和紙のような紙の上に書かれた、まるで蕗谷虹児か高畠華宵の挿絵に描かれた文字のようなタイトルバック。まことに美しい。作り手の神経の行き届き方がわかる。これを見ただけで筆者は大いに期待した。
世に知られた明治の文豪・夏目漱石(金之助・長谷川博己)の若き日に、貴族院書記官長の父・中根重一(舘ひろし)の勧めで彼と見合い結婚をした妻の鏡子(尾野真千子)は、お嬢様育ちで明るくおおらかな性格、大口開けて笑う姿を夫は愛でる。
だが、金之助は熊本の第五高等学校に赴任し、気難しく神経質な夫との慣れない鏡子の生活が始まる。流産という試練の後で、孤独に耐えられず自死しようとして助けられた彼女の枕元で、金之助が呟くセリフが素晴らしい。自分は赤子の時に養子に出され、養父母にほっぽかれたこと。鏡子は東京の実家に帰るといつでも温かく迎えてくれる家族がいるので羨ましい。自分は将来小説を書きたい。淡々と語る長谷川博己、無表情に近いが名演技である。尾野もいい。
弁当を忘れて出勤する金之助を追いかけて、鏡子が夫に追いつく場面の竹藪の見事さ、結婚前に人力車で金之助と鏡子がすれ違う時の街の佇まいの洒落たショット、熊本のだだっ広い借家の廊下や畳のリアリティなど見事というしかない。連載はたった4回で残念だが、脚本の池端俊策、演出の柴田岳志の功績、大ヒットである。久々に土曜ドラマが待ち遠しくなる作品である。(放送2016年9月24日21時〜)

(黄蘭)