10月3日からの約10日間、サッカー界は全世界的に各国代表チームの活動期間、いわゆるインターナショナル・マッチ・ウィークに突入する。

 とりわけ2年後の2018年にワールドカップを控える現在は、各大陸のワールドカップ予選の真っ最中。そのため、世界の各代表チームはワールドカップ予選に向けたメンバーを発表し、そのニュースが世界各国のスポーツメディアを賑わせている。

 ハリルホジッチ監督率いる日本代表も、10月6日(イラク戦)と11日(オーストラリア戦)に予定されているアジア最終予選に向け、9月29日に今回の招集メンバーを発表。さっそく日本でもそのニュースが報じられ、話題となった。

 今回のメンバー発表で最大の焦点となったのは、これまで代表チームの主軸を担ってきた多くのメンバーが、現在各所属クラブにおいて出場機会を失っている点にあった。以前、ハリルホジッチ監督自らが、「所属クラブで試合に出場していない選手にチャンスはない」と公言していたからだ。

 しかし、いざ蓋を開けてみれば、ハリルホジッチ監督はこれまでとほぼ同じメンバーを招集。それだけなら驚きとは言えなかったが、今回のメンバーを招集した理由と背景を説明しているときのコメントには驚かされた。

「15人ほど海外組がいて、(各所属クラブの試合で)先発で出ていない選手がいる。普通の基準ならば呼べない。しかし、川島(永嗣)、長友(佑都)、吉田(麻也)、長谷部(誠)、香川(真司)、清武(弘嗣)、本田(圭佑)、岡崎(慎司)、宇佐美(貴史)、武藤(嘉紀)を外せば、誰が代わりに出るのか。かなり難しい。だから、このような選択をしなければいけなかった」

 さらに質疑応答では、ヨーロッパサッカーの優位性とJリーグのレベルについても言及。これまでも同じような発言は何度かあったが、ここまで自身の考えを明確かつ強く公にしたのは初めてのことだった。

 これらハリルホジッチ監督の発言は、確かに正論のようにも聞こえる。しかしそこには、現代表における重大な問題点が潜んでいることを、同時に考えなくてはいけない。

 つまり、このハリルホジッチ監督の発想でいくと、チームの中心となっている海外組からポジションを奪うためには、まず彼らと同じステージに立っているかどうかが最低条件になる。そしてそのためには、ある一定以上のランクにあるヨーロッパのクラブに移籍を果たし、そこでレギュラーを獲得する必要がある、ということになる。そこでようやく、ハリルホジッチ監督の中でプレーヤーとしてのクオリティを含めた比較がなされる、というわけだ。

 それを考えると、もはやアジア最終予選の期間中に、新戦力が主力を脅かすことは物理的にも限りなく不可能になる。現在の主軸と同じステージに立つためには、最速でも2017年1月の冬のマーケットで欧州クラブへの移籍を実現させなければならず、しかもその後には、シーズン途中の加入でレギュラーポジションを獲得するという高いハードルをクリアしなくてはいけない。

 アジア最終予選は、来年9月には全日程を終了する。指揮官のお眼鏡にかなう新戦力が台頭するには、あまりにも時間がない。

 今回のメンバー発表でハリルジャパンの未来に希望を持てなくなった最大の理由は、そこにある。消去法的メンバー選考について公言し、さらにその理由について強い口調で語ったことによって、自ら今後のチーム力アップが期待できないことを示唆してしまったからだ。

 指揮官が名前を挙げた主力の多くは、前回(2014年ブラジル大会)、前々回(2010年南アフリカ大会)のワールドカップメンバーだ。特に2010年のメンバーたちは、もはや年齢的にも伸びしろを期待するのは難しく、現状維持が精一杯と見るのが妥当。むしろ、右肩下がりの曲線を描きながら2018年ロシア大会を迎える可能性が高いという面々である。

 つまり、このメンバーに固執した時点で、今回のアジア最終予選の最中にチーム力がアップする可能性は極めて低いと判断せざるを得なくなる。これが現在成長曲線を描くUAEに敗れた理由のひとつだとすれば、さらに危機感は増す。

 翻(ひるがえ)って、ヨーロッパや南米を筆頭とする強豪国のメンバー編成のサイクルを見ると、1、2年もすれば、少なくともメンバーの2、3割が新陳代謝していることがわかる。たとえば2014年ワールドカップ王者のドイツ代表にしても、フィリップ・ラーム、バスティアン・シュバインシュタイガー、ミロスラフ・クローゼといった中心選手たちが代表を引退したこともあり、チャンピオンチームでありながら世代交代が進行中。それは、ほぼ同じメンバーで黄金時代を作ったスペイン代表も同じで、現在はロペテギ新体制となって積極的に新戦力を起用。予選を戦いながら新しいチーム作りを進めている。

 ハリルホジッチ監督の第2の故郷とも言えるフランスもそうだ。2012年から指揮を執るディディエ・デシャン監督はメンバー招集のたびに新しい戦力をテストし、長期政権の中でもなだらかなレギュラーメンバーの入れ替えを継続。これまでの約4年間、マンネリ化とチーム力の停滞回避に成功している。

 これらの強豪国に共通しているのは、必ずしも毎回ベストメンバーを招集しているわけではないという点。常にチームの伸びしろを意識し、まだポジションを獲得できるかわからないような未知数の新戦力も、意識的にメンバーに加えていることにある。

 もちろんハリルホジッチ監督の発言からすると、日本には強豪国と同じような新戦力の突き上げが存在しない、ということになるが、代表監督はそれも含めたマネジメント能力も問われる職業だ。そもそも格下相手のアジア3次予選や親善試合など、新戦力のテストの場として有効に使えたはずの試合でも、固定メンバーでチーム作りを進めていたのはハリルホジッチ本人だ。どうしても自業自得の印象は拭えない。

 ハリルホジッチ監督就任後の2015年3月19日、初めて発表されたこの時の招集リストに名を連ねていなかったのは、今回の招集メンバーでは、丸山祐市、植田直通、柏木陽介、永木亮太、大島僚太、浅野拓磨の6人。初招集の永木を含め、この中で以前から招集され続けているのはザッケローニ時代のメンバーでもある柏木と、これまでほとんど出場機会のない丸山のみ。約1年半の期間で行なったチーム作りとしては、あまりにも寂しい話だ。

 メンバー選びは代表監督の特権事項ゆえ、外野の声に惑わされないという部分も確かに重要だ。だからこそ、自身の選択の有効性を試合で証明することで周囲からの批判を抑えるしかない。逆に言えば、それができなければ、当然その職を失うことになる。

 今回の代表メンバー発表会見における指揮官の発言からは、どこかそんな覚悟さえもうかがえた。

中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi