今年の全米オープンテニスで、「錦織圭とともにベスト4に進出した日本人選手」として名を広めた選手がいる。ジュニア部門で準決勝進出を果たした綿貫陽介だ。

 綿貫は今年プロに転向したばかりの18歳。3人兄弟の末っ子で、いち早くプロとなった2人の兄とともに、幼い頃からテニス漬けの日々を送った。昨年から、国内、海外のジュニア大会でコンスタントに好成績を残しはじめ、今年からはシニアの大会にも参戦。大きな飛躍を見せ、ジュニア世界ランキングは一時、2位まで上昇した。

 プロ転向の際、サッカー日本代表・本田圭佑のマネジメント事務所であるHONDA ESTILOと契約を締結したことも話題となったが、その注目度は全米オープン後に急上昇。9月24日にウィンザーラケットショップ(東京・渋谷) で行なわれたトークイベントには、多くの報道陣が詰めかけた。

 集まったファンに拍手で迎えられ、やや緊張気味にマイクを持つ姿は初々しい。司会者とのやりとりで時折見せる笑顔にはまだ少年の面影さえ残る。しかし、快挙ともいえる全米オープンベスト4の結果について質問されると、表情を引き締め、「残念でした」と切り出した。

「ジュニアの大会に出るのは今年で最後なので、何としても優勝したかったです。ジュニアグランドスラムのタイトルを1つは取りたかったですね。僕は、『今まで日本人選手が実現できなかったことを成し遂げたい』という思いがモチベーションになっています。何年後になるかはわかりませんが、トッププロが集まるグランドスラムで優勝したいですね」

 錦織圭も成し遂げていない大きな目標を掲げる綿貫。JITC(自由が丘インターナショナルテニスカレッジ)とグローバルプロテニスアカデミー(埼玉)を拠点に磨き上げた武器は、本人が「210kmくらい出ます」と語るサーブと、力みのないフォームで左右に打ち分ける正確なストロークだ。181cmと日本人としては長身ながら、コート深くから粘り強くボールを返すスタイルを信条としている。

「海外に行くと、僕くらいの身長の選手はたくさんいます。むしろ小柄といっていいかもしれません。特にシニアの大会ではパワーがある選手が多いので、僕もボールを必死に追わなければ勝機はありませんから」

 理想とするのは、レイトン・ヒューイット(オーストラリア、元世界ランキング1位)。身長がほぼ同じということもあるが、コートを駆け回ってボールを拾い続けるスタイルをものにしたいと話す。

「今後の課題はパワー」という綿貫の体重は、現在60kg台前半。以前から線の細さに自覚はあったが、今年に入りシニアの大会に出場するようになってパワーの差を実感することがより多くなった。それを埋めるためにも、今年の冬は体重を増やすことに重点を置くというが、ひとつだけ悩みの種があるようだ。

「今までも、体を大きくしようとは思っていたんですが、太りにくい体質で......。でも、プロで活躍するためにはそうも言ってられませんよね。1日5食、大好きな寿司やすき焼きもガンガン食べたいと思います。あ、もちろん栄養を考えてですけど(笑)」

 持ち前のストロークにパワーがつけば、世界の強豪たちとも互角に渡り合えるはず。「自分から積極的に攻撃を仕掛けられるように進化していきたい」と話す彼にとって、身近にいる世界トップクラスの錦織は、刺激を与えてくれる貴重な存在だ。サポートメンバーとして帯同した先日のデビスカップでは、少しでも世界の空気を知ろうと貪欲にアドバイスを求めたという。

「リオ五輪、全米オープンでの活躍は、もう『すごい』の一言。デビスカップでは、錦織選手の隣でダニエル太郎選手の試合を見ながら、試合展開によってどんな対応をするか、どう気持ちを持っていくかなど、貴重なアドバイスをもらうことができました」

 カテゴリーが違うとはいえ、同じ全米オープンで快進撃を見せた錦織と綿貫。錦織がリオ五輪で銅メダルを獲得したこともあり、東京五輪の話を聞かれることが多くなったそうだが、「4年後の話ですし、まだ具体的なイメージはできないというのが本音です。結果を残せばついてくるものと考えて、とりあえずは目の前の試合に集中して戦っていこうと思います」と、本人は周囲に流されず着実に先を見据えているようだ。

 ダニエル太郎や西岡良二といった若手の成長が著しい日本テニス界。新たな星として現れた綿貫が、プロの世界で羽ばたくことを期待したい。

和田哲也●文 text by Wada Tetsuya