊郭や赤線は数多く存在していたのだ。

また、遊郭史とは別の角度からこの書店に興味を示した人も。元々、近所に住んでいたということもあるが、店名が気になったという。

「いろんな人がオープンのニュースをSNSでシェアしてたというのもあるんですけど、カストリって言葉が好きなんですよ。昭和を舞台にした小説とか読むと、よくカストリ雑誌とか出てくるんですけど、それを店名に付けていて、どんなものを置いているんだろうと気になって来てみました」(30代・男性)

カストリとは元々、第二次世界大戦終戦後に作られた粗悪な密造焼酎のこと。カストリ雑誌はそれにちなんで名付けられた大衆娯楽誌で、性風俗に関わるものが多かった。わずかな期間ではあったが、それも失われたひとつの文化だ。

様々な理由で興味を持ち、年齢や性別を問わず、カストリ書房を訪れる人の話を聞くことができたが、一番驚いたのはそこになんと高校1年生の女子高生がいたことだ。漫画で花魁(おいらん)の存在を知ったというが、遊郭史に興味を持ち、訪れたそう。

「吉原は3回目ですけど、中に入ったのは初めてです。いつもは外から見る感じでした。花魁を知って調べていくうちに、その文化のほうが面白くてハマりました。太夫(だゆう)さんのブログとか見たりして調べてます。凝り症なんですよね。お母さんは呆れて『好きならいいんじゃない』って言ってます。でも、家族旅行で京都に行った時は、花街だった島原に一緒に行きました(笑)」

中には「友人に言うと『悪趣味』って言われますね」(40代・男性)という遊郭史。しかし、女子高生でもハマる可能性もあるのだ。気になった人は一度訪れてみると、興味が芽生えるかもしれない。

(取材・文/鯨井隆正)